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「おひとりさま」増える時代 村山先生、孤独は健康に悪いのでしょうか?

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東京大学特任講師の村山洋史さん。人のつながりと健康の関係を研究している=太田航撮影

――「孤独」や「孤立」は健康にも悪いものなんですか。

そうですね。「孤独」(loneliness)は主観的なもので、孤独感のことです。「孤立」(isolation)は「社会的孤立」とも言いますが、友人がいない、ほかの人と連絡を取っていないといった、客観的な状態を指します。「孤独」と「孤立」のどちらも健康に悪いということが分かってきました。

――どれほどの影響があるのですか。

孤独感にもつながる「社会的つながりの少なさ」が死亡率に与える影響を調べた研究は様々あります。結果は少しずつ違うのですが、それらを集めて分析した研究が2010年に出版されました(※1)。不健康の王道のような、喫煙、飲み過ぎ、太り過ぎ、運動不足よりも強い影響力があるという結果が出ています。同様に、「孤独」や「孤立」も、死亡率をかなり引き上げることが分かっています。

――どんな病気になるリスクがあるのですか。

孤独を感じることによって、そのストレスから体の中で炎症が発生し、血管系の疾患、例えば心血管疾患、脳血管疾患を発症するという研究があります。免疫力が下がって感染症にかかりやすくなるため、肺炎など呼吸器系の疾患にかかってしまうという研究もあります。

糖尿病、がん、認知症、抑うつのリスクになるという研究もありますし、自殺を引き起こすという研究もあります。さまざまなメカニズムで、死亡に結びつくのだと考えられます。

――「孤独」が病気を引き起こすメカニズムはどこまで分かっているのですか。

体の中で起こる反応を詳細に解明している研究は少ないのですが、さきほど説明した炎症反応や、免疫系が弱まることは分かっています。「孤独」や「孤立」の状況に置かれてしまうとストレスを感じるので、悪影響があると考えられます。

東大特任講師の村山洋史さん=太田航撮影

社会生活を通じた、体の外で起こるメカニズムもあります。「孤独」や「孤立」の状態で、ほかの人との接触が少なくなると、健康に関する有益な情報や周囲からの支援を得にくくなり、健康的な生活の維持が難しくなる、ということなどが考えられています。

――「孤独」は伝染する、そう指摘する研究者もいます(※2)。本当にうつるものなんですか。

感染症ではないので、触ったりしてうつるものではありません。しかし、人はほかの人の態度や行動から多大な影響を受けています。そのため、近しい人が孤独の状態に陥っていると、自分の気持ちも沈んでしまい、同じように孤独感を抱いてしまうことは大いに考えられます。また、地域や社会全体で考えても、孤独な人たちが増えていくと全体の活気がなくなってしまい、負のスパイラルとして孤独な人たちが増えていってしまう、ということが考えられます。

――「孤独」とSNSとの関係について教えてください。SNSを使っている人の方が孤独を感じやすいという研究(※3)もあるようですが。

SNSを悪者にするのはどうかと思います。孤独との関係についての研究はまだ始まったばかりですが、SNSが孤独感を増やすという研究も、減らすという研究もあります。フェイスブックに熱中するほど、仮想空間での人間関係が豊かになる一方で、現実世界の人間関係が乏しくなるという研究もあります。

SNSはリアルな人間関係を補完することはできますが、取って代わるものではないということでしょう。SNSとリアルな人間関係を上手に併用していくのが良いのではないでしょうか。

――外国に比べて日本の「孤独」は深刻なのでしょうか。

OECDの調査などで、日本はひときわ社会的孤立者が多いとされています。この結果を踏まえると、「孤独」も同様の状況だろうと予想できます。「孤独」は先進国共通の問題ですが、日本は高齢化によって独居高齢者の数が増えているので、より深刻なのだと思います。

――「孤独」は先進国特有の問題なのですか。

先進国特有の問題かといわれると、疑問があります。途上国でも、都市部ではそうした問題があると聞いたことがあります。途上国で健康について問題になるのは、まず感染症です。そのため、「孤独」や「孤立」はまだあまり注目されていないということではないでしょうか。

「疫学転換」と言うのですが、社会の経済力が上がり、衛生状況が改善すると、感染症などは解決に向かう半面、がんや心疾患などの生活習慣病が課題として台頭してきます。その生活習慣病のリスクを高めるのが「孤独」や「孤立」なので、先進国では注目されています。

――村山さんの研究について教えてください。

地域のつながりが、特に高齢者の健康に与える影響を調べています。全体的には、地域のつながりがあるところ、つまり、都市部よりは地方部のほうが健康状態が良いと言えます。みなが信頼しあって助け合いも自然とできる地域だと、心理的ストレスが少ない、健康に関する情報が伝わりやすい、一致団結しやすく、何かあったら地域がなんとかしてくれるという安心感がある、といった理由が考えられます。

ただ、絆が強すぎるところでは逆に、抑うつの発症率や死亡率が高いといったデータがあります。絆が強すぎると閉鎖的な雰囲気になりがちで、地域のルールや慣習に従わないといけないという圧迫感からストレスを感じてしまうことなどが、悪影響を及ぼしていると考えられます。ほどほどに結束が強いほうが、健康には良いと言えそうです。

――単純ではないんですね。

はい。さらに、結束が強い地方部では、居住年数が長い人より短い人の方が健康状態が悪いという調査結果も出ています。密に結束する周囲とのギャップ、疎外感を覚えやすいことが影響していると言えるでしょう。地域とのギャップについては米国の研究もあり、経済的に貧しい地域に住む裕福な人や、裕福な地域に住む貧しい人の死亡率が上がるという結果もあるんです。

居住年数のほか、他人の目をどれだけ気にするかといった「世間体意識」と健康の関係も調べているのですが、地方部の高齢者を対象にした調査では、世間体をあまり意識しない人の方が体を動かしていることが分かりました。世間体意識が強い人は、「運動していると暇な人と思われるんじゃないか」などと、周囲の目を気にしてしまい、運動を控えてしまうのではないかと考えています。


むらやま・ひろし 1979年生まれ。東京都健康長寿医療センター研究所、ミシガン大学公衆衛生大学院を経て、2015年から現職。専門は老年学、公衆衛生学。近著に『「つながり」と健康格差』(ポプラ新書)。