1試合あたりの価値はサッカープレミアリーグより上
「電子オークションで4839億ルピー(約7500億円)を獲得し、新たな高みに到達しました。IPL(インドプレミアリーグ)は現在、1試合あたりの価値で世界第2位のスポーツリーグです」
昨年6月、インドクリケット管理委員会のジェイ・シャー事務局長のはクリケットのプロリーグの新たな契約を発表した。
「世界3位」は、サッカーの配信ビジネスが人気を広げる欧州のサッカー・プレミアリーグ(英国)だ。
今後5年間、米ディズニーグループのスタースポーツ社は約3700億円でテレビ放映権を、インド資本の財閥、リライアンスグループはほぼ同額で、デジタル配信権を獲得した。
人口14億人。近く、中国を抜いて世界最大の人口となるインドでは、グローバル資本と地元資本がネット配信の覇権を巡り、熾烈な争いを繰り広げている。
ディズニー資本のスター社に、ソニー資本が入るZeeTV、米アマゾン、そしてリライアンスと米CBSの合弁するバイアコム18など。その中でクリケットは、無二のキラーコンテンツだ。
五輪競技ではないクリケットは日本ではなじみが薄いが、昨年10~11月にオーストラリアであったW杯を世界で約12億8000万人が視聴した人気競技だ。インドやパキスタン、オーストラリア、バングラデシュなどで、英国の統治時代に国民的スポーツとして定着した。
「多くの言語、宗教があり、国と言うより大陸と言えるインドが、一つになる触媒がクリケットなんだ。映画も人気のコンテンツだが、インド人の情熱を表すとすれば、それはクリケットしかない」。スター社でクリケットプロデューサーを務め、現在、国際クリケット評議会のメディアライツ部門を担当するスニル・マノハランさんは説明する。
1947年に英国から政治的に独立したが、長い間、経済での自立と成長に苦闘してきたインドで、代表チームはいつも、人々に勇気を与える存在だった。
ディズニーなどがインドで設立したスター社はこれまで、IPLやインド代表の国際試合放映の権利を独占し、同社のデジタル部門のホットスターは約6000万人もの会員を集める。
昨年11月、ディズニーグループは世界のデジタル会員は2億3500万人超と発表し、会員数はネットフリックスを上回り世界一になった。その中でインドの存在感は大きい。デジタル配信権をリライアンスに奪われ、会員減も危惧されるが、マノハランさんは「代表戦のデジタル権を確保しているから、すぐに急激な減少はしないだろう」と話す。
テレビ3億台に対しブロードバンドは8億回線 今後も成長
いずれにせよ、インドにおいては、今後はテレビよりもデジタルのウェートが大きくなるのは確実だという。
マノハランさんによると、インドは現在、視聴可能なテレビ台数が3億台なのに対し、接続可能なブロードバンドは8億回線あるという。さらに、リライアンスグループが展開する携帯電話事業では、1日1ギガバイトまでのデータ利用が無料。4億人以上の会員がいるという。ネット経由の方が視聴しやすい環境がある。
インドでは今も、夏場は数時間単位の停電が頻繁に起きる電力事情もある。「この間までホットスターのCMのキャッチコピーは『停電でも見続けられます』だった」
配信ビジネスの成長で、発展途上国が社会課題の壁を乗り越える。インドを見ていると、そんな可能性も見えてくる。
年6、7%の成長を続けるインドは、中産階級が現在の3億人から近く5億人まで増える見込みだ。
投資が鈍る気配はない。クリケットの価値も、天井は見えていない。