――ガザ地区での戦闘をどう見ていますか。
イスラエル軍は10月25、26両日の夜間、戦車含む部隊が一時的にガザ地区に入って威力偵察を行いました。対戦車ミサイルなどのハマス陣地を確認・破壊しました。北部のイスラエルとの境界から南に広がる耕作地を一望できるガザ市街地のビルの観測所も破壊したようです。
10月27日からは地上侵攻が始まりました。米CNNによれば、衛星写真で確認できていたイスラエル軍集結地の戦車と装甲車計300両の姿が見えなくなりました。ガザに入った模様です。2個旅団程度(数千~1万人程度)の規模です。
CNNは車両のわだちとみられる写真も公開しました。
イスラエル軍は、境界北側からはハマスのトンネル網が比較的少ない海側など2ルートで、地下にハマスの司令部があるとみられるアルシファ病院などを目標に、退避勧告を出したガザ北部の狙っていると思います。境界東側からはガザ地区を南北に分断するように1ルートで侵入したようです。
そのほか、航空攻撃で総延長500キロともされるハマスの地下トンネルの破壊を繰り返しています。
道路や耕作地では、地下30メートルにまで達する地中貫通爆弾「バンカーバスター」を、ビルには、より破壊力の強いJDAM精密誘導爆弾をそれぞれ使っています。
イスラエルは、ハマスやガザのインフラ破壊を「第1段階」、残った敵の掃討を「第2段階」、ガザに対する新しい管理体制を「第3段階」としています。
――なぜ、イスラエルはなかなか「地上侵攻」と明言しなかったのでしょうか。
ハマスがイスラエルに宣戦布告していない以上、明言する必要はないと考えているのかもしれません。
イランやヨルダンのイスラム主義勢力ヒズボラは「イスラエルが本格侵攻した場合、対抗手段を取る」と宣言しています。こうした勢力を刺激したくないと考えてもいるでしょう。
人質を解放するまで地上侵攻を延期するよう要請していた米国などへの配慮もあったでしょう。イスラエルも、国際社会による反発が強まることを懸念していると思います。
JDAMはレーザー誘導で飛ぶため、命中精度を示す半数必中界(CEP)は1メートルです。市民の被害を最小限にするため、努力しているという姿勢を強調する狙いもあるでしょう。
――「地上侵攻」により、戦況はどうなっていくでしょうか。
ハマスは3カ月分の弾薬を備蓄していると言われています。徹底抗戦を唱えていますから、戦闘が落ち着くまで3、4カ月はかかるでしょう。主要な地下トンネルを確認するためには半年くらい必要ではないでしょうか。
物量に勝るイスラエル軍の勝利は決定的ですが、市街戦になるため、ハマスの狙撃や地雷、仕掛け爆弾などに悩まされるでしょう。
そのうえ、イスラエル軍には「ハマスの撃滅」「人質の奪還」という二つの相反する任務を与えられています。米軍は第2次大戦での硫黄島や沖縄で「馬乗り戦法」を取りました。トンネルや洞窟に入らず、火炎放射器で焼き払ったり、爆破やブルドーザーで入り口を埋めたりしました。
しかし、人質を奪還するためには、トンネルに立ち入る必要があります。イスラエル軍は呼吸装置、特殊な通信機や赤外線センサー、小型無人機などを備えた特殊部隊である戦闘工兵(ヤハロム)を投入するようですが、人質の奪還は簡単ではないでしょう。
1990年代末に面会したイスラエルの在日駐在武官は「戦争での敗北は、国がなくなることを意味する」と語っていました。イスラエルは国際世論の反発を恐れて明言しませんが、本音では「人質奪還ではなく、国の存続が最優先だ」と考えているでしょう。
――日本が学ぶ必要がある教訓は何でしょうか。
戦争になれば、犠牲になる市民が出ます。10月31日にも、ガザ地区内の難民キャンプへの空爆で多数の被害者が出たという報道がありました。イスラエルは「国家の存亡」と「人道主義」の間で難しい決断を迫られています。こうした問題をできる限り小さくする事前の努力が必要です。
日本でも南西諸島の自治体関係者らから不安の声が上がっています。
住民が早期に避難できるインフラと法整備が必要です。危機が迫ったときに、すぐに航空機や船舶が調達できる体制をつくるほか、住民の避難を促したり、支援したりする法制度が必要です。