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京都の仕出し料理店 祇園街に届ける「はんなり」の美意識 受け継ぐ6代目の思い

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松花堂弁当は十字の仕切りを生かして盛りつける。季節の椀(わん)とお造りが付く
松花堂弁当は十字の仕切りを生かして盛りつける。季節の椀(わん)とお造りが付く(税込み7560円)=京都市東山区、長沢美津子撮影

ふたをとった時の眺めは、花咲く野の景色か友禅のすそ模様か。四角い弁当箱のなかに、京都の美意識が凝縮されている。ハレの日の弁当というひとつの食文化を、いまの時代に受け継いでいる。

仕出し料理店「菱岩(ひしいわ)」(京都市東山区)の創業は江戸後期、祇園街を中心にお茶屋の席や南座の幕あいなど、さまざまな「場」に、ごちそうの弁当を届けてきた。

「菱岩(ひしいわ)」ののれんには「山冝羹宜(さんぎかんぎ)」(東山はすばらしく料理もおいしいの意)と書かれている
「菱岩(ひしいわ)」ののれんには「山冝羹宜(さんぎかんぎ)」(東山はすばらしく料理もおいしいの意)と書かれている=京都市東山区、長沢美津子撮影

もっとも注文の多いのは春の桜と秋の紅葉の頃だというが、商家の多い土地柄で、節目の行事や客へのもてなしに仕出しを頼む習慣は残っている。

夏の祇園祭では、親族の集まる宵山の日の食卓に松花堂弁当を、という長年の得意客がいる。

目の前で作りたてを出す料理と、どんな違いがあるのだろうか。

「いつ食べても変わらないおいしさを考えています」と、菱岩の6代目にあたる川村晃史さん(39)は話す。

焼くもの、炊くもの、あえるもの。素材や調理法はさまざまに、定番と季節の味を取り合わせてある。

夏は焼き物の魚にスズキ、あしらいに枝豆を使うなど見た目にもさわやかだ。とはいえ弁当の基本は、だし巻きと白いご飯。その軸があってこそ、飽きずに食べすすむことができる。

「菱岩」の折り詰め(写真は「花」税込み5940円)。素材の切り方もさまざまで、絵を描いたようだ
「菱岩」の折り詰め(写真は「花」税込み5940円)。素材の切り方もさまざまで、絵を描いたようだ=京都市東山区、長沢美津子撮影

弁当ならではの手のかけ方があり、卵はだしと一緒にくず粉を加えて焼くことで、汁気が流れ出ずにしっとりした食感を保つ。冷えたご飯はそれだけかたくなるので、俵型にする時に強い力をいれない。時間をおいた先を計算にいれる。

折り詰めの盛りつけは「山水盛り」と呼んで、山から川へ自然に水が流れていくように、奥を高く手前を低く。

色彩は豊かだが、目立つ赤色の素材は車エビとサツマイモほどに抑え、派手とは違った華のある美しさを描く。形や食感の違いに遊び心がある。

京都で「はんなり」というこの美意識を、川村さんはともに調理場に立つ父から学んできた。「五感に感じることを言語化するのは難しいですが、どう次に伝えられるか考えていきたい」

折り詰めの掛け紙には山の景色が描かれている
折り詰めの掛け紙には山の景色が描かれている=長沢美津子撮影

料理屋の弁当を「その場にふさわしい食事になるように、お客さまと作りあげていく世界」だという。

箱にふたをするまでに注がれた時間が、伝統を支えている。