幼い子がいる両親にとって、体力作りに精を出すのは難しいことかもしれない。ランニングシューズのひもを結ぼうとしたり、ヨガのマットを広げようとしたりしたときにかぎって、お菓子のおねだりをし、(習い事などに)送っていってとだだをこね、ささいなことを聞いてくる。
だからといって、運動を中止するのはやめよう。逆に、子どもたちを取り込んでしまおう。一緒にやれば、家族との時間とフィットネスが一体となり、健康的な習慣にもつながる。親が活動的だと、子どももそうなり、活発な大人になることが多いという研究結果も出ている。
子どもと一緒にやるなら、「完璧な体力作り」を目指す考えを捨てる必要があるかもしれない、とケリー・ブライアントは語る。フィットネスアプリ「Future」の指導員だ。5歳の娘と2歳の息子がおり、ちょくちょく一緒に体を動かしている。
でも、ご心配なく。本格的なトレーニングをするには、さまざまなやり方がある。
子どもに役割を与えよう
たいていの人は、子どもとトレーニングするなら、子ども向きの運動が必要だと考える、とブライアントは指摘する。例えばダンスパーティーや、ディズニーのヨガのビデオだ。「でも、自分の体重を利用したトレーニングは、どれも十分に子ども向きになる」とブライアントは明言する。
彼女自身の子どもも、ジャンプを取り入れた運動が大好きだ。しゃがんで跳び上がるスクワットジャンプ、横っ跳びや縄跳び、トレーニング用の踏み台を利用してさまざまなステップを踏む運動、足を開いたり閉じたりして跳びはね、頭の上で手を合わせるジャンピングジャック。腕立て伏せの姿勢と、しゃがんだり跳び上がったりする動作を組み合わせたバーピージャンプは、「子どもがとくに夢中になる」とブライアントは目を細める。
動作をみんなで一緒にやってもよいし、パートナー形式にしてもよい、とジェス・シムズは提案する。オンラインのフィットネスジム「ペロトン」のインストラクターで、家族向けのクラスを担当している。
たとえば、子どもがジャンピングジャックとスクワットを5回繰り返す間、親は体を真っすぐに伸ばした状態でひじと足を床について支える腹筋運動「プランク」をする。それから5分間、動きを交代しながらエクササイズを続ける。
子どもがあきてきたら、指導役にしてあげよう。筋トレの回数を数えたり、スマホでタイムを計ったりしてもらう。「トレーニングをワンセット終えるごとに、積み木を一つ渡してもらってもよい」とブライアント。「子どもに責任を持たせ、権限も与えれば、役割をきっちりとこなしてくれる」
エクササイズをゲームにしよう
シムズは、以前は小学校で教えていた。その経験を生かし、大人のクラスで「リスニングゲーム」を取り入れている。曲の中に、ある特定の言葉が出てくると動きを加速させるようにする。子どもと一緒にやるなら、その子が好きな曲に合わせて一緒にジャンピングジャックをし、あらかじめ選んでおいた歌詞を聞いたら決めておいた動きをしよう。
具体的には、こんな感じだ。ビヨンセの曲「ブレイク・マイ・ソウル」を流しながら、「break my soul」という一節を聞いたら腕立て伏せを1回する。あるいは、みんなで足踏みをしながら歌を聞き、コーラス部分に入ったら、腕立て伏せの姿勢から両腕を床についたまま、足を交互に動かすマウンテンクライマーを始める。
「ジェスチャーゲームで体を動かす」ことを提案するのは、米国に拠点を持つ「クランチフィットネス」の幹部マーク・サンタマリアだ。彼の夫と9歳になる双子の家族みんなでよく一緒にやっている。それぞれが紙に筋トレの動きやヨガのポーズを書き入れ、それを入れたボウルから1人が1枚引く。何が書いてあるかはいわずに動作を始め、残りの人たちはその動きをまねる。30秒たったら大声でエクササイズの名称を叫ぶ。それを繰り返していく。
かけっこにも挑もう
寒さが厳しすぎなければ、公園や空き地に競走用のサーキットを作ってみることを先のブライアントは勧める。子どもには特定の順路を自転車で回るようにいって、戻ってくるまでクランチで腹筋を鍛える。戻ってきたら、今度は自分がそのコースを走る。何周かしてみて、タイムがどれだけよくなるかトライしてみよう。
「うちの子たちは、競争なら何でも大好き」とブライアントは笑う。
全力疾走をしてみたいのなら、バッグに軽い小道具を入れて公営のテニスかバスケのコートに行ってみよう、とサンタマリアはいう。コートの片方の端にその小道具を置いて、よーいドン。一つずつ、反対の端に置いて戻る。ただし、親は子の2倍運ばなければならない。これを繰り返し、だれが一番になるか、タイムを計ってみよう(自宅に長い廊下があれば、そこでもできる)。
ちなみに、自転車やキックボードに乗った子どもは、一緒に走るときは格好のペースメーカーにもなってくれるとブライアントは話す。ランニングとウォーキングのインターバルを子どもと一緒に繰り返せば、負荷をもっと軽くすることができる。「これは、子どもがいつもやっていることだから」とブライアント。「30秒思いっきり走って、お花を摘むのに立ち止まり、少し歩いてまた走る、という風に」
遊び場を生かそう
遊具のある遊び場は、全身の筋トレをするのにうってつけの場だ、とサンタマリアは指摘する。まず、外周の境目を利用して、ウォームアップに反復横跳びをしよう。次は遊具。一つひとつが、有酸素運動や体幹、上・下半身を鍛えるトレーニング基地になる。
例えば、ブランコ。「私なら、なるべく遠くに着地するように飛び降りて、スクワットを10回する」とサンタマリア。あるいはブランコの踏み板の上に腹ばいになり、スーパーマンのように体を伸ばす。ただし、両腕はひじを直角に曲げる。そうすれば、背中と臀部(でんぶ)、肩の筋肉を鍛えられる。
雲梯(うんてい)では懸垂をやろう。ベンチを使えば、主に上腕三頭筋(二の腕の後ろ側の筋肉)を鍛えられる。滑り台の階段は、踏み台昇降にも使える。子どもが遊んでいる間に、「そこにあるものを活用するのがポイント」とサンタマリアは説明する。
動画を活用しよう
先のペロトンや「クランチ+」のようなオンラインのフィットネスジムは、家族向けのクラスも持っている。ただし、そんなところの有料会員にならなくても、YouTubeが無料のフィットネス動画の宝庫になる。
ヨガとアクロバットを組み合わせたアクロヨガもその一つで、「体を動かさずにはいられない私の娘のような子」は、普通のヨガよりこちらが好きになるのでは、とブライアントは見ている。
とくに、トランポリンの上でできれば、間違いなくそうなる。踏み台を上り下りするステップエアロビクスも、画像を見ながら一緒にやっている。子どもが使うのは階段の一番下の段か、「どの家庭でも洗面台の前に置いている踏み台」だ。
サンタマリアのお勧めは、非営利団体「Hip Hop Public Health」の無料動画(そのいくつかには、彼自身も出演している)を見て学んだ動きを取り入れて、ダンスを習慣にすること。
彼は、ときどき音声を消してフィットネス動画を映しながら、子どもたちの好きな曲を流すこともある。そうすれば、自分が体を動かしている間、子どもたちは歌いながらつき合ってくれる。
みなさんの中には、こうしたアイデアをいくつか実践できる人もいれば、時間がなくてたった一つしかやれない人もいることだろう。子ども抜きでの運動と比べて満足できなかったと感じたとしても、「決して自分を責めないで」と先のインストラクターのシムズは訴える。
「どんな運動も、それ自体すばらしいことなのだから」(抄訳)
(Holly Burns)©2023 The New York Times
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