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食を変えれば地球を守れる 活動歴は7歳から、変革の牽引役に国谷裕子が聞く

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国谷裕子さん(左)のインタビューを受けるEAT財団創設者グンヒル・ストールダーレンさん=2020年1月23日、スイス東部ダボス、EAT財団提供、ジャバド・ムシュタク氏撮影

■「環境負荷の多くが飲食から」に衝撃

国谷 私はSDGsについて様々な報道をしてきました。温暖化危機への対策は、SDGsの17の目標を達成するうえで、きわめて重要です。食料システムの変革に取り組んでおられますが、医師であるあなたが、なぜ食料システムの変革に携わることになったのですか。

ストールダーレン 私はノルウェーの田舎で育ち、自然の中が遊び場で、動物たちが最愛の友でした。7歳のときに人類がいかに地球を壊してきたのかを知り、何かをしようと決意しました。7歳で最初の抗議デモをしました。熱帯雨林保護の資金集めもしました。医師になると決めたのは、尊敬されるし、発言力が必要だったから。「科学的、学術的な知識や経験があれば、耳を傾けてもらえる。環境や動物保護について話をできるようになるかもしれない」。そう考えました。

そのうちに、ペッテル・ストールダーレン(北欧の「ホテル王」として知られる)と結婚し、私の温暖化危機との関わりが始まりました。ペッテルに引き入れられて、私は北欧最大のホテルチェーン「ノルディック・チョイス・ホテルズ」の役員になりました。

そこで私は、環境負荷がどこにかかっているのかや、ホテル業界が直面する持続可能性の課題について資料を読み始めたのですが、70%もの環境負荷が食料と飲料に由来するとした報告に行き当たり、衝撃を受けました。医師である私にとって、食には栄養不足や過多、肥満、食生活による病気などの問題があることは当然わかっていました。でも、気候にも問題を起こし、何よりも森林破壊を招いたり、水質汚染によって生物多様性や土地利用に影響したりしていることを、私は知りませんでした。

それが2012年ごろの話です。人々、地球、そして会社にとって何が役立つのかついて、私は会社の内部指針を作ろうとしました。食がもっともっと大きな問題であることに気づいたのです。

国谷 たしかに大きな問題ですね。

ストールダーレン 食は不平等の最大の原動力です。私たちは食べ物の3分の1を捨てています。私は食や食料生産についてもっと知識が必要であると気付くと同時に、ビジネス界や政策立案者に加わってもらって解決策を探そうと考えるに至りました。それをどう実現していくかが、今この時代のもっとも大きな課題です。

誰も話し合わないし、皆が自分の分野に閉じこもっている。環境科学者は医師に話しかけないし、食料生産者や農家との出会いも接点もない。それをなんとかしようと思ったことが、EATを立ち上げるきっかけになりました。

そこで私は地球環境問題研究の第一人者とされる科学者ヨハン・ロックストローム教授に声をかけました。食料や健康、環境について話すために人を集めましょうと。そして1年もたたないうちに、最初の「EATフォーラム」が実現し、元アメリカ大統領のビル・クリントン氏が招きに応じ、分野を越えて400人の代表が28カ国から集まりました。いろんな人たちを結びつける最初の取り組みでした。

国谷裕子さん(手前)のインタビューを受けるEAT財団創設者グンヒル・ストールダーレンさん=2020年1月23日、スイス東部ダボス、吉武祐撮影

■「地球を守れる食生活」を考えた

国谷 今の食料システムがどれだけ悪いのかということについて、具体的に説明していただけませんか。

ストールダーレン 食料システムは、世界の温室効果ガスの4分の1を出しています。炭素だけでなく、メタンや窒素酸化物もです。すべての活動を網羅して森林破壊も含めて考えるなら、一つの部門としては最大の排出源です。もし、SDGsとパリ協定のゴール(産業革命前からの温度上昇を1.5度に抑える)を成し遂げるチャンスがあるとするなら、食料システムは炭素を大地にためる機能を果たす「カーボンシンク(二酸化炭素吸収源)」にならないといけません。植林をして、排出をゼロにしなければならないのです。

食糧システムは、新鮮な水の70%を使い、窒素とリンの(肥料への)使用で汚染源にもなっています。土地の利用を変えてしまう最大の原因です。つまり、一つの部門で最も大きく環境を破壊しているのです。

健康の面でも、一つの部門としては現在、若年死や病気の最も危険な要因になっています。栄養障害も大きな問題です。栄養不足、ビタミンAなどの微量栄養素欠乏、体重過多、肥満を合わせると、地球上で3人に1人は何らかの栄養障害の影響を受けています。

国谷 ロックストローム教授が共同議長を務め、科学的分析をもとに地球と健康の両方にやさしい食を提唱した「EATランセット委員会」の報告書「持続可能な食料システムの視点から見た健康的な食事」(Food in the Anthropocene:the EAT-Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems)を読みました。そのなかで提案された食事がありますね。私たちが今食べている食事とまったく違っていますね。

「健康な食事」モデルのイラスト。EATランセット委員会の報告書の概要版に掲載された=EAT財団提供。報告書「持続可能な食糧システムの視点から見た健康的な食事(Healthy Diets From Sustainable Food Systems)」の全文は、eatforum.org/eat-lancet-commissionから見られる

ストールダーレン 地球にやさしい食事とは、おばあちゃんがよく食べていたもの、つまり人間が食べ慣れていたものに近いです。半分は野菜と果物で、それにマメやナッツなど植物由来のたんぱく質、少量の乳製品、そして卵、魚、シーフード、肉がほんの少しです。

EATランセット委員会では基本的に、科学者は健康のために最も効果的な食事を第一に考えました。長生きするためには何を食べるべきかを考え、栄養学、疫学などの研究を基に食料を分類しました。

たとえば、赤身肉は1日最大28グラムです。たんぱく質は他のものからとることができるので、肉は必要ないからです。委員の科学者たちは、それをモデル化するために中間値の14グラムにしました。すべての食料グループについて同じようにモデル化しています。

私たちは、2050年に地球に住むと推定される100億人がこの健康食を食べた際に、それを地球が許容できるかどうかについて、科学者たちに聞いてみました。その結果、可能であるとわかったのです。

国谷 農地はもう増やせないということですよね。

ストールダーレン 今ある農地だけを使わなければなりません。私たちは同じ面積で、より多くの人々のために、より多くの食料を生産し、海洋に食料源をより求めなくてはなりません。

しかし、私たちが食料生産を持続可能なやり方に変え、再生型の農業に改善し、自然、動物、生物多様性を守って健康と栄養を改善すれば、すべての生物の生存環境を改善できるのです。

EAT財団が毎年ストックホルムで開く「EATフォーラム」=EAT財団提供、ヨハン・リグレル氏撮影

国谷 EAT財団の大きな成果の一つは、食について科学的な枠組みをつくって、EATランセット委員会の報告書を出したことですね。そしてこの報告書を手に、あなたはダボスにいらっしゃっています。もちろん世界中を飛び回っておられますが、特にダボスでは実際にどのような活動をしていますか。ここに来られる理由は何ですか。

ストールダーレン 4年前から毎年、ダボスに来ています。そしてWEFのグローバル・フューチャー・カウンシル(各界の専門家が持続可能な社会へ向けた変革を話し合う委員会)の食料安全保障・農業部門に招かれました。食料システムについてかつては誰も触れませんでしたが、今は皆が議論しています。

国谷 WEFは今回のダボス会議に合わせて、食についての初めての包括的な報告書「食料システム転換を促進する」(Incentivizing Food Systems Transformation)を発行しましたね。EATとWEFの食料関係の部門は連携していて、互いに協力しているわけですね。

ストールダーレン EATランセット委員会は、この世界的な枠組みをそれぞれの土地や文化に適応させることが必要だと明確に言っています。日本では、ブラジルやノルウェーとは全く違った食事になるでしょう。ですから、WEFとEATの協力で今やろうとしているのは、世界各地で小規模なEATフォーラムを開き、その地域ですべてのステークホルダー(利害関係者)を集めることです。農家、研究者、投資家、ビジネス界、料理人、そして政策立案者たちが、どう協力するかを話し合うのです。

温室効果ガスの排出は、2020年末には減少に転じなければなりません。10年の間に治すのです(注:早ければ2030年に産業革命前からの温度上昇が1.5度を超えるという報告があり、そのためには2020年中に排出が減少に転じなければならないという考えが広がっている)。問題についてではなく、解決策とそれに向けた行動の約束を話し合わないといけないのです。

国谷 ここダボスで指導者たちに理解を広げようとしているわけですね。農業関係者との関わりはどうですか。

ストールダーレン リーダーたちが会いに来てくれるようになり、理解が進み始めています。でも、私はまだまだ速さが足りないと心配しています。漸進的な変化ではなくて、急激な変化が必要です。やらなければならないことは恐ろしいほどたくさんあり、変化を公正にもたらすこともとても重要です。

農家はそこに中心として入り、議論のテーブルにつかなければなりません。ダボス会議という場があることで、彼らも関わっています。私たちは世界農業者機構(WFO)も話し合いに巻き込んでいます。

EAT財団が毎年ストックホルムで開く「EATフォーラム」で、聴衆に語りかけるグンヒル・ストールダーレンさん=EAT財団提供、ヨハン・リグレル氏撮影

国谷 この運動をさらにスピードを上げて広げるために、今後はどのような計画や戦略を持っていますか?

ストールダーレン ストックホルムで毎年開いているEATフォーラムの一つの目的は、どうやって食料システムの変革に金融的な支援をしていくか、投資先を変えていくのかです。EATの主な役割の一つは、科学界を取り込んで新しい根拠を世に出し、知識のギャップを埋め、利害関係者、ビジネス界、政策立案者たちと一緒にできる行動に速く変えていくことです。

国谷 食料の生産、加工、消費のそれぞれに問題があり、つまり供給網と食料システムのすべてに問題があるわけですね。どこか特に集中して力を入れようと思っている部分はありますか。

ストールダーレン 私たちはこれまで、どれも平等に力を入れようと言ってきましたが、一つ入り口を選ぶとしたら、それは食生活を変えることだと思います。それが、生産の仕方の転換を進め、食料廃棄にも影響するからです。生産を変えることは、農業の現場に下りてきて、再生型の生産や土壌を守る方法の改善などの機会を創出するのです。すべてがつながっているから、私たちは食卓を変えることが世界を変えると信じているのです。

国谷 しかし、何を食べるかというのは、感情的になりやすい問題ですよね。

ストールダーレン 選ぶ自由は持つべきだと思っています。それが今はありません。誰にでもアクセスしやすく、安くて便利で健康によい食事は、大部分の人たちにはありません。だから、病気や生涯にわたる健康問題をもたらし、親より若くして死ぬような食事に、子どもたちをさらすべきではないのだと、人々に理解してもらわなくてはいけません。

私たちは食料システム経済の現状を調査する委員会を立ち上げているところです。最初の報告は2021年に国連が開く予定の食料システムサミットに合わせて出ます。現在はどの政府も、食の何が負担になっているのかを見ていません。ハンバーガーやコーラの値段は、我々が実際に負担している金額ではなく、健康面の害、気候、環境汚染などにつながっています。何もしないコストと、行動をするコストを比べて考える必要があります。

国谷 つまり、社会的なコスト、環境へのコストを考えるということですね。

ストールダーレン その通りです。住みたい地球をつくるためには、実際に協力するよう人々を結びつけることが必要だと強く信じています。食は私たち皆に影響することですし、SDGsのすべての目標に関係しますから。若者たちはすでに温暖化対策を訴える街頭デモに繰り出していますが、その課題と解決において食がどれだけの部分を占めるのかについてはまだ訴えていません。食とは、自分の健康と地球の健康のために毎日下す最も重要な判断です。そこには多くの「ウィンウィン」があります。おいしくなりうるのです!

※このインタビューは今年1月、スイス東部ダボスで開かれた世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)で行われました。