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1日1万歩は必要ない? 最新研究でわかった死亡リスク減らすウォーキングの歩数

ニューヨークタイムズ 世界の話題 更新日: 公開日:
イヤホンで音楽を聴きながら公園を歩く。研究者たちは、人が通常1週間に歩く歩数に注目した17件の研究を分析し、約7年後の健康状態を調査した。その結果、1日あたり4千歩弱を歩く習慣は循環器疾患を含むあらゆる原因で死亡するリスクを低下させると結論づけた(Yana Paskova/©The New York Times)

健康で長生きするには毎日1万歩歩く必要がある――。運動科学者は、この考え方が誤りだったことをずっと前に証明した。彼らは、運動量は多い方がいいが、たとえ少しでも動くのは良いことなのだと指摘する。そして今、新しい研究が、毎日の比較的少ない歩数の散歩にも大きな利点があると力説している。

研究者たちは、人が通常1週間に歩く歩数に注目した17件の研究を分析し、約7年後の健康状態を調査した。その結果、1日あたり4千歩弱を歩く習慣があれば、循環器疾患を含むあらゆる死亡リスクを減らすと結論づけた。

米ジョンズ・ホプキンス医科大学の循環器専門医で、今回の研究論文の執筆者の一人セス・シェイ・マーティンによると、個人差はあるものの、これは30分から45分、あるいは約2マイル(約3.2キロ)のウォーキングに相当するという。しかし、より歩数が増えれば、健康状態は一層良くなる。死亡リスクは、1千歩多く歩くごとに15%低減したという。

「これは、私たちが推奨できる最良の薬です。ただ散歩に出かけるだけでいい」とランダル・トーマスは言う。メイヨー・クリニック(訳注=米国を代表する医療機関の一つで、ミネソタ州ロチェスター市に本部がある総合病院)の心臓病予防専門医だが、今回の研究には関与していない。

今回の研究では、歩数自体が病気の発症や死亡リスクを低減するのか、それとも健康的な人は1日を通してより多く歩く傾向があるのか、いずれが真相かを明確に見分けることはできなかった。

それに、研究者たちはいくつもの研究データを組み合わせて歩数4千の指標を設定したため、すべての人に同じ効果がもたらされるわけではないかもしれない。カナダのマクマスター大学准教授ジェニファー・ハイズはそう指摘する。「Move the Body, Heal the Mind(体を動かし、心を癒やす)」の著者だ。今回の研究にはかかわっていない。

マーティンは、「それを、正確に超えなくてはならない歩数、という魔法のような数字と受けとめてほしくないです」としたうえで、「多ければ多いほど良いのです」と言う。

ハーバード大学医学部教授で歩数と健康に関する専門家イ・ミン・リーによると、この原則は運動研究ではすでに十分に証明されている。彼女は今回の研究には関与していないが、この研究はフィットネスが「すべてかゼロか」ではないことを強調していると指摘する。つまり、どれほどわずかな運動でも役に立つ。

寝室からバスルームに行くとか、コーヒーを買いに急に出かけるといった私たちの日常生活のちょっとした動きの一つひとつが積み重なり、違いをもたらすのだと彼女は言う。

だが、自分は活動的ではないと思っている人や、慢性疾患を抱えているために運動をするのに苦労している人は、運動の価値を過小評価しているかもしれないとハイズは指摘する。ブロック(区画)をもうひと回りするとか、10分間の散歩休憩に出かけたりすることで大きな効果が得られるというのだ。

これらの研究で、歩数が上位の人たちは、ランニングやスポーツなどですでに体を動かしている可能性があるとリーは言っている。より多く動くことでもっとも多くの恩恵を得られるのは、歩数が少ない人たちだ。

マーティンによると、追加の運動を(日常生活に)組み込むためには、フィットネストラッカー(訳注=腕や腰につけるデジタル端末で、心拍数や歩数、消費カロリーなどユーザーの運動による成果を自動的に計測し記録する)か、スマートフォンに内蔵された歩数計を使って基準歩数を測ることから始めて、1日に1回だけ歩くことを追加するにはどうすべきかを考えるのが良いという。

彼が提唱するのは、テレビ電話の代わりに散歩しながら電話で会議をするとか、駐車する時は遠くに車をとめること、子どもを公園に連れて行って追いかけっこをすることなどだ。

「人は、『まあ仕方がないけど、これじゃあ1万歩に達しない。それに近い歩数にすら届かないのだから、わざわざそんなことをする意味があるの?』と思うかもしれません」とハイズは言う。

「それではがっかりしますね。でも、何もしないよりましという呪文を唱え続け、実行し続けることで、ほんの短時間のちょっとした運動休憩からも精神的な健康や身体的な恩恵を得ることができます。私はそのように考えています」と彼女は話していた。(抄訳)

(Dani Blum)©2023 The New York Times

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