前回に続き、UNRWA( 国連パレスチナ難民救済事業機関、アンルワ)について、日本人医師の清田(せいた)明宏保健局長のインタビューをお送りします。
聞き手は同じくUNRWA渉外・広報局に勤務する、新田朝子です。
続く衝突、遠い二国家解決
ーー最近、ヨルダン川西岸や東エルサレムで、パレスチナ側とイスラエル側の衝突が続き、犠牲者が多く出ています。このような状況をどのように感じられますか?
非常に懸念しています。複雑な政治状況があり、それにより衝突・紛争が続いています。ある意味、負のサイクルといえます。早く落ち着くことを祈るばかりです。
現在の状況はパレスチナ難民が置かれた状況が、いかに厳しいかを示しています。パレスチナ難民問題の本当の解決は政治です。イスラエルとパレスチナの和平、いわゆる二国間解決が必要です。ただ現状は非常に残念ですが、その実現が厳しいのです。
それは、今まで70年以上難民状態にあるパレスチナ難民の状況が残念ながら続くことを意味します。すでに3代、人によっては4代にもなる難民生活、それが続くことは絶望以外の何物でもありません。私自身も心が痛みます。
それとともに、UNRWAの重要性が今まで以上に増していることも事実です。ある意味国際社会の中で忘れ去られているパレスチナ難民をきちんと支援し支えていくのはUNRWAです。この厳しい今こそ、UNRWAの支援を続けていく、その重要性を日々認識しています。
ーーパレスチナ難民のステータス(受け入れ国の在留資格)について教えてもらいたいです。場所によってステータスも異なると聞きました。詳しく教えてもらえますか。
確かに、滞在している国や場所によって少し違います。
我々が支援しているパレスチナ難民はヨルダン、シリア、レバノン、そしてガザと東エルサレムを含むヨルダン川西岸のパレスチナにいます。確かに、滞在している場所により彼らのステータスは少し違います。ただ、大事なことは、彼らは歴史的なパレスチナの地を故郷と考えるパレスチナ難民であることです。
パレスチナ(ガザや東エルサレムを含むヨルダン川西岸)にいるパレスチナ難民は、ほぼみなパレスチナ国籍*を示すIDカードを持っています。ヨルダンにいるパレスチナ難民も9割ほどはヨルダンの国籍を持っています。レバノンやシリアでは「パレスチナ難民」として登録されていて、レバノンやシリアの国籍は持っていません。これらは歴史的、そして地政学的な理由によります。
*国家としてのパレスチナ=世界では中国やロシア、インドなど約140カ国がパレスチナを国家として承認しているが、イスラエルとパレスチナ双方に和平交渉を呼びかけてきた日本は、アメリカやEU主要国と同様、国家承認していない。国連では2012年に「オブザーバー国家」として承認されているが、イスラエルを支援する立場のアメリカが強硬に反対し正式加盟には至っていない。
ただ、現在、UNRWAに登録されている約580万人のパレスチナ難民はどこ(ヨルダン川西岸地区、東エルサレム、パレスチナ・ガザ地区、ヨルダン、レバノン、シリア)にいようが、みんな「パレスチナ難民」です。
国籍が、パレスチナでも他国でも、約70年前に、現在ではイスラエル領土になっている「パレスチナ」という土地から逃げてきた人という意味で、みなパレスチナ難民と言えます。そのため、どこにいても、パレスチナ人であるというアイデンティティーを持っています。
ーーシリアやレバノンではパレスチナ難民の就労が難しいと聞きましたが、実際はどうなんでしょうか。
基本的には、すべての地域でパレスチナ難民は仕事に就くことができます。一方で、彼らが社会生活上、享受できる機会は場所により異なります。
特に戦争前のシリアでは、パレスチナ難民はシリア人と同等の就労の権利をもらえていました。またヨルダンでは、難民でもヨルダン国籍を持っている人が多いので、働くことができます。
一方で、レバノンでは歴史的、政治的な理由により、パレスチナ難民が就くことが制限された職種が約30種類あります。
その一例として、医療の分野ではパレスチナ難民の医師はレバノンで正式に就労することができません。それは医学部に進学し、卒業したとしても、医師会に入ることができないからです。
ウクライナ避難民支援のうねりをパレスチナ難民にもつなげたい
ーー2022年2月にロシアが始めたウクライナ侵攻について、パレスチナ難民支援に携わる清田保健局長の見解を聞かせてください。
非常に大事な質問ですね。今回のウクライナの紛争は、世界の安全保障の枠組みを変えかねない大きな問題だと思っています。この戦争にいかに世界が立ち向かい、解決していくか、どうやって世界的な平和の枠組みを作れるか、国連を含めた国際社会がその存在意義を大きく問われています。
この戦争で私が学んだことの一つは、やはり世界はつながっている、ということです。ウクライナの危機、特に巨大な小麦産出国であるウクライナの危機は瞬く間に世界の食糧危機を引き起こしました。
新型コロナウイルスのパンデミックの時とある意味、同じですよね。21世紀、世界の片隅の危機は世界全体の危機になりうるということでしょうか。
それと共に学んだのは人間の可能性です。私の故郷は九州の宮崎ですが、外国人がもともと多く暮らす東京や大阪から遠く離れた宮崎にウクライナからの避難民が10人以上いて、それを地元の人が支えている。日本はもともと難民・避難民の受け入れがとても少ない国ですが、その日本でこのようなウクライナ避難民の支援が起こっている。すばらしいと感じました。
昨年末、仕事でポーランドのクラクフに行ったのですが、長く世界中で難民支援を続けていた米国の知人は、これほど大規模な支援は見たことがない、と言っていました。特に、ポーランドの住民が自腹でものすごく多くの避難民を支えているのは全く前代未聞だと。それを聞いて、人間はやはりすごいな、と感じました。
このウクライナ避難民支援で盛り上がった人道支援のうねりを、ぜひパレスチナ難民やシリア難民など、世界にまだ多くいる難民・避難民への支援の強化につなげていきたいですね。それをどう実現するか、人道支援で働く我々も含め、国際社会の大きな課題です。人の命を支える仕事は平等であるべきですよね。
ーー世界中で様々な難民がいる中で、UNRWAが70年以上、パレスチナ難民を支援し続けなければならない必要性とその理由は。
その理由は単純です。UNRWAが支援すべきパレスチナ難民問題が全く終わっていないからです。UNRWAは国連総会からパレスチナ難民を支援するように任命されています。そのため、問題が解決するまで、パレスチナ難民を支援するのは当たり前のことです。
UNRWAのマンデート(権限任期)は実は3年です。つまり、パレスチナ問題が発生した1948年には国際社会は、パレスチナ問題を3年で解決する予定だったことになります。
それが75年たった今も、まだ全く解決されていない。国際社会が抱える、前世紀の最大の負の遺産とも言えます。これは、UNRWAの責任ではなく、国際社会のパレスチナ問題を解決できなかったつけが回ってきているからといえます。
それとともに、パレスチナ難民にとって、UNRWAの存在はものすごく大事です。想像してみてください。70年以上、難民状態が続き、国際社会でのパレスチナ問題の重要性はどんどん下がり、世界的な支援も減っています。
私がパレスチナ難民であったら、世界は私のことを忘れている、と思うのではないでしょうか。ものすごい喪失感があると想像します。その中で、UNRWAだけはずっと、国際社会がパレスチナ難民のことを忘れず支援している、その象徴です。その意味でもUNRWAの活動は非常に重要です。
つまり、UNRWAによってパレスチナ人が難民と化しているのではなく、人々が難民である状態を続けざるを得ない状況の中で、UNRWAが保健、教育、社会保障というサービスを続けている、というのが正確だと思います。
日本が70年間パレスチナ難民支援を続けてきた理由
ーー日本がUNRWAに支援を始めて70年の年を迎えましたが、どうして昔からこのような支援を続けているのだと思いますか。
これは本当にすごいですよね。日本がUNRWAへの支援を始めたのが1953年。第2次大戦後日本の主権回復・国際社会への復帰の礎であるサンフランシスコ平和条約が発効した1952年の翌年です。
そして日本が国際連合に加盟した1956年より3年前です。なぜそのように早くからUNRWA支援を始めたか、今とても興味を持って調べています。
それから70年、一度も途絶えず、日本の支援が続いている。その理由は私は、私も日本国政府に紹介したいところですが、支援をいただいている側から見てみると、以下のことがあると感じています。
一つはやはり日本にある、困った人を助けるという人道支援の気持ちではないでしょうか。日本の人道支援は世界中で高く評価され、感謝されています。その理由は日本人の実直な支援にあると思います。
現実問題として、人道支援の内容や規模は、その支援の背景にある人道危機の地政学的な要因に左右されることがよくあります。例えば、ある国が人道危機を引き起こした当事国とは政治的に対立関係にあるので、その当事国への支援はしない、というような形です。日本の支援の違うところは、そのような政治状況に左右されず、粛々と必要な人道支援を続けていることです。それにより、多くの国で日本の人道支援は評価され、感謝されています。
それとともに、1950〜70年代は、パレスチナ問題が中東の重要な課題であり、パレスチナの大義は多くの人が支持するものでした。イスラエル建国時に歴史的パレスチナの地に住んでいたパレスチナ人が難民となり、その状態が続いています。先ほど述べた、粛々と人道支援を続ける、そういう様態であったのかもしれません。
さらに、中東の地政学的重要性もあったかもしれません。当時から、中東は日本への石油供給を安定化するといった意味で生命線でした。オイルショックもありましたし、中東への支援を続ける重要性が認識されていたのではないでしょうか。
これらは私の推測です。
一番大事なことは、ともかく過去70年、日本がパレスチナ難民支援・UNRWA支援をずっと続けていることです。これは本当に素晴らしいです。
ーー日本の支援でどのようなことが実現しましたか。また清田保健局長は日本の支援についてどう思いますか。
過去70年の日本の支援で多くのことが実現しました。そのすべてを把握しているわけではありませんが、私の仕事の分野の医療保健で、少し例を挙げます。
UNRWAは140のクリニックで、いわゆるプライマリーケアを提供しています。妊婦さんの健診から新生児のワクチン接種に始まり、糖尿病から高血圧の治療管理や、様々な簡単な疾患の治療を行っています。年間の外来の診察・治療が800万件に及ぶ、非常に忙しいクリニックです。日本の支援はその多くの分野を支えています。
一つの例を挙げれば、母子健康手帳です。日本の国際協力機構(JICA)との協力で、我々は日本の母子健康手帳をすべてのクリニックに導入しています。年間9万人以上いるパレスチナ難民の妊婦さん全てが使っています。これも国際協力機構との共同でその母子手帳を電子化しました。スマホのアプリとして、今多く使われ始めています。このような例は多くあります。
医療以外でも日本の支援の例はとても多くあります。身近な例を一つ上げれば、ガザの食糧支援です。失業率が5割以上と経済状況が非常に厳しいガザ、日本の支援でUNRWAは食糧支援を続けています。昨年、ウクライナ侵攻の影響で食糧価格が高騰しましたが、日本の支援もあり、ガザへの食糧支援を続けることができました。
そして、日本の支援でUNRWAが今も続いている、それこそが最大の成果ではないでしょうか。
この中東の地域でも、日本の支援はすごく評価されていて、感謝をされているので、私自身、日本人として仕事をしていて、困ったことや不利になったことが一度もありません。
高齢化する難民、増える慢性疾患
ーー清田保健局長のメインの仕事の分野である医療、保健の分野について、改めてUNRWAがどのようなことをしているのか、教えてください。
UNRWAの保健事業では、70年以上にわたり、パレスチナ難民に対し、予防から治療までの総合的なプライマリー・ヘルスケア を提供してきました。さらに、パレスチナ難民の患者が、入院や専門外来、またより高度な医療を提供する二次・三次医療を受けられるよう、サポートを行っています。「あらゆる年齢のすべての人々の 健康的な生活を確保し、福祉を促進すること」は、国連が掲げる持続可能な開発目標 (SDGs)にも掲げられていることです。
一次医療は、5つの活動地域にある合計140のクリニック(診療所)を通して直接パレスチナ難民に提供しています。
治療の内容は多岐にわたります。妊婦を対象にして母子保健があり、新生児の予防接種や健康管理、成人に対しては糖尿病や高血圧などの慢性生活習慣病の診断・治療を行い、発熱や感冒などを治療する一般外来、歯科治療もあります。患者さんの検査をする検査室もありますし、処方箋に基づき薬剤を提供する薬局もあります。
これらの診断治療は基本的に無料で自己負担はなく、難民の人の受診の障害にならないようにしています。
入院などの高度医療は、受け入れ国政府と共同で行っています。
ヨルダンやパレスチナ(ガザとヨルダン川西岸)では、多くの難民は政府の公的病院を利用しています。シリアも以前はそうでしたが、内戦の影響でシリア政府の病院機能が悪化しており、UNRWAは40近くの公的・私的病院と契約をし、パレスチナ難民の入院を支援しています。レバノンは様々な政治的理由でパレスチナ難民が公的医療機関を受診できないため、シリアと同様に40近くの病院と契約を結び入院の支援をしています。
UNRWAの支援対象者の人口構造は、変化しています。
高齢化が進み、糖尿病、高血圧、がんなど、生涯にわたるケアが必要な慢性疾患が特に増えるなど、保健サービスのニーズが多様化しています。
健康に生きるためには、乳児期から老年期までのそれぞれの段階で、年齢に応じた継続的なケアの必要があります。そのため、UNRWAでは「ライフサイクル・アプローチ」を取り入れ、一括した予防から治療までの保健サービスを提供しています。
ーー清田保健局長の専門領域を教えてください。
私の専門は公衆衛生です。一人一人の患者さんの診断・治療を直接するのではなく、そのような診断治療ができるような体制を作ることが仕事です。
私は、UNRWAが提供している一次医療(プライマリー・ヘルスケア)の最高責任者で、140のクリニックで3000人ほどのスタッフで提供している医療を統括しています。
どういうサービスを提供するか、どういう形で提供するか、それをどうやって継続していくか、職員のサポートが私の仕事です。
UNRWAに来る前は、WHO(世界保健機関)のエジプト・カイロにある東地中海地域事務局で結核やエイズ、マラリアなどの感染症対策を専門に仕事をしていました。その後、2010年に現在のUNRWAの仕事に就きました。
難民を苦しめる生活習慣病、背景には貧困
ーーパレスチナ難民の健康に関する現状を教えてもらえますか。
パレスチナ難民の死亡原因の第1位は生活習慣病です。その理由はたくさんあるのですが、単純化して一つお伝えすると、貧困のバックグラウンドから来ていると言えます。
健康的な生活を送るためには、バランスの良い食事、運動をできる環境が必要で、そのためにはお金がかかります。
ただ、パレスチナ難民にとって肉や果物などは高くて買えず、政府の補助金が入っている主食であるパンなどに食が傾いていって、栄養バランスがよくない状態になってしまう背景もあります。
また、この中東地域も車社会になっている上、なかなか運動ができるところがないこともあるので、運動量が減ってしまうことや、たばこなどを吸う文化、甘いものを好む傾向などがあいまって体重が増えて糖尿病、ガン、高血圧になりやすいというバックグラウンドがあります。
21世紀の中東の難民に糖尿病が多いというのは歴然としていて、シリア難民やイエメン難民なども同じなんです。
生活習慣病に対して、一番大切なのは継続的な治療です。糖尿病、高血圧になると、それらは一生続くので、その患者さんたちをきちんと継続して治療する体制が必要です。
また生活習慣病の一つの特徴は医療の問題だけではありません。
バランスの良い食事が取れるかどうか、ということも大切なので、その「人」を包括的に見る医療が必要になり、「かかりつけ医制度」が必須といえます。
いつも自分のことをよく知っている同じお医者さんに診てもらえれば、生活指導も行えるといったメリットや、症状を毎回説明しなくていいので、医療の質が上がります。
家庭医制度は、生活習慣病が多かったヨーロッパで導入されたもので、それを参考に行っています。それとともに、継続的な治療をするには医療情報が必要なので、電子カルテを導入しました。電子カルテがあれば治療が継続して見られるし、1年前の検査結果などもさかのぼって把握できます。
ーーUNRWAのクリニックが行っているこのような医療のおかげで、パレスチナ難民の健康状態は改善しつつあるのでしょうか。
はい。大きな改善がみられています。パレスチナ難民は、昔は妊婦さんや新生児の死亡が多く、下痢や肺炎などの感染症も多くありました。それが妊婦へのケア、新生児のワクチン接種、抗生剤などの薬剤の適切な使用により大きく減少しました。
現在は、パレスチナ難民の妊婦さんは安心して子供を産むことができます。下痢や肺炎で子供が成長途中に死亡する危険性も大きく減りました。パレスチナ難民の健康改善に大きく寄与したと思います。
現在のパレスチナ難民の健康問題は糖尿病・高血圧に象徴される慢性生活習慣病です。我々は年間約35万人の糖尿病や高血圧の患者さんの治療をしています。世界保健機関の治療方針に基づいた世界標準の治療です。
ただ、慢性生活習慣病の治療はとても難しいのです。その背景に患者さんの生活習慣があり、そしてその根本的問題に彼らの貧困があるからです。生活習慣病の治療は薬だけでは足りません。これからの大きな課題です。
コロナ禍で懸念されるメンタルヘルスの悪化
ーー最近、特に起こっている状況の悪化に関して教えてもらえますか。
コロナ禍で経済状態が悪化して、メンタルヘルスの需要が増え、家庭内暴力や子どもの自殺、自殺未遂が増えています。
それに輪をかけるようにパレスチナ難民の受け入れ国(ヨルダン川西岸・ガザ地区・レバノン・シリア)の状況が悪化しています。
今のウクライナ避難民のように、現状の危機によって起こっているのではなく、70年以上前の危機によって起こったことが解決されないまま続いているというのは日本の皆さんにもぜひ知って頂きたいです。パレスチナ難民が70年以上、故郷に戻れていないことが問題だと思います。
ーーメンタルヘルスの需要にはどのようにUNRWAは対応しているのでしょうか。
UNRWAではクリニックで患者の診断・治療をし、学校ではスクールカウンセラーが生徒の中で問題をかかえた子供を見つけ、治療をしています。また、その上で必要があれば、そういった患者をソーシャルワーカーにつなぐこともあります。
ーー慢性生活習慣病やメンタルヘルス、いろいろな健康問題がありますが、それに対応する上でUNRWAが直面する問題は何ですか?
UNRWA全体の資金難は重要な問題ですが、医療分野での最大の問題はクリニックでの人材不足です。医者の数も、足りていません。現在140のクリニックに約2,500人の職員がいます。医師、歯科医師、看護師、薬剤師、検査技師などです。
この数ですと、患者1人あたり3分ほどしか診察ができません。サービスが必要な人に対して、職員数が絶対的に足りていないからです。WHOの方法で分析すると、患者1人に対して5分の診察ができるようになるにはあと1000人ほどのスタッフが必要となります。
現在、職員数の増加をどのような形でやるかUNRWA内部で検討中です。UNRWA全体の資金難はありますが、職員数を是正しなければきちんと対応できないので、複数年をかけて実現する等、様々の可能性を検討しています。
難民の苦難、想像して、思いを広げて
ーー清田保健局長から日本の読者の皆さんに伝えたいことはありますか。
ぜひ想像してみてください。昨年の2月24日にウクライナ侵攻が始まりました。もうすぐ2年目に入ります。これがもし、今後75年、2097年まで解決されず続いていたら、どうなるでしょうか。世界中に避難したウクライナの人々が75年も避難生活を続けているとしたらーー。想像するのが非常に難しいですよね。しかし、この一見、想像できないようなことがパレスチナ難民では起こっているのです。
誰も、難民になりたくてなったわけではありません。ウクライナの人々は今、戦争が終結し避難生活が終わる日を首を長くして待っています。パレスチナ難民も当初は、2~3カ月の避難と思い自分の家を離れたそうです。それが70年以上も続くとは全く想像もせずにーー。
私は今年62歳です。私がもしパレスチナ難民なら、生まれてからずっと難民生活を続けていることになります。
そして、その想像をぜひ思いに変えて、広げてみてください。
日本のウクライナ避難民への支援は、本当に素晴らしいです。支援に対する温かい思いをぜひ、少し広げてみてください。それは日本にいる他の難民・避難民・移民への思いでも良いですし、世界全体で9000万人を超える故郷を追われた人々、2700万人を超える難民への思いでも素晴らしいことだと思います。その思いの中に、我々が支援を続けるパレスチナ難民への思いが入っているのならとてもありがたいです。
その思いを次にどうつなげるか、方法はいくらでもあります。彼らのことを知っていく、ということはとても大事なことです。その思いが続いていくからです。
また、彼らのことを支援している団体や国連機関を支援することも大事でしょう。思いが現実の支援になります。そして、実際に彼らの支援をする団体や国連機関に入るのも良いですよね。思いを自分で実現することができます。それでももしまだ考えるところがあるのなら、ぜひこちらの地にお越しください。私がご案内します。
新型コロナウイルスのパンデミックの際、世界はつながっている、世界中が守られなければ、誰も守られないということを痛感しました。
ウクライナ侵攻では、ある地域の危機は世界中の危機になり得ることを実感しました。その中で我々個人でできることは非常に小さいかもしれません。しかし、このつながっている世界だからこそ、我々ができることをあきらめずに続けていく、それが大事だと感じています。我々UNRWAもパレスチナ難民の支援を今後とも続けていきます。
パレスチナ難民を裏切らない、放っておかないことがUNRWAから国際社会や日本の皆さんに伝えられるメッセージになると信じています。