――イスラエルが公開したハマスの武器の中に、北朝鮮製とみられる武器などが見つかっています。両者の関係をどう見ていますか。
私たちの調査では、北朝鮮関係者が2011年から2014年にかけてパレスチナ自治区ガザ地区に入った事実を確認しています。北朝鮮側はハマスに対し、トンネルの掘削技術を教えるとともに装備も提供しました。同時に小銃や対戦車ロケットランチャーなども渡しています。密輸入には地下トンネルを使ったり、武器を細かな部品に分解してから搬入したりしたなどの指摘が出ています。
――ハマスは10月7日、3000発以上のロケット弾を発射しました。
ハマスが使うロケット弾はイランから密輸したものもありますが、工業用のパイプに化学薬品や爆薬を詰め込んだ手製のものも多いようです。
5年前にイスラエルを訪れ、ハマスのロケット弾攻撃へのイスラエルによる対応を視察しました。ハマスのロケット弾は命中率も低く、速度も遅く、威力も大きくありません。ハマスはトンネルに隠れながらロケット弾を発射するため、同時多発的な発射が困難です。
――イスラエル軍によるガザ地区での地上作戦をどうみていますか?
イスラエル軍は現時点でハマスを圧倒しています。小型ドローンによる偵察を経て、砲撃や爆撃を加えます。ハマスが反撃すると、戦車や装甲車による集中砲火を浴びせ、装甲ブルドーザーが建物を破壊しています。
この攻撃が威力を発揮し、ガザ地区でのパレスチナ人死者が1万2300人などと報じられているのに対し、イスラエル兵の死者は50人程度にとどまっています。ハマスが北朝鮮から手に入れたとみられる対戦車ロケットランチャーなどによる攻撃も、イスラエル軍の主力戦車メルカバに装備されたアクティブ防護システム「トロフィー」に阻まれ、十分な成果を上げていないようです。
――韓国政府は、北朝鮮がハマスの戦術を参考にする可能性を指摘しています。
ハマスに比べ、北朝鮮のロケット砲の威力は桁違いです。北朝鮮が保有するロケット砲は122ミリから超大型の600ミリまで、様々な射程の兵器がそろっています。速度も短距離弾道ミサイルとほぼ同じです。1車両に6発から24発を搭載した多連装ロケット砲で一斉発射が可能です。
北朝鮮は1時間あたり、1万6000~2万発のロケット弾を発射できます。北朝鮮は1994年の南北協議の際、「ソウルを火の海にできる」と脅しましたが、今は「韓国全体を火の海にできる」と言えます。韓国軍のK2主力戦車や装甲車の装甲や防御システムは、イスラエル軍よりも劣っているのが現状です。
――米韓連合軍は北朝鮮のロケット弾を防御できないのですか。
韓国軍はイスラエルの「アイアンドーム」のような、ロケット弾に対応できる防空システムを持っていません。朴槿恵(パク・クネ)政権(2013~2017年)がイスラエルからのアイアンドーム購入を検討しましたが、実現しませんでした。尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権は韓国型アイアンドームの開発を急いでいますが、早くても初期配備まで3年ほどかかる見通しです。
朝鮮半島有事の際、米国が本土にあるアイアンドームを在韓米軍に派遣する可能性はあります。ただ、ハマスとイスラエルとの戦闘激化で、米国は保有するアイアンドームをイスラエルに提供するようです。
北朝鮮軍の脅威はロケット弾だけではありません。北朝鮮は、長期戦は不利だと判断し、短時間に火力を集中する戦術を取るはずです。ロケット弾に弾道ミサイルや巡航ミサイル、ドローン(無人機)攻撃を交えたハイブリッド火力戦を仕掛ける可能性が高いと思います。
韓国軍が保有するレーダー網では、山や雲などが邪魔になってドローンを継続して追跡できません。
――韓国は「先制攻撃」「韓国型ミサイル防衛」「大量報復措置」の「三軸体系」で対応するとしています。
私は三軸体系に大きな疑問を持っています。先制攻撃は、衛星や偵察機で北朝鮮軍による攻撃の兆候をつかむことが前提になります。従来、兆候の把握から先制攻撃まで約40分のリードタイムがあるとされていました。現在は、北朝鮮がミサイルの固体燃料化を進めたため、ほとんどリードタイムがなくなりました。
ミサイル防衛ですが、韓国軍が保有する地対空誘導弾PAC3の迎撃高度は地上15~35キロです。レーダーで探知してトラッキングし、発射するまで8~17秒の余裕しかありません。北朝鮮の弾道ミサイルを撃墜するためには海上配備型迎撃ミサイルSM3による対応が現実的ですが、日米主導の弾道ミサイル防衛に参加する必要があります。
大量報復措置による抑止効果も、被核保有国である韓国が、事実上の核保有国の北朝鮮に行うには限界が伴います。金正恩(キム・ジョンウン)総書記は北朝鮮の市民が多数死亡しても全く政治的に影響を受けないでしょう。
――北朝鮮の地下トンネルも脅威になりますか。
ハマスのトンネルと違い、北朝鮮の地下トンネルは入り口をコンクリートで補強しています。破壊するためには、K9自走砲の1個大隊が計3回砲撃し、50発以上の砲弾による攻撃が必要になります。
山間地の急斜面にある場合も多く、空対地ミサイルなどでしか破壊できないケースもあります。
北朝鮮のトンネルは、ハマスのトンネルよりも数や深さ、強度で圧倒的に上回ります。韓国軍が保有する情報資産では全ての把握は不可能です。
――北朝鮮はウクライナの戦況にも学んでいるのでしょうか。
最近の北朝鮮の軍事パレードを見ると、ウクライナ軍がロシア軍に打撃を与えた携行型対戦車ミサイルが登場するなど、従来の装備から転換する姿勢が見られます。2023年9月に訪朝したロシアのショイグ国防相などから、(ウクライナ東部ドネツク州)バフムートの戦いなどの戦訓も得ていると思います。
――日米韓はどう対応すべきでしょうか。
韓国は日米主導の弾道ミサイル防衛システムに参加すべきです。対潜水艦戦闘能力を高めるため、海上自衛隊とも交流を拡大する必要があります。
一方、北朝鮮も2023年3月、戦術核弾頭「火山31」を公開しました。厚木や岩国、佐世保などの在日米軍基地を攻撃する可能性があります。日韓や米韓、日米韓の安全保障協力を更に強化していく必要があると思います。