――埼玉県川口市では外国人が人口全体の6.5%を占めています。このように外国人が集まる街は今後日本全体で広がっていきますか。
はい。国立社会保障・人口問題研究所が昨日発表した推計では、近年の外国人受け入れペースが続けば、2048年には外国人人口の総人口に占める割合が6.5%を超えています。
一般に外国人は就労機会の多い都市部に集中する傾向にあります。しかし、技能実習制度のように、農業で働く人を積極的に受け入れれば、農村部でも人口に比した外国人割合が高くなる地域が出てくるでしょう。どのような地域で外国人の人口が高くなるかは、どのような職業で外国人労働者を受け入れるのか、留学生の受け入れに力をいれるのかなど、出入国管理政策や地域の産業構造の変化によって変わります。
いずれにせよ、今後日本人の人口が減少を続け、外国人の受け入れが進んでいけば、川口市と同等の水準になる地域も増えていくと考えられます。
――今まで日本人は外国人のことをお客さんとして捉え、一時的に滞在していずれ返っていく人と捉えてきました。今後家族を呼び寄せるなど外国人の受け入れのあり方が変わる
と、日本社会と外国人と関わりはどう変わりますか。
単身での移住から家族を連れての移住への変化は、定住の一つのステップといえます。私たちの研究チームが実施した調査でも、配偶者や子どもの存在が地域活動への参加など、地域でのつながりを作る一つの要因となっていました。
家族の呼び寄せや在留期間の更新が可能な在留資格での外国人受け入れが増えることによって、顔の見えない、「外国人」としてしか認識されなかった関係が、名前と顔を持った存在としての関係へと変化していく可能性があります。
外国人受け入れの規模や、日本の住宅状況、労働者の受け入れを中心とした政策などの影響で、移民の受け入れを積極的に行う諸外国で生じているような外国人の居住地が明らかに分離されている状況は、日本では生まれていません。そうした分離が生じれば、関係性の形成はより難しくなりえるので、その点には注意が必要かと思います。
――川口の学校では実際に子どもたちがたくさん来て、その中で交流が生まれています。地域との関係に質的な変化は起きてきますか。
私は川口でフィールドワークをしているわけではありませんので、実際に変化が起きているかはわかりません。しかし、実際に家族を連れての移住が広がっているのであれば、関係の変化は期待できるのではないでしょうか。
短期間の出稼ぎとしての移住だと、たとえば長く残業してお金を稼ぐことを優先するなど、地域とつながる余裕が持てません。これに対して、定住して地域の人たちとつながっていくようになると、つきあいのかたちが変わります。
受け入れる側も、例えば同じ子どもを持つ保護者としてなど、日本人と外国人という違いを超えて、立場を共有する状況が生まれてくるので、お互いの関係性の改善につながる可能性があります。
――移民と受け入れ側の双方の関係性を深めていく、もっと互いに居心地よくするための課題は何ですか。
外国人との顔の見える関係をいかに作っていくかだと思います。
外国人と接する機会が増えたからといって、外国人との関係が深まるとは限りません。中京大学の松谷満准教授を中心としたプロジェクトでは、2021年に日本全国を対象に調査を実施し、様々な場面での外国人との付き合いを尋ねました。その結果をみると、人口規模の大きい中国人や韓国人だけでなく、アメリカ人とも1割程度の人に友人付き合いがみられる一方で、日系ブラジル人やベトナム人と友人づきあいがある人は2、3%です。
学校や職場、地域活動での交流は友人関係のきっかけとなりますので、かつて日系ブラジル人や技能実習生についていわれたような、日本人から切り離された空間で仕事と生活をすることが生じないような受け入れの在り方を考える必要があります。
また、相手と対等な立場で関わりあう機会を作ることも重要です。
それには日本人の意識も関わります。外国人との関係では、私たちの国に来させてあげている、働かせてあげているという認識を持ちがちです。こうした考え方を払しょくできないために、外国人と対等な地域住民としてかかわりあって、双方にとって納得のいくルールを作っていくことを難しくしています。
外国人がやって来るのは、日本に来る側だけでなく、受け入れ側がメリットを見いだしているからです。
なし崩し的に受け入れが進んできた現状の中で、日本の外国人の受け入れ状況について、十分な情報が伝わっているわけではありません。現在の日本の外国人受け入れの状況や将来の社会保障や産業のあり方、そのために何が必要なのかについて、政府やメディアが情報や知識を伝え、正面から議論することが求められています。
――外国人の子どもたちの置かれている状況は、どこの国から来たかによっても異なります。変えていくためにはどうしたらよいでしょうか。
外国人の子どもたちの教育や就職は重要な問題で、多くの国で課題となっています。
親世代の不利は子どもに影響するため、子どもの支援に加えて、親世代の雇用や生活を安定させるための政策が必要です。日本では非正規雇用から正規雇用への移動は容易ではありませんが、外国人労働者は日本で最初についた職が非正規雇用であることが少なくないため、そこから離脱することが難しいです。
したがって、親世代の雇用や生活の安定には、日本語能力の獲得や職業訓練だけでなく、非正規雇用から正規雇用に移る仕組み、あるいは、非正規雇用でも安定した生活を送れるような制度が求められます。また、親子間でコミュニケーションの重要性も指摘されています。その意味で、親の日本語学習支援だけでなく、子どもへの母語の教育を行うことも有効です。
外国人の子どもについて、日本で成功例として話される経験談は、たまたますごくいい先生や支援者に出会って進学を進めてくれた、支えてくれたというものが多いとよく言われます。逆に言うと、偶然よい環境に置かれるかどうかの運任せになってしまっていることを意味します。
つまり、学校やボランティア、地域行政に支援の体制を任せた結果、機会の格差が生じています。機会の格差を減らすためには、国として支援体制を整えていくことが必要です。
――支援策を強化しようとすると、公的負担に対して反発なども予想されます。住民に必要なことと理解してもらうためには、どのようなアプローチが必要ですか。
外国人受け入れが公的負担を増やすのではないかという懸念は、日本だけでなく、多くの国でみられています。
先ほどお話しした社会調査でも、外国人増加の影響としてどのようなものがあると思うか尋ねていますが、外国人が増えることによる影響として、仕事が奪われるとか日本文化が損なわれると答える人はそれほど多くありません。
一方、治安悪化への懸念と社会保障費用の負担への懸念を表明する人の割合は高くなっています。
しかし、日本の現状は、高齢化していく社会の中で、生産年齢の外国人を受けいれています。つまり全体としてみると、日本人が保障を受ける側にいて、外国人が制度を支えている側にいるという構図があり、今後この構図はますます顕著になっていくでしょう。
私が以前、スウェーデンのウメオ大学のミカエル・イェルム(Mikael Hjerm)教授と行った、ヨーロッパを対象とした分析では、労働市場政策を失業手当などの給付に限定している場合には、国民は外国人の受け入れに消極的でしたが、こうしたセーフティーネットを維持しつつ、職業訓練などの積極的労働市場政策をとっている国では、外国人の受け入れに肯定的でした。
この分析からそのメカニズムを明確にすることはできませんでしたが、公的負担を単に生活保障のためのものとしてみるのではなく、国の成長につながる投資としてみる視点が、外国人を「パイを奪う競争相手」としてみる態度を弱めた可能性があります。
外国人への支援策に限らず、その政策が社会全体にどのように影響するのかを伝えることが重要ではないでしょうか。
――コロナの流行もあり、日本の経済が落ち込み、外国人にとって昔よりは日本で働くことに魅力的でない状況が生まれています。この現状をどう考えますか。
今まで以上に世界的な外国人労働者の獲得競争が生じています。さらに、中国をはじめ、経済成長や少子化の影響で、送り出し国から受け入れ国に転換する国も出てくると予想されます。
労働者を必要とする産業も各国で似ていますから、外国人労働者の受け入れ規模を維持しようとするのであれば、日本に来たくなるような環境を準備しなければいけなくなっていますが、給与の面での魅力が少なくなってきています。
そもそも日本は労働者獲得に有利な条件をもつわけではありません。たとえば出身国と地理的に近いことも移住者にとってはメリットになりますが、近隣諸国は送り出し国から受け入れ国へと転換しています。
また、日本語をもともと話せる人が多いわけではありません。日本側はある程度日本語能力のある人に来てほしいと思うわけですが、それは短期で働きに来る人からすると時間の面でも、費用の面でも負担になります。
日本語を覚えたことがメリットとなるためには、自国に戻っても日本語が役に立つ環境が必要ですが、そのためには帰国後に日系企業で働くことや日本人を顧客としたビジネスをすることが魅力的な選択肢に見えるような、グローバルな経済の中での日本のプレゼンスが前提になります。
日本に定住するならば、日本語習得はコストとはならないかもしれません。しかし、先ほど触れたように定住を考える場合には、雇用の面だけでなく、自分の家族が居心地よく暮らせるかも問題になります。
現在の経済状況では、給与以外の面で魅力を打ち出せなければ、日本の外国人受け入れをめぐる環境は厳しくなっていくと思います。