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イーロン・マスク氏がツイッターCEO辞任を表明、それでも苦しく…テスラにも悪影響

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イーロン・マスク氏
イーロン・マスク氏=2022年2月、テキサス州ボカチカ、ランハム裕子撮影

追い詰められたヒトラーと重ね合わせたミーム

私がツイッターを利用する理由のひとつは、人々が投稿する巧妙なミーム(ネタ画像)を楽しむことだ。12月18日に見つけたあるミームはとても素晴らしく、声を出して笑ってしまった。

このミームは、映画「ヒトラー 〜最期の12日間〜」の有名なクリップに基づいており、戦争末期にヒトラーが地下壕にいるところを映し出している。映像の中で、ヒトラーは将軍たちから戦争がいかにひどい状況であるかを聞かされる。

そして、その部屋にいるほとんどの人に退去を求め、残ったスタッフに対して怒りを爆発させ、完全にメルトダウンしてしまう。

なぜこれが面白かったのか。イーロン・マスク氏が顧問の話を聞いているように字幕が変わっていたからだ。

顧問は、広告主がen masse(大量に)離脱し、ツイッターのライバルであるマストドンの利用が伸びていることを伝える。マスク氏が多くの資金を調達すると反論すると、ルーブル払いの投資家以外、興味を持っていないと言われる。

部屋からほとんどの人を追い出した後、ヒトラー(マスク氏)は、「あなたはこれがcakewalk(楽勝)だと言った」「今、皆がturning against me(私に敵対している)!」と叫び、「彼らは私を“最も裕福な男”と呼んでいた」「キャンセル・カルチャーが私をcome for(攻撃しにきた)」と嘆くのである。

パニックに陥った将軍たちに囲まれて冷静さを失っているヒトラーのビジュアルと重ね合わせると、この言葉は特に皮肉に感じられる。

このミームが面白いのは、この秋にツイッターを買収して以来、気まぐれな運営で頭打ちになり、追い詰められているように見えるマスク氏の雰囲気を完璧に捉えているからである。

マスク氏はツイッターを独裁者のように運営し、一連の疑問のある決定を下し、広告主やユーザーからの好意を浪費してきた。そしてそのbacklash(反発)は、テスラにも悪影響を及ぼし、同社の株は年初から62%以上急落している。

ツイッターは、サイトが正常に機能し続けることができるかどうか疑問視されるほど労働力を大幅に削減し、ユーザーの安全を守るために働いていたチームを壊滅させ、外部の信頼と安全をテーマにした諮問委員会をdisbanded(解散させた)。

COVID誤報の禁止をやめ、ネオナチ、白人至上主義者、ISISやQアノンなど、悪質な行為で停止されていたアカウント(ドナルド・トランプ前大統領を含む)をプラットフォームに復帰させた。

検証プログラムに一連のill-advised(不用意)な変更を加え(そして解除し)、bizarre(奇妙)な暴露にgreenlit(実行許可を与えた)。さらに、公の場でツイッター社員をdressed down(叱りつけ)、マスク氏を批判する勇気のある者を解雇した。それらの判断をwinging it(即興でやっている)ように見える。

嫌気がさして離れるユーザーたち

マスク氏のこのような行動が続くうちに、ますます多くの広告主やユーザーがこのupheaval(激変)とサーカスのような雰囲気に嫌気がさし、プラットフォームから離れることを決意している。

私の英語版アカウントでは、ブランド名の広告主が表示されなくなり(日本語の広告は当分変わらないようだが)、私がフォローしている人々の中にも、サービスをやめるか、利用を大幅に減らすという人が日々増えている(これも日本人以外の人の間で、現在は日本人ユーザーが残っているようだ)。

1人のユーザーである私に観察できるのだから、きっと「ヒトラー 〜最期の12日間〜」のヒトラーと同じように、マスク氏が「将軍」から与えられている数字も、良いものではないだろう。

マスク氏のerratic(不規則)な行動は最近、特に大きかった。ツイッターが、公開されている情報を使ってマスク氏のプライベートジェットの動きを追跡しているアカウント、@ElonJetを停止したことが発端だ…ちなみにマスク氏は以前、こうしたことはしないと言っていた。マスク氏は、他人の「ライブロケーション」を共有するアカウントを禁止する新しいポリシーを導入することで、これを正当化しようとした。

@ElonJetがマストドンに似たようなアカウントを作ったら、マスクはそのポリシーを使って、@ElonJetの新しい存在をプラットフォーム上で宣伝するマストドンのツイッターアカウントを停止させた。

また、マストドンが@ElonJetを宣伝するツイートのリンクやスクリーンショットを共有したため、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、CNNなどのジャーナリストのアカウントも停止させた。

ジャーナリストたちをsilencing(黙らせ)ようとする突然の行動は、多くのユーザーを動揺させた。これらの停止は、マスクがツイッターで投票を行った後、解除された。

辞任表明したが、先行き不透明

12月18日、ツイッターはさらに一歩踏み込んだ。同社はabruptly(突然)、インスタグラムやフェイスブック、マストドンといった他へのSNSへのリンクを禁止すると発表したのだ。

この動きは、メッセージやビデオをプラットフォーム間で自由に共有するオープンなソーシャルネットワークに慣れているユーザーから非常に不評だった。

また、この新しいポリシーは、オープンなウェブへのコミットメントや、会社の意思決定にもっと透明性を持たせるというマスク氏の過去の発言ともantithetical to(対極にある)ように見えた。

サイトのルールがon the fly(その場の判断)でseemingly arbitrarily(恣意的に見えるように)書き換えられるのを目の当たりにし、信頼の危機を招いた。

マスク氏のツイッター買収を支持していたシリコンバレーの著名なベンチャーキャピタリスト、ポール・グレアム氏は、他の競合プラットフォームのプロモーションを禁止する新しいルールによって、ツイッターを「done(あきらめた)」とツイートし、フォロワーにマストドンで自分を見つけるようにと伝えた。

その後、ツイッターは彼のアカウントを停止した。後にアカウントは復活したが、このことは特にシリコンバレーの人々に衝撃を与え、懸念を抱かせ、ユーザー流出にさらに拍車をかけた。他のシリコンバレーの技術者やベンチャーキャピタリストは、ツイッターとは「もうおさらばだ」と言い、代替サービスを模索しはじめた。

マスク氏は後手に回り始めた。競合他社の宣伝を主な目的とするアカウントのみを停止するよう、新しいポリシーを調整したのだ。そしてその直後に、ツイッターのトップから退くべきかどうか、その結果にabide by(従う)かどうかを問う、別の投票を掲載した。"Yes "が57.5%の得票率で勝利した。

マスク氏がこの投票結果に従えば、同社をさらに不透明な状況にthrust into(追い込む)ことになりかねない。CEOのポストから辞任しても、マスク氏は今後もソーシャルネットワークのオーナーであり続けるため、同社の方針に対して大きな影響力を持つことになる。

しかし、彼はまだ誰を後継者に選ぶかを語っておらず、その人物はマスク氏とは異なる、そしておそらくそれほど不規則ではない方法で会社を運営する可能性もある。

「ヒトラー 〜最期の12日間〜」ミームの字幕の一つが示唆するように、ツイッターのトップとしてのマスクの役割は「this is it(これで終わり)」のようだ。

投票が終わった後、マスク氏は、彼らしくない短い沈黙の後、「この仕事を引き受けるだけの愚かな人間が見つかり次第」、CEOを辞任するとツイートした。

山積する課題 逃げ出す広告主たち

しかし、一連のジェットコースターのような出来事の前から、マスク氏のツイッターの管理方法による問題が山積しており、何かを変えなければならないことは明らかだった。ここで彼が直面している諸問題に触れよう。

広告収益に依存しているにもかかわらず(昨年、同社の収益50億ドルのうち90%近くが広告によるものだった)、マスク氏は広告主を遠ざけている。

ワシントン・ポストの分析によると、トップ50のうち14社を含む数十社のツイッターの広告主が、マスク氏による買収以来、数週間のうちに広告を停止したそうだ。

同紙はまた、分析を行った11月の2週間、ツイッターの上位100社のマーケティング担当者の3分の1以上が、ツイッターに広告を出していないことも明らかにした。マスク氏の経営権に対する広告主のskittishness(不安感)の表れと判断している。

ワールドカップは過去にツイッターにとって、記録的なアクセス数と広告費の流入をもたらすものだった。しかし今回のカタール大会が始まった11月20日、ツイッターの米国での広告収入は、その週の社内予想を80%下回る水準で推移していた。

研究者によると、マスクがツイッターを買収して以来、アメリカ黒人、同性愛者、ユダヤ人に対する中傷が急増しているそうだ。

反ユダヤ主義やヘイトスピーチと戦う組織である名誉毀損防止同盟(略称: ADL)は、ツイッターのコンテンツモデレーションスタッフの削減が報告されていることについて、「すでにツイッター上のヘイトのproliferation(拡散)に影響を与えており、あらゆる種類の過激派がプラットフォームに戻ることは、過激派コンテンツや偽情報の拡散をsupercharge(大きく加速させる)可能性を秘めている」と述べている。

オンラインヘイトを反対している組織の最高責任者であるイムラン・アハメド氏はより端的に、「イーロン・マスクは、あらゆる人種差別主義者、misogynist(女性憎悪者)、homophobe(同性愛恐怖症の人)に向けて、ツイッターが営業中であるという強いシグナルを発した」と述べている。

マスク氏がヘイトスピーチを一貫して取り締まるモデレーションシステムを欠き、そのような内容をツイートする者をプラットフォーム上で許可し続ける限り、彼は国内で最も尊敬され影響力を持つ反ヘイト団体の怒りに直面することになるだろう。これは、広告主が流出する要因の一つでもある。

マスク氏の突発的な行動は、同社にとってコストのかかる法的影響を及ぼす可能性が高い。

ツイッターが連邦取引委員会と結んだ、プラットフォームのセキュリティに関する同意協定に彼が違反したかどうか、疑問を投げかけられている。もし、データ・プライバシーに関する法令に違反していると判断されれば、mammoth(巨額)の罰金を科せられる可能性がある。

欧州連合(EU)の域内市場担当委員であるティエリー・ブルトン氏は、最近マスク氏と電話した際、ツイッターがa host of(多数)のEU規制を順守しない場合は、ツイッターを禁止すると警告したと報じられている。

最近のジャーナリストの停職処分は、欧州委員会や国連の公職者からの鋭い非難や、米国の上院議員からのrebuke(批判)を招いた。

労働訴訟も起きている。ツイッターの元従業員グループは、マスク氏が同社で行った大量解雇が複数の労働権侵害を引き起こしたとして、同社を提訴している。

これには、マスク氏による買収後にツイッターがリモートワークを許可する約束や一貫した退職手当をreneged on(反故にした)という主張のほか、障害や性別に基づく差別の疑いに関する苦情、解雇されたツイッターの契約社員を代表する別の訴訟も含まれている。

懸念深めるテスラ株主たち

テスラの株主は、同社の株価がplummets(急落している)結果、そわそわしている。また、マスク氏がTwitterに多くの時間を費やし、サンフランシスコの本社で寝泊まりして大量のツイート(24時間で40件にも及ぶ)を発信していることから、マスク氏がstretched too thin(過剰な仕事抱いてパンク寸前であるになっている)のではないかと懸念しているという。

マスク氏自身がツイッターで、「woke(社会的不公正、人種差別、性差別などに対する意識が高い)」政治や新型コロナウイルス規制に反撃したり、「エリート」メディアを攻撃したり、ハンター・バイデンが父親の政治的影響力から利益を得たという疑惑への注目を煽ったりと、様々なpolarizing(意見の対立を招く)政治観を表明してきた。

そのため、特に歴史的にテスラの重要な顧客層であった左寄りの環境意識の高い人々の間で、同社の車に対する認識が損なわれ始めているのである。

しかし、テスラの問題はツイッターに関連するものだけではない。他の電気自動車メーカーとの競争激化や世界経済の減速、同社の高価な製品群がsaturation(飽和状態)になりつつあることなど、需要の減少にも直面しているのだ。

しかしなぜだろう?

大きな疑問は、そもそもなぜマスク氏が自分をこのような立場に置いたのかということだ。なぜ彼は、自分の財産を危険にさらしてまで、世界最大のツイッター荒らしとなり、このプラットフォームを憎悪のcesspool(巣窟)に変えようとしたのだろうか? 陰謀論は数多くあり、興味深いものもあるが、ここで繰り返し述べるには十分な証拠がない。

個人的には、注目されたいというナルシスト的な欲求もあったのではと思う。実際、買収後、彼は毎日のようにニュースに登場している。その点では、彼は自分の欲しいものを手に入れたのかも知れない。

しかし、その理由は、息を呑むようなスピードで価値を破壊していく光景から人々が目を離すことができないからというもので、あまり誇れないことだろう。

もう一つ考えられる理由は、昨年タイム誌「マン・オブ・ザ・イヤー」に選ばれるなど、テスラとスペースXでの仕事で賞賛を浴びた彼は、自分が優れた経営者であり、どんな会社でも巧みに経営できると信じ、常に収益性に苦しんできたツイッターを改善できると考えた可能性がある。

しかし、ad hoc(場当たり的)な意思決定と数々の物議を醸すツイートの結果、彼が今のところ成功したのは、いかに無能で、未熟で、不愉快な存在であるかを世界に示すことだけだったのではないだろうか。