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非常事態法は吸血鬼のように広がっている

World Now
テロ現場近くのレピュブリック広場に張られた、テロへの怒りを表現するポスター

私は原則論として、「非常事態」について憲法で定めることは良いことだと考えています。なぜなら、憲法で定めれば、改正することが難しく、権力の乱用に対する歯止めになるからです。

非常事態は、行政や警察の権限を強め、市民の自由を制限するものです。非常事態を定める条文は、非常事態の期間と、対象とする地域、対象とする事柄を、しっかりと限定することが必要です。

まず、期間をしっかりと定める必要があります。フランスの非常事態法は当初、非常事態の期間を12日間としていましたが、私は個人的には12日間でも長いと思っています。対象となる地域も限定するべきです。本来の目的と関係のない場所で権力が乱用されてはいけません。

さらに、制限の対象となる「自由」も限定するべきです。「テロとの戦い」が非常事態の目的であるならば、それとは関係のない自由、たとえば、表現の自由や、思想の自由、報道によって情報を得る自由などが制限されてはなりません。「テロとの戦い」を目的にした非常事態で、環境活動家がデモを禁止されたり自宅軟禁を命じられたりするのは、私の考えでは到底受け入れられません。

政府は今回、危機の最中に憲法改正を提案しました。昨年11月のテロの後、政府も世論も、理性ではなく感情に突き動かされています。恐怖という感情です。怒りやプレッシャーにさらされていると、冷静な判断はできません。今は憲法改正を論じるのに最良の時期とは言えません。

また、今のフランスの仕組みでは、行政を司法がコントロールすることができません。今の非常事態は、何か間違いが起きたときに、行政最高裁判所にあたる「国務院(コンセイユ・デタ)」が監視とコントロールの役割を担います。ですが、国務院は行政機関の一部です(注:国務院は、行政最高裁判所であると同時に、日本の内閣法制局のように法案の事前審査を行う役割も果たす)。行政機関の一部である国務院が、行政の間違いを認めるのは簡単ではありません。

非常事態を使うのは、国家が自信を失っているときです。2001年9月の米同時多発テロのあと、米国は愛国者法という名前の非常事態制度を導入しました。それ以来、非常事態は吸血鬼のように世界中に広がっています。非常事態が必ずしもテロとの戦いに効果的だとは思えません。対応を強めれば強めるほど、秩序の混乱も深まっています。むしろ、非常事態を恒久化することで、国がそもそもよって立つ価値観や原理を破壊することにもつながりかねないと考えています。多くの人が「自分には関係ない」と思っているかもしれませんが、人権が侵害されるリスクは誰にでもあります。

Marie-Laure Basilien-Gainche
仏リヨン大学法学部教授。専門は憲法学。パリ第3大学で、南米コロンビアの憲法を題材にした論文「法の支配と非常事態」で博士号を取得した。