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AI搭載の「自律型兵器」はどう進化したのか 殺人ドローンの原点とされるあの兵器

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
米ノースダコタ州デビルズレイク近くでは、シールドAI社の「V-Batドローン」3機がテスト中だった
米ノースダコタ州デビルズレイク近くでは、シールドAI社の「V-Batドローン」3機がテスト中だった。「hivemind(ハイブマインド)」(集合精神)と呼ばれるプログラムで、自律飛行と群飛行の両方が可能になる。殺人ドローン群は近く、世界中の戦場で標準装備になるとみられている=2023年6月26日、Erin Schaff/©The New York Times

殺人ドローンの群れがまもなく、世界中の戦場で標準装備になりそうだ。このため、その使用をどのように規制するか、あるいは規制すべきかどうかをめぐる議論が白熱し、いずれ生死の判断を人工知能(AI)プログラムに委ねることになるのではないのかという懸念が高まっている。

ここでは、このテクノロジーがどう進化してきたのか、どのような種類の兵器が開発され、議論がどのように展開されているのかをおさらいしてみよう。

これらの兵器はどんなところが新しいのか

最終的には、AIによって兵器システムが特定の標的を独自に選び、攻撃する。AI技術の最新の進歩は、自律型致死兵器として知られるそのようなシステムをめぐる議論を激化させている。

しかし、ある意味で、自律型兵器は目新しいものではない。

地雷は、人や物体がその上を通過すると自動的に爆発するように設計されており、早くも1800年代の米国で南北戦争中に使われた。発明者は南軍の将軍ガブリエル・J・レインズであり、彼はそれを「subterra shell(サブテラ・シェル=地下の砲弾)」と呼んだ。

地雷は、人々がAIなど想像することもできなかったはるか昔から使用されていたのだが、今日の議論と関連性がある。ひとたび設置されると人間の介在なしに動作し、しかも、狙った標的と巻き込まれた犠牲者を区別することなく作動してしまうからだ。

米国防総省は数十年前に自動化兵器の拡充を開始した

米国は、1970年代後半から地雷の概念を発展させ、対潜水艦機雷「キャプター」として知られる兵器を開発した。この機雷は航空機や艦船から投下されて海底に敷設され、付属のセンサーが標的となる敵を感知して自動的に爆発する。

1980年代に入ると、数十隻の海軍艦船がイージス兵器システムに依拠するようになった。イージス兵器システムは、高出力のレーダーシステムを使って飛来する敵のミサイルを捜索し追跡する。自動モードに設定すれば、人間が操作する前に防御ミサイルを発射できる。

次のステップがホーミング弾だった

より洗練された自律型兵器への進化の次の段階は、発展型中距離空対空ミサイル「AIM-120」のような「fire and forget(ファイア・アンド・フォーゲット=撃ちっぱなし)」のホーミング弾(訳注=標的からの信号を受信して追尾する誘導弾)の形で登場した。これは、敵機を破壊するために発射されたミサイルの軌道を絞り込むレーダーシーカー(目標捜索追尾装置)を備えている。

元国防総省高官で「Army of None(無人の兵団)」の著者ポール・シャーレによると、ホーミング弾は一般的に、ひとたび発射されると取り返しがきかず、「容疑者を追い詰めるために警察が送り込んだ攻撃犬」のような役割を果たす。

このミサイルは軌道の修正にある程度の自律性を有するが、シャーレはそれを「限定的な自律性」と描写した。対艦ミサイル「ハープーン」も自律性が限られ、同じように作動する。

「徘徊(はいかい)型兵器」は高度に自動化できる

ウクライナでの戦争は、徘徊型兵器(訳注=爆薬を搭載した無人航空機で長時間、上空を飛び回り、効果的な標的・タイミングを見定めて攻撃する)として知られる自動化兵器の使用に焦点をあてた。

徘徊型兵器は、少なくとも1989年にさかのぼれる。この年、イスラエルの軍事請負業者が「ハーピー」と呼ばれるドローンを導入した。ハーピーは空中に約2時間とどまり、数百マイル(数百キロ)にわたって敵のレーダーシステムを探し、攻撃できる。

最近では、カリフォルニアに拠点を置くエアロバイロンメント社など米国の軍事請負業者が炸薬(さくやく)弾頭を搭載した同様の徘徊型兵器を販売した。「スイッチブレード600」と呼ばれるこの兵器は、戦車などの標的を見つけるまで上空を飛行し続け、対装甲弾頭を発射する。

FILE ム AeroVironmentユs Switchblade 600 on display at a Navy exposition in National Harbor, Md., on April 3, 2023. Swarms of killer drones are likely to soon be a standard feature of battlefields around the world; that has ignited debate over how or whether to regulate their use and spurred concerns about the prospect of eventually turning life-or-death decisions over to artificial intelligence programs. (Jason Andrew/The New York Times)
米メリーランド州ナショナルハーバーで開かれた海軍の博覧会では、エアロバイロンメント社の「スイッチブレード600」と呼ばれる徘徊(はいかい)型兵器が展示されていた=2023年4月、Jason Andrew/©The New York Times

この兵器が、標的を攻撃する前に人間の許可を必要とすることに変わりはない。しかし、人間を「蚊帳の外」にして装置を完全に自律化するのは比較的簡単である。

「今日では、爆破装置に向かって『ロシアのT-72戦車を探してこい。話しかけるな。お前を発射するから戦車を見つけろ』と指示するだけでいいようなテクノロジーが存在する」とエアロバイロンメント社の会長ワヒド・ナワビは言う。

「そしてこの爆破装置は、80%超の確率でこれが標的だ、と確信すれば、刈り取りに行く。作戦全体の中で、最初に発射すること以外は徹頭徹尾、すべて自律的になる」と話していた。

ドローン群の飛行は大変革をもたらす可能性がある

それが次にどこに向かうのか、疑問の余地はない。

2023年初頭に公表された通知によると、国防総省は現在、ドローン群の構築に取り組んでいる。

最終的には、監視装置や武器を搭載し、AIで強化された数百ないし数千の自律型ドローンのネットワークになると予想されている。

ドローン群は、中国近辺に配置される可能性が高い。紛争が勃発した場合、迅速に展開でき、中国が海岸や南シナ海の人工島に構築した広範な対艦・対空ミサイルシステムのネットワークを破壊、あるいは最低限、弱体化させるために使われるだろう。

これは国防総省で現在進められている集中的な取り組みの一つにすぎない。今後1、2年以内に、GPS信号や通信が妨害された場合でも作動し続けることが可能な、安価で自律的、そして時には殺傷能力のあるドローンを何千機も配備することを目指している。

大手のAI軍事請負会社「パランティア・テクノロジーズ」の幹部を含む一部の軍事請負業者は、完全に自律的なAI制御による殺傷攻撃は何年も先のことだと主張していた。

コンピューターへの最先端の命令手順はまだ十分に確立されておらず、自律的に生死にかかわる判断をさせるほど信頼はできないからで、当面はその状況が続くと言うのだ。

パランティア社の幹部コートニー・ボウマンは2023年の公聴会で英国議会議員たちを前に、AIを導入することで軍関係者は大量のデータを素早く分析できるようになり、より迅速かつ正確に標的を決定できるようになると説いた。

しかしながら、国連には新システムのリスクに対する懸念が広がっている。一部の兵器には以前から一定程度の自律性が組み込まれていたが、新世代の兵器は根本的に異なるのだ。

「10年ほど前にこの議論が始まった時は、まさにSFのようなものだった」とシャーレは振り返った。「今はまるで違う。このテクノロジーは、まさに現実なのだ」(抄訳)

(Eric Lipton)©2023 The New York Times

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