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テロが「戦争」を変える~武器がかわる

World Now
ボストンマラソンのテロで家宅捜索するSWAT=ロイター

「対テロ」で軍隊化する警察

両手に構えるのは自動小銃。迷彩服の上には防弾チョッキ。顔はヘルメットとゴーグルで見えない。隊列を組み、建物に突入する。人質をテロリストから助けるためだ。次は空港でのハイジャック対応。その次は車に仕掛けられた爆弾の処理。カメラを取り付けた、無限軌道で動く小型走行ロボットが先陣を切る。

これは訓練だ。ただし、軍隊の、ではない。彼らの服やヘルメットには「POLICE」の文字。SWAT(特殊装備戦術部隊)の隊員たちだ。2007年に始まり、毎年秋に米カリフォルニア州で開かれる大規模な訓練「アーバン・シールド」は、こんなふうに行われる。

約6000人が参加する訓練は、郡の保安官事務所が取り仕切る。副保安官のブレット・ケテレス(51)が説明した。「サンフランシスコと近郊の警察を中心に海外からもチームがやって来て、訓練シナリオをいかにクリアするか競うんです」

シナリオは現実的だ。東京の地下鉄サリン事件や仏の新聞社襲撃を参考にしたものなど、世界で起きた事件を元に作った計35のシナリオを48時間ぶっ通しでこなす。

ケテレスは「成果」にも触れた。2013年のボストンマラソンで起きた爆弾テロでは、実行犯の1人が住宅街に逃れ、市警はSWATやロボットを投入した。ボストン市警は以前、アーバン・シールドに参加したことがあり、事件後、市警幹部は「あの訓練シナリオの経験がなかったら、もっと被害が出ていたはずだ」と話したという。

心臓の鼓動探せるレーダー

今年8月にリオデジャネイロで五輪を開くブラジルのチームも昨年、アーバン・シールドに参加した。日本の政府関係者が視察に来たこともあるという。

訓練には銃やロボットなどをつくる企業が最先端の製品を提供しているのも特徴だ。昨年は、建物の中にいる人の心臓の鼓動を探せるレーダーが使われた。「テロなら人質がどれだけいるか、災害なら倒れた建物の下敷きになった人がいるかどうかが分かる。訓練で最新の装備に触れることもできるんです」

自然災害や海難救助などを想定した訓練シナリオもあり、消防や病院、救急医療のチームなども加わる。アーバン・シールドを立ち上げた保安官のグレゴリー・アーン(58)は「毎年の訓練で組織間のコミュニケーション能力が格段に上がった」と語った。

一方、こうした動きを「警察の軍隊化だ」と批判する人たちもいる。昨年は約200人がアーバン・シールド阻止を掲げ、会場近くでデモを行った。

米国では1990年代から、軍で使わなくなった武器や装備を、「対ドラッグ戦争」にあたる警察などにほぼ無償で引き渡してきた。この事業を担うのが国防総省の関連機関だ。2000年代に入ると、米国がアフガニスタンやイラクで使った「対テロ戦争」の武器が、現地の米軍の規模縮小とともに米国内の警察へ流入していった。この機関によると、13年には約5億ドル(約560億円)分の武器が取り締まり当局の手に渡った。

警察が装甲車で市民を鎮圧

武器引き渡し事業は、14年に中部ミズーリ州で黒人少年が警察官に殺された事件で注目された。抗議する市民を、警察が戦闘用狙撃銃や装甲車で鎮圧する様子が全米に報じられたからだ。

大統領のオバマは「共同体の一部としての警察が、装備によって占領軍のようにみられてしまうこともある」と15年5月に演説。米政府は、大型の武装車両や手投げ弾を発射する武器などについては、警察への引き渡しを禁じた。

アーバン・シールドに反対するデモを行った市民団体で働くオマル・アリ(26)は「ミズーリでの市民への対応をみると、武器と一緒に戦争のメンタリティーを持ち込んでいるといえる」と話す。今年2月にカリフォルニア州サンタクララであったアメリカンフットボールのプロ全米一を決めるスーパーボウルの警備でも、軍用ライフルを手にした警察官が目立った。

アリは言う。「緊急への備えという名の下で、警察の軍隊化は、もう日常に入り込んでいるんです」

武器は自分に向かう/アンドルー・ファインスタイン(元南ア国会議員)


『武器ビジネス マネーと戦争の「最前線」』などの著書がある元南アフリカ国会議員のアンドルー・ファインスタインに国際的な武器取引が引き起こす問題を聞いた。南ア軍の武器購入をめぐる贈賄事件の調査を与党に止められたことに抗議して辞職、現在は英国在住。


photo:Sonoyama Fumiaki

「テロとの戦争」という概念はおかしなものです。いつまでも戦争が続くかのように国民を脅しているのです。その恐怖がある限り武器の製造や使用が正当化され、紛争を深刻化、長期化させます。武器取引は私たちの安全保障を危うくしています。なぜなら、一度自らの手を離れた武器は、いつか意図しない形で自分に向けられるからです。

9・11の原因を考えてみましょう。1979年、ソ連はアフガニスタンに侵攻しました。対抗して米国は現地のムジャヒディン(イスラム戦士)に武器を供給する秘密作戦を実行しました。これは奏功し、ソ連は撤退しましたが、ムジャヒディンはその武器を使ってイスラム原理主義組織タリバーン、そして9・11を実行したアルカイダになったのです。

2011年のリビア内戦で、北大西洋条約機構(NATO)は反乱勢力を支援し、カダフィ政権は倒れました。この軍事作戦で、NATO軍が最初の3日間にしたのは英国やフランス、ドイツ、イタリアなどがそれまでにカダフィ政権に売却した武器の破壊だったのです。様々な種類の地対空ミサイルは空爆作戦の支障になるからです。本当に馬鹿げたことです。さらに、カダフィ政権崩壊後に中東、アフリカに流出したこうした武器は地域紛争や西側諸国に向けて使われているのです。

日本も武器輸出に向けた動きを始めていますが、私は心配です。輸出したすべての武器や技術がどのように使われているのかを確かめるインテリジェンス活動を日本はするのでしょうか? 米国や中国でもそんなことは不可能なのです。一度売ってしまった武器は誰もコントロールできません。いつか、日本の市民に対して使われるに違いありません。

 「世論」が兵器をハイテク化した

ミサイルはビル屋上のレーダー施設だけを壊した。下の建物に大きな被害はない。2011年、リビアでのことだ。

イラクでは14年、民家の合間に身を隠した過激派組織「イスラム国」(IS)の戦車だけをミサイルが砕いた。

英国軍が使ったこの精密誘導ミサイルをつくるのが、英仏独など欧州の合弁会社MBDAミサイルシステムズだ。そこで実戦の映像を見た。ミサイルの名は「ブリムストーン」。硫黄を意味するが、聖書の黙示録にある「硫黄の燃えている火の池」、つまり地獄からとった。

長さ1.8メートル、重さ約50キロ。性能について尋ねても、匿名を条件に取材に応じた技術担当者は「明らかにできません」。英メディアによると、英軍のトルネード戦闘機が高度約6000メートルから11キロ先の標的に発射しても命中する。しかも時速110キロ以上で走る車も追い続ける。1発10万ポンド(約1600万円)とも17万ポンドともいわれる。

精密誘導というと「トマホーク」など米国のミサイルを思い浮かべる人が多いかもしれない。担当者は「あちらは長距離用で大きいミサイル。ブリムストーンは小さい爆発で周辺被害を限りなく少なくするよう設計しました。米国も持っていません」と話した。

厭戦気分を抑え込む「切り札」

アフガニスタンでは小型無人飛行機(ドローン)による誤爆、シリアでも米ロのミサイルによる民間人への被害がしばしば伝えられ、批判が集まっている。ブリムストーンは、こうした批判を抑え込む「切り札」とも言える。

昨年12月初め、ブリムストーンは英下院の議論で主役に躍り出た。IS空爆をシリア領内まで広げるべきか、政府が動議を提出。議論は10時間以上に及んだ。その中で首相のキャメロンはブリムストーンについて触れ、「イラクでの作戦では一人の市民の犠牲者も報告されていない」と強調した。その2年前、シリアへの武力行使を模索したキャメロンは、世論の厭戦気分を受けた議会の反対で断念に追い込まれていた。今回、同じ轍を踏むわけにはいかなかった。

政府の動議は賛成397、反対223で可決した。大衆紙サンは「ブリムストーンがテロ指導者を狙い撃つ」という見出しを掲げた。

テロと戦争などをテーマに研究を続ける英ブラッドフォード大学教授のポール・ロジャース(73)は、ブリムストーンには政治的な機能もあると語る。「英国民はイラクやシリアの民間人の犠牲を気にしている。政府はブリムストーンによって国民を説得し、一方で特別な関係と考える米国にも貢献できる」

ドローンのパイロット不足が深刻に

民間人の巻き添え以上に世論が敏感なのが、自国の兵士の犠牲が増えることだ。だから地上軍の派遣には二の足を踏むが、一方でパリのテロなどもありIS掃討の手を緩めるわけにもいかない。そこで、特に米軍が多用するのが、国内にいながら異国で攻撃できるドローンだ。

現地報道によると、いま米軍ではドローンのパイロット不足が深刻になっている。イラクやシリアなどの「戦地」で任務が増えていることや、命令一つで画面の中の人を殺し、帰宅して家族と過ごすような生活に精神を病んで辞める例が増えているためだ。そこで米空軍は15年末、パイロットに年2万5000ドル(約280万円)のボーナスを5年間出すと決めた。ゲーマーの若者を入隊させて訓練を施しているとも報じられている。

兵器のハイテク化の究極は、人工知能(AI)で人の命令なしに自ら判断し、攻撃するロボット兵器かもしれない。

AI兵器をめぐっては15年夏、宇宙物理学者スティーブン・ホーキング、起業家のイーロン・マスクや研究者ら1000人以上が、開発と使用の禁止を求めた。今年1月にスイス・ダボスであった世界経済フォーラムでも盛んに議論された。

「犠牲者を最小限にする」という、いわば自己矛盾とも言える兵器開発。そのためのハイテク化は、どこに行き着くのだろうか。

戦争は始めやすくなっている/ピーター・シンガー(国際政治学者)


『戦争請負会社』や『ロボット兵士の戦争』などのノンフィクションの著者で、米シンクタンク「ニュー・アメリカ」の国際政治学者ピーター・シンガーに今後の戦争のかたちについて聞いた。


photo:The Asahi Shimbun

米国と中国の軍艦が大砲から巡航ミサイル、レーザーまで繰り出して戦う。レーダーに探知されにくいロシアと米国のステルス戦闘機がドッグファイトを繰り広げ、ドローンが彼らを支援する。上海とシリコンバレーのハッカーはデジタルの世界で相まみえる。何より宇宙での戦いが地上での勝者を決める──。

このような場面は小説の世界でしょうか? あさってには起こりえる話でしょうか? 答えは「両方」です。

空母から飛び立つ大型のものから、兵士の手から紙飛行機のように投げる小型のものまである、さまざまな無人機。約160キロも離れたところを攻撃できる電磁力砲。軍需産業を変える力を持つ3Dプリンター。いくつか米国の研究所を訪れてみれば、SFのように聞こえるこれらの技術が、現実に近いものだと分かるでしょう。

ただ、こうした最先端の技術はライバルも買えます。例えば最近、国防総省が開いたロボットのコンテストで優勝したのは、軍が契約する企業ではなく、韓国の大学でした。

テクノロジーの発達で、軍が手に入れることのできる技術はさらに使い勝手がよく、価格も安くなっています。人的なリスクをなるべく小さくしようとする政治家にとっては、軍事力を使いやすくなっているともいえる。ある意味、戦争は始めやすくなっているのです。

戦争の歴史の教訓に心をめぐらせ、直面する将来のリスクに目をこらす。抑止力を保ち、判断のミスを避ける。こうした必要なステップを踏むことができれば、次の世界大戦をフィクションの世界にとどめておけるのです。