初日のハイライトは、ウクライナのゼレンスキー大統領の登場だった。
1千人以上が入る一番大きな会場はほぼ満席になり、警備関係者らしき人々がびっしりと並んだ。現れた大統領は、黒のシャツにカーキのズボン姿。紹介される間も厳しい表情を崩さぬまま、演題に立った。
「ヨーロッパを巻き込んだ戦争はまもなく2年を迎える。クリミア併合からは10年になる。そして、今年になっても我々は血を流し続けている」
会場に集まった各国首脳や企業トップに対し、これまでの支援やロシアへの制裁への協力に謝意を示しつつ、欧米からのさらなる支援を求めた。
これまでも、国連総会や各国の議会などでウクライナへの軍事支援などを求めてきた大統領だが、世界中の企業トップがここまで一堂に会する場で直接話をすることは、まずなかっただろう。
「平和をもたらし、ウクライナが復興するためには、あなた方の投資が必要だ。強い経済を立て直すために投資をしてくれれば、雇用が生まれ、国外に逃れた人たちも戻ることができる」と、ウクライナへの投資を呼びかけた。
今回、ウクライナはダボスに多くの政府高官やビジネス関係者を送り込んでいる。長期化する戦争で欧米諸国には「支援疲れ」が起き、イスラエルとパレスチナ自治区のガザ地区を実効支配するイスラム組織「ハマス」の軍事衝突に国際社会の注目が移っている。改めて支援の必要性を訴えながら、戦争で疲弊した経済の回復のために海外企業から投資を呼び込みたいという切実な思いが見えてきた。
「我々の経済のために立ち上がってほしい。私たちはあなた方の安全保障のために戦い続ける」
そう演説を締めくくると、会場では長いスタンディングオーベーションが起きた。
中国とEUの「コントラスト」
この日は、ほかにも興味深い演説があった。
中国の李強(リーチアン)首相と、それに続いたEU(欧州連合)のフォンデアライエン欧州委員長の演説だ。
李首相の演説は、中国経済やAI規制、信頼醸成など、中国の推し進める政策を箇条書きにしたように、ぎっしりと詰まった内容だった。
中国は「信頼を重んじる文化」があると、今年のダボスのテーマ「信頼の再構築」に共鳴しながら、中国経済の停滞への懸念を払拭しようと、世界経済に占める中国市場の大きさや、回復を強調した。
多くの聴衆が聴きたかったに違いない論点の一つが、中国が考えるAI開発のあり方だろう。この点を問われると李首相は、「AIは利便性とともにリスクやセキュリティー、倫理の問題も引き起こす諸刃の剣だ」と指摘し、「AIは人間中心で、あらゆる人の利益になるものでなければならない」と語った。
中国では政府のAIを使った様々な人権侵害が指摘されてきたことを考えると、皮肉に聞こえる内容でもあった。
李首相はさらに、AI規制をはじめとする課題について、「誰がルールを作るのか?」と問いかけた。「各国の利益が守られるよう、多国間主義を進めるべきだ」という主張は、アメリカや欧州への牽制に聞こえるものだった。
そんな李首相の演説を前方の席で聴いていたのが、EUのフォンデアライエン欧州委員長だ。
フォンデアライエン欧州委員長は登壇すると、ロシアのウクライナ侵攻に対し、欧州各国がエネルギー問題などに一体となって対応してきたことを称え、さらなる支援に応じるように呼びかけた。
そして、EUが作った世界初の包括的なAI規制法の意義を強調しながら、欧州のAI人材の豊富さと競争力の高さは中国以上だと誇り、欧州の価値観をオンラインでも守ると宣言した。
「民主主義を強化し、リスクや干渉から守ることが、欧州の永続的な義務だ」。そこに見えるのは、ロシアでも中国でも、そしてアメリカでもない、ヨーロッパの価値観だ。同じものを見ながら、その先にある世界の違いは大きい。そう感じた演説だった。