「AIが『ヒロシマ』を引き起こすのを見たくない」
1月18日に登壇したオープンAIのサム・アルトマンCEOは、このテクノロジーの可能性の大きさについて語りつつ、「テクノロジー自体が非常に新しい。多くの人が生産性を向上させる使い方を見いだそうとしているが、限界も理解している。システムは時に正しく、創造性にあふれてもいるが、大間違いを犯すこともある」とも話した。
セールスフォースのマーク・ベニオフCEOも「我々はテクノロジーが非常に間違った方向に行った例を見てきた。私たちはAIが『ヒロシマ』を引き起こす瞬間を見たくない。だからこそいまの時点でAIの管理のあり方や我々の根本的な価値観とはどんなものかを明確にするために、しっかり考えておく必要がある」と、慎重に扱っているという姿勢を強調した。
AI規制、注目された米欧中の立場
AIは日々進化しており、過度の規制や、規制が緩すぎるために起きる弊害を予測するのは難しい。どの程度のどのような規制が必要なのかについての考え方は、アメリカとヨーロッパでも異なり、中国とはさらに根源的な溝がある。
AI規制のあり方を議論したセッションでは、欧州委員会のヨウロバー副委員長が規制の重要性を強調し、政治合意したばかりのEUのAI規制法の成果を語ると、司会をしていたアメリカのコンサルティング会社「ユーラシアグループ」社長で国際政治学者のイアン・ブレマー氏が「目をつぶっていてもヨーロッパ人の議論だとわかる」。ヨウロバー副委員長がぶぜんとした表情を見せた瞬間もあった。
これに対してホワイトハウス(アメリカ政府)のアラティ・プラバカー科学技術政策局長は「我々とEUの間には多くの共通する価値観がある」とフォロー。「AIは私たちの時代で最も強力なテクノロジーだ。リスクを考慮し、十分に安全で信頼できる確固とした土壌ができれば、気候変動や健康、福祉の向上、教育分野など様々に使える。AIなしにはどうすることもできない課題ばかりだ」と語り、IT企業と議論を重ねていることを強調した。
一方、巨大な市場が広がり、多くの企業が進出を望む中国をどう考えればいいのか。このセッションには中国からの登壇者はいなかったが、シンガポールのジョゼフィーン・テオ大臣(コミュニケーション・情報)は「中国政府はAIの扱いについて、かなりオープンだ。開発者も政府の方針をよくわかっている。AIが企業に対して使われるものであればそこまで厳しくない。ただ、個人や消費者、社会に対して使われるものだと多くの条件が課される」と「代弁」し、中国と一緒に議論していくべきだと語った。
これに対してヨウロバー副委員長は、対話は重要だと認めつつ、「中国はAIを社会統治のために使おうとしている」と、中国とは一線を画すという姿勢を明確にしたのが印象的だった。
プラバカー科学技術政策局長は、「AIの規制や統制のあり方を決めていく過程は、(政府の)トップダウンではなく、中小企業、市民社会、消費者団体、労働組合、学会などあらゆる関係者が関わる必要がある」と強調した。
「船に乗り遅れてはいけない」
一方の業界側はリスクへの配慮を示しつつ、「船に乗り遅れてはいけない」という意識が強く見える。当然ながら、CEOもAIの利用に積極的な発言が多い。
アクセンチュアのジュリー・スイートCEOは、Eメールが登場した当時、かつて働いていた職場でさっそく使おうとすると、メールにファイルを添付することを禁じられたという話を引き合いに出して、こう語った。
「私たちの従業員はAIを使いたがっている。適切な安全策を講じて導入するにはどうすればいいのか、まずは学ぶためにやらねばならないことが非常に多い。このシステムを使える人とそうでない人の最大の違いは、自分で学んでいるかどうかだ」