高級ブランド世界最大手LVMH(モエヘネシー・ルイヴィトン)のワインスピリッツ生産部門「モエヘネシー」は、「クリュッグ」「ドン・ペリニヨン」といったシャンパンで有名だ。
発泡しないワイン36種類も自社製品だが、フランス産は一つもない。米国や南米、オーストラリアなどがほとんどだ。これらの国々は、欧州の伝統生産国ではないという意味で「新世界」と呼ばれる。
新世界にこだわるのは、土地も人件費も安いからだ。買収の機会が少ないボルドーなどに比べ、新世界はオープンでビジネスがやりやすい面もある。
その典型例がオーストラリア・マーガレットリバーの「ケープメンテル」。2003年からモエヘネシーが運営している最新鋭ワイナリーだ。
土壌を分析し、気温や風向きを計算して畑を選んだ。ボルドーの栽培法を基本にしつつも、人工衛星で地表温度を調べ、光学システムで糖度を測って収穫する。
責任者は、モエヘネシーが世界各地の研究機関に派遣して研修を重ねた人物だ。最先端の技術と人材でつくる赤ワインについて、関係者は「ボルドーの有名銘柄シャトー・レオヴィル・ラスカーズにも負けない」と言う。
良年のラスカーズは数万円するが、ケープメンテルは最上級でも6000円。品質が同じなら、お買い得だろう。
新世界の大規模ワイナリーで、最新技術によって品質管理しながら生産する。それがコストパフォーマンスのいいワインにつながっている。
ワイン生産量、欧州は低下、アジアやオセアニアは増
新世界でワインづくりが盛んになったのは1970年代から。なかなか欧州ワインの品質に及ばなかったが、近年は評価が高まり、欧州の相対的な地位が昔に比べて低くなっている。
1995年に世界のワイン生産量の73.1%を占めていた欧州は、2009年に66.5%になった。逆に、アジアは3.5%から5.5%に、オセアニアは2.2%から5%に増えている。
ごく最近では、気候が温暖になっているため、欧州北部やカナダにまで生産地が広がっている。
一方、インドやタイなど熱帯でも、土壌や気候を調べる最新技術で慎重に栽培地を選び、良質のワインが生み出されるようになった。ワインの世界地図は、「新・新世界」ともいえる国々にまで広がっている。
消費量は中国、ロシアで増加
変化は「飲む側」にも見られる。
消費量トップのフランスではワイン離れの傾向があり、数年後には2位の米国に抜かれてもおかしくない。逆に、中国やロシアでは消費が伸びている。
日本ではワインの大衆化が進み、南米や南アフリカなどの安いワインがスーパーに並ぶようになった。サントリーの担当者は「1本700円~1400円程度のリーズナブルな価格のワインが売れている」と話す。
ワインが広がる背景について、生産者や愛好家の多くは「単なる飲み物としてでなく、ライフスタイルの一部として受け止められている」と口をそろえる。
繊細で多様な味や香りを、料理とともにじっくり楽しむ――。ワインは、食事と会話に時間をかける西欧型のライフスタイルを象徴している。逆に言うと、そういうイメージを広げることが、ワインの販売戦略だった。
ワインを飲めば、豊かな生活を実感できる。世界中の人々は、そんな幻想に酔っているのかもしれない。