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高齢女性の調査で見えた「1日4500歩でも死亡リスクは下げられる」

ニューヨークタイムズ 世界の話題
「1日1万歩が理想」とする説は、日本の時計メーカーの商品名「万歩計」(1984年に登録商標を取得)が起源で、世界に広まった神話らしい=2019年6月20日、大野拓司撮影

健康を維持するためには、毎日何歩あるくべきなのか?

高齢の女性の活動と死亡率に関する新しい研究によると、(健康維持に必要な1日当たりの)合計歩数は多くの人が考えているよりも少なくていいし、歩数をわずかに増やすだけでも意味がありそうなことがわかった。この研究はまた、携帯電話の多くやアクティビティー・モニター(活動量計)に組み込まれている一般的な1日1万歩という運動目標の妥当性、有益性、その由来に疑問を呈し、運動として勘定に入れるかどうかはともかく、体を動かすことは寿命を延ばすのに役立つ可能性があることを示唆している。

今日では、ほとんどの人はウォーキングなど身体活動が健康に不可欠であることを知っている。活動的な人たちは心臓病や肥満、2型糖尿病になりにくく、ほとんど体を動かさない人よりも一般的に長生きであることを複数の研究が証明している。しかし、どのくらいの運動量が必要なのか、強度はどの程度がいいのかといった問題については、私たちの多くがよく分かっていない。

米国をはじめ、多くの国々の公式な運動ガイドライン(指針)は、成人に対し、ウォーキングのような中強度の運動を少なくとも週に計150分間行うことを推奨している。こうしたガイドラインは、大部分が、人びとの活動時間の長さとその後の健康状態を関連づけた過去の研究を基につくられている。

だが、時間でトレーニングを測るのは好ましくないと考えるようになった科学者たちもいる。

「人びとは週150分間の運動が実際に何を意味するのか、直感的には理解できないかもしれない」とI-Min Leeは指摘する。今回の新研究を主導した米ハーバード大学医学部教授の彼女は、身体活動を測定するには歩数は簡単かつ具体的で便利な尺度だと言っている。私たちは、歩数の観念を理解できるし、いかに加算するかも分かっている。

ところが、これまでは歩数と健康を関連づけた研究がほとんどなかった。なぜかというと、主にそうした研究をするには、人びとに活動量計を身につけてもらう必要があり、どのくらいの頻度で運動をしているかを研究者に告げるだけではすまないからだった。

Leeと同僚たちは米医師会発行の医学誌「JAMA Internal Medicine」に発表した新しい研究で、早期死亡を避けるために必要な歩数を客観的に定量化しようと試みた。

歩数はスマホのアプリや歩数計(右)で簡単に計測、記録できる(一部写真を加工しています)=2019年6月20日、大野拓司撮影

多くの人は、その答えを1万歩と想定するかもしれない。活動量計のほとんどが1万歩を目標基準値として設定しているからである。しかし、Leeによると、その歩数を理想とする科学的な根拠はない。1万歩という考え方は、日本の時計メーカーが1960年代に打ち出したのが起源らしいと彼女は言う。日本語の商品名の「万歩計」(訳注=山佐時計計器<YAMASA>の登録商標)を英訳したもので、どういうわけか、それが理想となった(過去には、心臓病にならないようにするには1万歩以上歩く必要があるとする研究もいくつかあった)。

今回、意味論ではなく科学的な研究に活用する目的でLeeたちは「Women’s Health Study(WHS=女性の健康調査)」から得た大量のデータの分析に着手した。このWHSは高齢女性の健康と習慣との関係を数十年間にわたって追跡した調査研究である。

その調査研究の一環として、何千人もの高齢女性がそれぞれ1週間、高性能の活動量計を着用し、1日を通して1分間当たりどれだけ歩いたかを追跡した(ただし、女性たちには合計歩数の数値が読めないようにしたため、測定値を知ることも数字に反応することもなかった)。

女性たちはまた、研究者に対し、自分たちの健康状態やライフスタイルに関する情報を伝えていた。

研究者たちは、計約1万7千人の研究対象の歩数と健康に関するデータを集めた。研究対象の大半が70歳代で、健康状態が悪いとした女性は一人もいなかった。研究者たちは、4年から5年後の安否確認を追跡調査し、歩数と死亡率との関係を比較検証した。

そうした比較から、次のことが判明した。動きが最も少なく、1日2700歩ほどしか歩かなかった女性は追跡調査の期間中にほとんどが死亡した。一方、1日約7500歩を安定的に維持していた活動的な女性は、早期死亡のリスクがかなり少なかった。

同時に、このデータで分かったのは、1日約4500歩が早死リスクを減らす最適歩数であることだった。約4500歩の基準値に達した女性の場合、追跡調査期間中の死亡率は、1日2700ほどしか歩かなかった人よりも約40%低くなる傾向があった。

「そうした比較的少ない歩数が実質的な死亡率の低下と関連があることに、私たちはとても驚いた」とLeeは語った。

そのデータは、急いで歩く女性がほとんどいなかったことも示している。彼女たちはおおむね、勢いよく歩くというよりは散策するように歩いた。運動のために歩いた人もほとんどいなかった。ただし、この研究では歩きの強度は問題にしていない。死亡率と関連づけたのは歩数であって、歩くスピードではない。

もちろん、この研究は高齢の女性が対象だった。したがって、この研究で判明したことが男性や若年者、あるいは病気その他のリスクにも当てはまるか否かを知るのは不可能だ。研究者たちは、「体が弱かったり、病気になったりした女性の歩数が減り、死期も早まったというだけのことで、歩数と寿命との関係性を示すものではない」という可能性を考慮して調整を試みたが、調整しきれたとは考えられない。

それでも、ここで判明した事実は、歩数が運動量を測定するのに有用であり、歩かないよりは歩いた方がいいことを示唆しているとLeeは言っている。(抄訳)

(Gretchen Reynolds)©2019 The New York Times

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