――議会ではどのような証言をしたのですか。
米国時間の6月13日に開かれた「中国問題に関する連邦議会・行政府委員会」(CECC)の聴聞会で証言しました。
北朝鮮と中国の国境が再び全面的に開放されれば、北朝鮮に対する人道支援や情報の流入という点では大きな助けになります。一方、中国は脱北者を迫害を逃れた難民とは認めず、不法入国者として強制送還する政策を取っています。国境が再開されれば、中国の収容施設にいる脱北者が北朝鮮に強制送還される懸念があると訴えました。
現在の米中関係は良くありません。米議会も、香港など中国の人権問題には関心がありますが、北朝鮮に対する関心は高くありません。米国が、(中国で捕まった)脱北者の強制送還問題に積極的な役割を果たしてもらいたいと思います。
――議会では、中国の収容施設が拡張された様子を捉えた衛星写真も公開されました。
私たちは約20年間調査を続け、以前から北朝鮮に近い中国国境地帯に、中国公安辺境部隊(PSBDC)が運営する6カ所の強制収容施設があることを確認しています。ここに、主に脱北者が収容されているとみられています。
衛星写真で確認したところ、新型コロナウイルスの感染拡大が起きた後の2021年ごろ、延辺朝鮮族自治州の和竜市にある収容所が拡張した事実を確認しました。
簡単に結論は出せませんが、新型コロナの感染拡大が始まってから3年半、中国は北朝鮮に脱北者を強制送還していません。それまでは、1カ月に1度くらいの頻度で脱北者を送還していました。現在、中国には1万人以上の脱北者が隠れ住んでいるという証言もある一方、強制収容施設の収容者が2000人ほどになるという証言もあります。
――中朝国境地帯を中心に、中国で約2万人の北朝鮮からの海外派遣労働者が働いているという情報もあります。
派遣労働者は脱北者と異なり、北朝鮮当局が公式に認めた人々です。社会のエリートとも言えるでしょう。ただ、労働者たちもこの3年以上、北朝鮮に住む家族たちと面会もできず、不満がたまっているという話は聞いています。
――脱北者が中国の国内で行動するのが難しくなっているようですね。
中国ではデジタル化が進み、クレジットカードやスマートフォンを使った決済がほとんどです。昔は、脱北者は、現金で列車やバスのチケットを購入していましたが、今は身分証やカードがなければ、購入できません。
監視カメラの数が増え、AI(人工知能)による顔識別ソフトも発達しているため、脱北者が中国の屋外で活動するには、強い不安が伴うのが現状です。
このため、摘発を恐れたブローカーたちが、脱北者の先導を断るケースが相次いでいます。
以前は1人あたり1500ドル(約22万円)で脱北を請け負っていたのに、コロナ禍前で1人あたり1万5000ドル(約220万円)に値上がりし、2023年の年始時点で2倍以上の約3万8000万ドル(約550万円)に高騰。「7万5000ドル(約1080万円)を支払うと言っても、脱北の手引きを断られた」というケースも出ているようです。
――現在、韓国に渡った脱北者は計3万4000人近くになります。以前は年間2000人程度でしたが、金正恩政権以降は減少し、新型コロナの感染拡大後は年間数十人という状態です。
金正恩政権は国境にフェンスを設置し、脱北しようとする人を見つけたら発砲を命じるなど、警備体制を強化するなどしてきました。新型コロナの感染拡大が始まる前から、脱北が相当困難な状態になっていました。昨年、無事に韓国に到着した脱北者は67人でした。
韓国政府内では国境が開放されれば、脱北者が急増するという見方も出ているようですが、すぐに大幅に増加するという事態は考えにくいと思います。
――金正恩総書記はなぜ、脱北を防ごうとするのでしょうか。
金正恩氏は、北朝鮮の市民たちを最大限、韓国などの外部と接触させないようにしています。外部の影響を受けることを恐れています。また、脱北者が韓国や国際社会に、金正恩体制による人権侵害の状況を伝えれば、金正恩氏らを圧迫する手段になります。
こうした事態を恐れているため、正恩氏は国境を厳しく統制しようとしているのでしょう。