――なぜ、クルドの人たちに関心を持つようになったのでしょうか。
2015年に過激派組織「イスラム国(IS)」と戦うクルド人女性兵士の写真を見て、なぜ彼女たちが自ら武器を持って、戦わねばならないのか疑問に思い調べ始めました。クルド人としての統一された国家をもたず、推定2000人が日本に逃れてきているといわれています。
私自身がミックスルーツをもち、自分の国はどこだと言ったらよいのかをずっと考えてきたこともあり、国とは何かを問う存在として引きつけられました。
――映画制作にあたり、実際たくさんのクルドの人たちに取材されたそうですね。
「ワラビスタン」という言葉が知られていますが、クルドの方々の多くは川口市在住で、隣の蕨市やさいたま市など広く埼玉県内で暮らしています。
川口で取材をしていると、ちょっと歩いただけで本当にいろいろな国の人がいます。ケバブ屋さんの前に中国の食材店があったり、ハラール食品の店をバングラデシュの人がやっていたり、様々な国にゆかりのある人たちが交じりあった地域だと感じます。県境を流れる荒川が印象的です。
(入管施設の収容を一時的に解かれた)仮放免のクルドの人は許可がないと居住する都道府県から出られず、川を渡れない。この川が人によっては「国境線」になっていると知りました。
――若い世代の人たちと交流をもたれた経験が映画「マイスモールランド」のモチーフになっていますね。
日本で教育を受けたクルドの若い人たちのことが気になりました。日本育ちで日本語・日本文化中心になり、父や母に理解してもらえなかったりする部分が出てくる。親とは異なる文化背景を持つことによって、見えない壁を感じていた10代の私自身の体験と重なりました。
10歳ごろまで暮らした町では、私たち家族の他には外国人がおらず、「ガイジン」と呼ばれることが一番嫌でした。ここで生まれ育ってみんなと変わらないのに、自分だけ違うものとされることがコンプレックスでした。
――外国にルーツがあり、日本で生まれ育った若い世代が増えています。そうした人たちにとって日本社会はどう映るのでしょうか。
見た目や話す言語だけで国籍を判断しがちなところが日本にはあると思います。いろいろな人が日本で育ち、日本人として生きている。日本国籍ではなくても、日本をふるさとだと思って生きている人が、川口のような街にはたくさんいます。
最近も「ハーフに見えるけど『純ジャパ』(純粋なジャパニーズの略語)です」といった言葉が、何の抵抗もなくテレビで流れていると人種差別の発想がないように感じます。
映画「マイスモールランド」のオーディションで、複数のルーツをもつ主演の嵐莉菜さんと会ったとき、「日本人って言いたいけど言っていいのかわからない」と話していて、彼女が外に見せているものと内に抱えているものとのギャップを感じました。日本人じゃないと思われているのに学級委員になっていいのか、と葛藤したこともあったと話してくれた。映画の中でサッカーで日本を応援していると言っていいかわからない、という会話シーンに発展させました。
――政府や行政、そして私たちはこれからどのようにしたらよいでしょうか。
新たに生まれている人たちが国籍などを取りこぼさず、全員もつべき権利をもって生きていけるようにすべきです。入管法の改正について、政府は人権を第一に考えなおしてほしい。
また、様々なルーツをもつ人と共生していくために、言語をきちんと習得できるよう、ボランティアの良心に任せきりにするのでなく、行政がきちんと取り組むべきです。
私たち一人ひとりが出会う人との接し方を考えてみることだと思います。目の前にいる人にどんな背景があるのか、決めつけずに想像力をもつこと。
学生の時は「(あなたも)日本人じゃん」と言われると心からうれしかったです。でも今は、自分のもう一つのルーツを打ち消すことにもなると思うようになりました。
日本人かどうかということより、私自身として生きられるようになりたい。いまはそう思っています。