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なぜここまで広がった? 世界一の「火葬大国」ニッポン 時代とともに担い手にも変化

World Now 更新日: 公開日:
インドの火葬場の様子。コロナ禍では職員の数を増やし、多くの火葬に対応した
インドの火葬場の様子。コロナ禍では職員の数を増やし、多くの火葬に対応した=2021年4月、ニューデリー、奈良部健撮影

世界の様々な葬法には「死後の世界」「輪廻転生」といった宗教や死生観が関わってきた。

死後、いつか肉体が復活すると信じられているユダヤ教、キリスト教、イスラム教は、火葬をタブー視してきた。キリスト教のプロテスタントは19世紀末から20世紀初頭にかけて、カトリックでも1963年の指針で火葬を容認したが、東方教会では今も火葬は禁忌とされる。イスラム教やユダヤ教でも一般に、戒律にのっとった土葬が厳格に守られている。ヒンドゥー教や仏教では火葬が大切にされてきた。

イスラム教のラマダン(断食月)を前にお墓参りをするインドネシアの人々
イスラム教のラマダン(断食月)を前にお墓参りをするインドネシアの人々=2018年5月、ジャカルタ、朝日新聞社

近代では、産業化や都市化にともなう墓地用地の不足などを背景に、火葬率が上がっている国は多い。

その「最先端」が日本だ。厚生労働省によると、2021年度に行われた火葬151万2511件に対し、土葬はわずか462件。火葬率は99.97%に上る。韓国(89.65%)、英国(78.46%)、イタリア(33.22%)*と比べても、日本が突出して高い。

*2020年、英火葬協会の集計

ロシアによる侵攻が続くウクライナで、真新しい墓が並ぶ墓地に埋葬のための穴を掘る男性たち
ロシアによる侵攻が続くウクライナで、真新しい墓が並ぶ墓地に埋葬のための穴を掘る男性たち=2022年4月、首都キーウ近郊イルピン、金成隆一撮影

ただ、日本全体でここまで火葬が広まったのは、実はこの数十年のこと。1915年は36%、1950年でも54%で、9割を超えたのは1979年以降だ。

富山大講師の遠山和大さん(48)によると、日本では古くから土葬も火葬も行われてきたが、効率的な火葬炉も重機もない時代、どちらも手間がかかるため、ごく一部の人々に限られた。江戸時代ごろまで庶民に墓の習慣はなく、上下の「草」で「死」を覆う「葬」の文字通り、遺体を郊外や山、川など見えないところに置き捨てるのが一般的だったという。

江戸時代には、人口増加に伴って都市部を中心に火葬が広がった。宗教上の理由から火葬が一般的になった地方もある。一方で、火葬に否定的な考えをもつ儒教や神道の影響で禁じる藩もあった。明治時代には神道国教化政策の流れで1873年に火葬禁止令が出されたが、混乱を招き、2年後に解除。以降、人口増や伝染病の流行などを背景に火葬が推奨されていった。

近年は、過疎や少子高齢化、核家族化が進み、先祖代々の墓を「守りたくても守れない」と、故郷の墓を「墓じまい」し、納骨堂などに「改葬」する事例も増えている。2021年度の改葬件数は12万近くに上った。高齢単身者数(2020年)は約670万人と、この20年で2倍以上に。「孤独死」や引き取り手のない「無縁遺骨」の問題を案じる人も少なくない。

日本葬送文化学会会長の長江曜子・聖徳大教授
日本葬送文化学会会長の長江曜子・聖徳大教授=2022年12月1日、千葉県松戸市、荒ちひろ撮影

研究者や葬儀業者らでつくる「日本葬送文化学会」会長の長江曜子・聖徳大教授(69)は「葬送とは、単なる『死体の処理』ではなく、人間しか持たない文化そのもの。今までは親族や地域、会社などが当たり前に担ってきたが、超少子・超高齢化のもと、自らの生前の選択や、社会のセーフティーネットが必要な時代になりつつある」と話す。