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シュクメルリ以外にもあったジョージアの絶品料理 タバカとサツィーヴィ

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。 更新日: 公開日:
原産のくるみのソースを使った煮込み「サツィーヴィ」=竹内章雄撮影
原産のくるみのソースを使った煮込み「サツィーヴィ」=竹内章雄撮影

ジョージアで食べて一番驚いた料理の話をしたいと思います。なぜ驚いたかというと、当たり前の素材で簡単に作れるのに、それまで見たことのない「コロンブスの卵」のような料理だったからです。

それは「タバカ」という、1キロ未満の雛鶏を開いて焼いた郷土料理です。ぺちゃんこローストチキンと言った方がイメージしやすいかもしれません。

初めて出会ったのは、現地の家庭だったか、レストランだったか、民宿だったか…。覚えていないくらい、よく見かけました。

ジョージアの郷土料理「タバカ」=荻野恭子さん提供
ジョージアの郷土料理「タバカ」=荻野恭子さん提供

ジョージアの人はスプラと呼ばれる宴会が好きです。長いテーブル上に前菜からメインまでずらっと料理を並べて大勢で楽しむスタイルです。

「タマダ」という宴会部長が仕切る文化もあります。タバカは宴会で必ず登場する主菜の一つです。

ジョージアではなぜ、鶏肉をぺちゃんこに焼くようになったのでしょうか。欧米でローストチキンといえば、丸ごとオーブンで焼くのが通常ですが、タバカは、小さめの雛鶏を胸の方から切り目を入れて開き、鉄板やフライパンで焼きます。

オーブンを使わないのが特徴的で、ステンレスの重石をアイロンのように肉にのせ、ぎゅーっとプレスした状態で両面焼きます。すると、余分な鶏の脂が落ちて皮はパリパリ。中はジューシーに仕上がります。

レストランに飾られていた宴会(スプラ)の絵=荻野恭子さん提供
レストランに飾られていた宴会(スプラ)の絵=荻野恭子さん提供

いわゆる姿焼きのローストチキンはオーブンで焼くと1時間以上かかりますが、タバカの調理法だと半分以下の時間ですむので合理的です。

焼き加減も自分で調整でき、とにかくオーブンに入れなくていいという手軽さがあります。

民宿やレストランの厨房では鉄板で焼いていましたし、家庭にホームステイしたときには、鉄のフライパンを使った作り方を教えていただきました。雛鳥ですので小さく、フライパンでもすっぽり入ってしまうんですね。

素焼きの壺「ティティラ」で鶏肉の皮目を焼き、焼いた脂を壺に吸収させてパリッと焼き上げる料理もありました。これも考え方は同じです。

食べ方はシンプルに塩です。アジカ(辛いという意味)というチリソースをつけることもありました。

鶏肉は宗教上、規制のない食材ですので、ベジタリアンでない限りはほとんどの国で食べられています。では他の民族はどうして同じような調理法を考えつかなかったのか?そこは不思議でした。

けれども、現地の人は意識したことがないようです。私から見れば「眼から鱗」でも、「昔からこうしているんですよ」とそっけない答えです。

この料理が生まれた背景には、ジョージアにオーブンがないことが関係しているのではないかと思っています。コーカサス地方の代表的な料理である「シャシリック(串焼き)」やパンなども焼く時にはタンドールが使われます。

タンドールといえば北インドのナンやタンドリーチキンを思い浮かべる方が多いかもしれません。

ジョージアのタンドールもインドの壺型タンドール同様、井戸のような形をしています。内側の壁面に生地を貼り付け、端に渡した棒に串をぶら下げて炭火で焼きます。もともとはイランから伝わった文化です。

串焼きはぶら下げて焼くことができますが、鶏を丸ごと一羽焼くのは火の回りがまばらになって効率も悪い。そこで半分に切って鉄板やフライパンで焼くようになったのではないか、というのが私の考察です。

ジョージアのタンドール。内側の壁に生地を貼り付けてパンを焼く=荻野恭子さん提供
ジョージアのタンドール。内側の壁に生地を貼り付けてパンを焼く=荻野恭子さん提供

ジョージアは農産物に恵まれ、食材が豊富です。また、食材の脂を上手に活用し、健康長寿食の国でもあります。

ぶどうやくるみ、小麦などがよくとれるので、ワインや粉物料理が有名ですが、人々は鶏肉。もよく食べます。前回取り上げた「シュクメルリ 」もまた、鶏料理ですね。

本来遊牧民である彼らにとって春は家畜の出産の季節です。夏は生育の季節であると同時に乳製品の旬。秋口からは肉が傷みにくくなるので、十分仕事をし終えた家畜を解体し、干すなどして冬に備えます。

このように、家畜は通年食材というわけにはいきませんので、飼育が楽で繁殖率も高い鶏肉が遊牧民のサイクルを支えてきたのでしょう。

鶏は人間より小さく解体しやすいですし、餌も少なくてすむ。放し飼いもできる身近なタンパク質源といえます。

ジョージアを初めて訪れた1980年代、酪農家はそれぞれで家畜を解体していました。市場では野外で鳥籠に入れたまま売るのが定番のスタイル。ホームステイをした際には、生きたまま足をくくった鶏を渡されて驚いたものです。恐る恐る、ぶらぶら下げて持って帰り、さばいて調理するのが当たり前でした。

時代も変わり、育ててさばける人は少なくなっています。市場でも生きた鶏が売られているのを見ることが少なくなりました。代わってパッキングされた丸鶏が増えました。養鶏を営む家でも解体場に持ち込むようになっているようです。

どこの家でも、鶏が放し飼いになっていた=荻野恭子さん提供
どこの家でも、鶏が放し飼いになっていた=荻野恭子さん提供

ジョージアの伝統料理は、くるみや鶏肉のコクを上手に活かしたものが多いです。原産のくるみのソースを使った鶏肉の煮込み「サツィヴィ」や、春はインゲン豆、冬は雛豆などを使ってくるみであえる豆の和え物「ロビオ」、ほうれん草のくるみあえ、ナスのくるみペーストサラダ、くるみのお菓子など、実に様々なものに使われています。

鶏肉は焼けば脂が出ますし、くるみにも油脂があります。サツィーヴィのように両方を組み合わせて焼いたり煮たりした料理は、加える油も少なくて済み、ヘルシーです。

私がお世話になった家庭でも鶏肉を一羽さばいたら、まずはタバカのように焼いて脂を落とすか、骨付きのままコトコトとゆでるかのどちらかでした。

ゆでるとタンパク質が肉に残り、脂分は旨味となってスープに分散されます。ゆでたものは、まずはそのままスープに、くるみをつぶしたものを加えて煮る、あえるなど、様々な料理に展開してうまく鶏の油を分散させて使っているのに感心しました。

脂を上手に使ったジョージアの料理は、乳製品や油脂分をふんだんに使用するヨーロッパ各国の肉料理とは違った印象です。

シュクメルリのように乳製品で煮る鶏料理は、例えば、タバカを翌日アレンジして作ることもできますし、サツィーヴィのくるみを乳製品に替えた料理ともとらえられます。

確かなことは分かりませんが、もしかしたら乳製品を好む若い世代向けの、比較的新しい料理として定着したメニューなのかも知れないですね。

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サツィーヴィ(鶏のくるみソース煮)

●材料

鶏肉 1枚
くるみ 50g
玉ねぎ(みじん切り) 1/4個
にんにく(みじん切り) 1かけ
塩  適量
スパイス(サフラン、フェヌグリーク、チリパウダー) 各少々
酢 小さじ1
油 大さじ2

●作り方

  1. 鍋に湯2カップをわかし、鶏肉と塩小さじ1を入れて煮る
  2. フライパンに油を熱して玉ねぎ、にんにくを炒める
  3. くるみはローストしてすりつぶす
  4. 1の中に2、3、スパイス、酢を入れて混ぜ合わせ、塩で調味する