コンサートでは「嵐」のほか、「ももいろクローバーZ」もすでに採用。チケット購入時にスマホなどで撮影した顔画像を登録し、入場時に照合した。照合にかかる時間は1秒以下で、身分証明書を人の目で確認するよりずっと速いという。
ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)では、年間パスで初めて入場するときに顔画像を登録。2回目以降は「顔パス」で入場できる。横浜市のたちばな台病院では、再来受付に顔認証を導入。診察券を持ち歩く必要がなくなった。
2016年1月に交付が始まったマイナンバーカードも、申請時に顔写真を登録。市町村の窓口でカードを受け取る際、なりすましを防ぐため、NECの顔認証システムを使って照合している。
そのほか、企業などで共有パソコンを使うときのログインに顔認証を使うことも想定されている。IDカードやパスワードは複数の社員で使い回せるし、指紋認証はログインのときだけ。それに対して顔認証は、パソコン付属のカメラで常に顔を撮影すれば、特別な操作をすることなく数秒に1度のペースで認証を繰り返すことも可能。これなら、誰がそのパソコンを利用しているか、細かく記録することができる。
NECによると、同社が顔認証技術の開発を始めたのは1989年。製品化されたのは2002年のことだ。製品化直前から開発に携わり続ける同社の主席研究員、今岡仁は「製品化前は10~20%くらいの確率で間違っていたが、この10年余りで精度は飛躍的に高まった」と言う。
米国国立標準技術研究所が主催する国際コンテストで、NECは2010年に「1対1顔認証」で精度99.7%を記録して1位だった。「1対1顔認証」とは、1枚の顔写真と、目の前にいる1人の人の顔を照合して、同じ人物かどうかを識別するもの。1000人照合して間違うのは3人だけという精度の高さだ。
さらに2013年の国際コンテストでは、160万枚の顔写真と、目の前にいる人物を比べて、その人物がどの写真の人に該当するかを照合する精度で97%を記録し、これも1位だった。
NECの顔認証では、目や鼻、口など、多くの部位の位置情報を検出して照合するが、何カ所の部位で照合するかは「企業秘密」。どの部位で識別するのが有効かをコンピューターに自動的に学習させることで、精度をさらに高めるという。「整形手術で二重まぶたにしたり、年を取って顔つきが変わったりしても、人の目で見て全くの別人というほどでなければ、同じ人だと認識できます。骨格に近い部分で測定するのです」と主席研究員の今岡は言う。
カメラの性能向上も大きい。現在市販されている一般的なタブレットやスマホの内蔵カメラや、街角の防犯カメラの画質でも認識が可能だという。
活用の場は海外にも広がる。NECの顔認証システムは、米国のいくつかの州の犯罪捜査や、香港の出入国管理など、世界20以上の国・地域で利用されているという。
インドの「デリー・エアロシティー・ホテル」では、フロントの後ろに設置したカメラで来館者の顔を撮影。地元警察から提供される顔映像のデータベースと照合して「要注意人物」が入ってきたときに検知できる。逆に「お得意様」の顧客が来館した際、顧客の氏名や使用言語などを即座にスタッフに知らせ、顧客サービスの向上につなげている。
アルゼンチンのティグレ市では、街中に設置された街頭カメラと顔データベースを照合する「街中監視システム」を導入。行方不明者の捜索などに役立てているという。
日本では、昨年改正された個人情報保護法で、顔画像データも「個人情報」と定義された。このため、街頭カメラなどで本人に利用目的を知らせないまま顔画像のデータを集めることはできない。
NECの担当マネジャー、繁田聡子は「顔認証や個人情報に関する法律は国によって全然違う。それぞれの国の法律と個人のプライバシーを守りながら、幅広く使っていただける技術にするべく開発を続けたい」と話している。