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日本政府はどっちを向いているのか アメリカ戦略家たちの疑問

ミリタリーリポート@アメリカ 更新日: 公開日:

トランプ政権は北朝鮮の核弾頭搭載大陸間弾道ミサイル(ICBM)の開発に対して、本格的に抑制しようと動き出した。日本政府は全面的な支持を打ち出している。しかし、アメリカ軍関係の戦略家からは「日本政府は日本国民を向いているのか、トランプ政権を向いているのか、理解に苦しむ」という疑問が出ている。

アメリカは長きにわたって、北朝鮮の核開発・弾道ミサイル開発に警告を発してはいたが、「どうせアメリカ本土に到達する核ミサイルなど完成させることはできまい」といった油断の上に立った圧力であったため、はっきり言って“本気度”は低かった。その結果、いよいよ金正恩がアメリカを射程圏に入れたICBMを手にしかねない状況になってしまったのだ。

まさに“押っ取り刀”で北朝鮮に対する軍事的威嚇(空母打撃群ならびに巡航ミサイル原潜の派遣など)を実施しているわけである。しかしながら、同盟国を“人質”にとられた形になっているため、軍事攻撃の意思決定をするには極めて高いハードルを乗り越えねばならない。

韓国という人質、日本という人質

アメリカが北朝鮮に対して軍事攻撃をした場合、間違いなくソウル周辺に対する報復攻撃が実施される。北朝鮮軍が38度線直近に長大な砲兵陣地網を築いて大量の各種火砲をズラリと並べていることは確認済みである。北朝鮮攻撃の直後に、長大な砲列から、砲弾、ロケット砲そして短距離弾道ミサイルが雨あられとソウル周辺地域に降り注ぎ、多くの市民が犠牲になることは必至だ。

米軍関係者たちの推測によると、死傷者は100万人を超すと言われている。多数の傷ついた人々を収容するには医療機関は足りず、米軍が病院船や病院機を派遣しても“焼け石に水”であり、数多くの負傷者を見殺しにせざるを得ない。韓国は北朝鮮の“人質”になっているのである。

韓国ほど確実ではないものの、日本も北朝鮮による報復攻撃を被る可能性が高い。北朝鮮各地の地下や洞窟に温存されていた移動式発射装置(TEL)からノドンやスカッドERといった弾道ミサイル100基近くが日本各地に向けて発射されることになる。

言うまでもないことだが、北朝鮮に対する反撃能力がない自衛隊の施設は攻撃の価値すらない。また、在日米軍施設に弾道ミサイルを撃ち込むよりは、日本の戦略的インフラ(各種発電所、石油化学コンビナート、造船所など)をはじめとするソフトターゲットに向けて弾道ミサイルを発射した方が報復攻撃としてはより効果的だと考えられる。

日本攻撃用の弾道ミサイルには核弾頭は搭載されないが、かなりの数の弾頭が着弾するだろう。たしかに、自衛隊は海自イージス駆逐艦に搭載されているイージスBMD(現在のところ4隻)と、空自が18セット保有しているPAC-3の、2種類の弾道ミサイル防衛システム(BMD)で弾道ミサイル攻撃に備えているが、PAC-3は半径20km程度の局所防衛用BMDであり、米軍関連施設、航空自衛隊基地そして首都圏中心部を防御するのが限度である。何よりも、北朝鮮軍がPAC-3の迎撃範囲圏外の目標を攻撃した場合——恐らく北朝鮮はそのようなソフトターゲットを狙う——PAC-3は全く役に立たない。つまり、日本のほとんどの場所では、イージスBMD艦が最初で、しかも最後の防衛ラインと言うことになるのだ。

そのイージスBMD艦は現時点で4隻しか運用されていない。敵弾道ミサイルを迎撃するために発射するSM-3迎撃ミサイルは超高額防衛兵器であるため、イージスBMD艦に多数搭載されているわけではない。日本は公表していないが、米国海軍イージスBMD艦には8基のSM-3迎撃ミサイルが装填されている。敵弾道ミサイル1基にたいして通常2基のSM-3を発射するため、もし日本海に展開するイージスBMD艦が4隻のうち3隻だとした場合、迎撃可能な北朝鮮弾道ミサイルは12基。1基の弾道ミサイルに対して1基のSM-3を発射するよう迎撃プログラミングを変更したとしても、最大24基しか迎撃できない。

「日本第一」ではない日本政府/北朝鮮問題と連動する南シナ海

ところがである。日本政府はトランプ政権を支持(あるいは追従)する方針を打ち出し、弾道ミサイル攻撃を受けた場合の対処まで公表している。日本政府が自国民の生命財産を保護するためにまず第一になすべきは、トランプ政権に軍事攻撃をさせずに北朝鮮の暴発を抑制する方策を協議することのはずだ。

またトランプ大統領は習近平国家主席に中国による強力な対北朝鮮圧力を依頼してしまった。さすがのトランプ政権といえども、依頼と同時に、中国の南シナ海での活動に異議は申し立てられなくなっている。現時点では、太平洋軍司令官ハリス大将と太平洋艦隊が南シナ海問題を言い立てている程度であり、トランプ政権は全く関心を失ってしまっている。

要するに、北朝鮮問題にトランプ政権が中国と共に関与を強めれば強めるほど、南シナ海問題は中国にとって有利な状況が作り出されていく。中国が南シナ海の大半で軍事的優勢を確立してしまうと、日本は極めて不利な立場に追い込まれる。原油や天然ガスを日本にもたらすタンカーや各種貨物船が通航する南シナ海をコントロールされたら、有事に日本の生命線は危殆に瀕するだろう。「日本政府は北朝鮮問題が、南シナ海問題そして東シナ海問題とリンクしていることを認識しているのだろうか?」と、米海軍戦略家たちは首をかしげるのだ。

日本とアメリカの立場は同一ではない

アメリカにとって北朝鮮問題はアメリカ本土が直接ICBM攻撃を受けるかもしれないため、軍事的にプライオリティーが高い問題である。一方、南シナ海問題はアメリカの国是の一つである「公海航行自由原則の維持」という理念が侵害される可能性はあるものの、いくら中国が人工島を建設し軍事拠点化を進めて南シナ海での覇権を手にしたとしても、直接アメリカが軍事的危害を加えられることにはならない。したがって「アメリカ第一主義」を前面に打ち出しているトランプ政権にとっては、北朝鮮問題のほうが南シナ海問題よりもプライオリティーが高い。

北朝鮮が日本に対して弾道ミサイルを撃ち込むことになる引き金はただ一つ、アメリカによる対北朝鮮軍事攻撃である。したがって、日本がアメリカによる対北朝鮮軍事攻撃を後押しするということは、日本に数十発の弾道ミサイルが降り注がれる可能性を意味し、さらに北朝鮮問題と連動して、南シナ海での中国の軍事的優勢が確固たるものになり、南シナ海の次は東シナ海、となりかねないことを、我々は忘れてはならない。