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秋元康氏は大嫌い…それでもビジネス文脈でみた「365日の紙飛行機」(AKB48)の凄さ

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日本音楽著作権協会賞の贈呈式に駆けつけた秋元康さんとAKB48のメンバー
日本音楽著作権協会(JASRAC)賞の贈呈式に駆けつけた秋元康さん(中央)とAKB48のメンバーたち(左から小嶋陽菜さん、渡辺麻友さん、高橋みなみさん、柏木由紀さん)=2012年5月、岩本哲生撮影

私には、日本がまだバブルに沸いていた1988年から30年もの間、「目の敵」にし続けてきたオッサンがいる。

AKB48の生みの親であり、数々のアイドルグループをプロデュースしては多くのヒット曲を飛ばしてきた作詞家・秋元康氏だ。

ご存知のように、音楽シーンのみならず幅広い世界のクリエイターに影響を与え続ける、平成、令和を代表する異才の人である。

そんな大人物をなぜ、私が目の敵にし続けてきたのか。

それは彼が、よりによって自身が作詞を担当する“商品”・おニャン子クラブの高井麻巳子さんと結婚してしまったからである。

おニャン子クラブの代表曲「セーラー服を脱がさないで」のジャケット
おニャン子クラブの代表曲「セーラー服を脱がさないで」のジャケット。1985年7月発売され、総売り上げは24.7万枚を記録した=1998年12月、朝日新聞社

当時中学生だった私は、人生で初めて女性アイドル、高井麻巳子さんに夢中になっていた。

新曲が発売されると必ず予約購入し、

「俺は高井麻巳子さんにふさわしい男になって芸能界に入り、彼女と結婚して見せる!」

などと公言をしては、周囲をドン引きさせていたほどであった。

そんなある日、高井さんは秋元氏との結婚と芸能界からの引退を発表し、テレビから忽然と姿を消したのである。

私はショックのあまり2日ほど寝込み、学校をズル休みしてしまう。

それでもなんとか気力を振り絞り学校に行くと、机には、

「祝!高井麻巳子結婚!」

「今どんなお気持ちですか~?(笑)」

などと油性マジックで落書きされており、犯人と思しき悪ガキどもとブン殴り合いのケンカになった。

あの日を境に、秋元氏は長く私の「不倶戴天の敵」になったということだ。

おニャン子クラブの作詞家として活躍していたころの秋元康さん
おニャン子クラブの作詞家として活躍していたころの秋元康さん(当時29歳)=1985年10月、朝日新聞社

そしてそれから30年の年月が流れた、2018年頃だっただろうか。

私は“大嫌いなAKB48”の「365日の紙飛行機」を、強制的に聴かざるを得ない拷問に遭わされてしまうことがあった。

(あの秋元の作った歌か…)

付き合いもあり、我慢して聞き始めたのだが、そのうち私はその世界に引き込まれ、気がつけば感動し涙が出てしまっていた。

「この歌には、リーダーにとって大事な考え方のすべてが詰まっている…」

そんなことに、否応なく気が付かされたからだった。

「残念だけど、1年もたないと思う」

話は変わるが、もう7、8年ほども前のことだろうか。

友人が経営するイタリアンの小さな店がラーメン店に鞍替えするということで、グルメ雑誌などで大きな話題になることがあった。

彼は前年、ミシュランのビブグルマンを獲得し、テレビなどで繰り返し取材され、まさにこれからというタイミングだったからだ。

一体なぜそんな無茶なことをするのかと聞くと、こんなことを語る。

「ウチの店は単価も高めでお客さんも1日に5組が限界。それではたくさんの人に楽しんでもらうことができない」

「ラーメン店に鞍替えすれば、多くの人に手軽な幸せを届けられると考えた」

その想いはわからなくもないが、いくらなんでも客層が違いすぎるだろう。

不安に思いながら同僚たちと何度かランチで足を運ぶが、さすがにイタリアンのミシュランシェフが作るラーメンということで、いつも長蛇の列である。

とても待てないということで出直しを繰り返すのだが、3カ月ほど経ったある日、開店直後に並び、彼自慢の新作ラーメンにようやくありつくことができた。

「美味いっすね、これ!スープは鶏とトマトでしょうか。付け合せの野菜もオシャレで、女性ウケしそうですね!」

同僚がしきりに褒めながら、夢中になってラーメンをすする。

確かにラーメンそのものは個性的で美味しく、他では食べられない唯一無二の圧倒的な完成度だった。

この一杯に、彼の並々ならぬ思い入れと世界観が余すところなく表現されており、料理人としての凄さを改めて感じる。

ラーメンの写真
写真はイメージです=gettyimages

しかしだからこそ、私はこう答えた。

「残念だけどこの店、1年もたないと思う」

「えぇ、なんでですか?こんなに美味いのに」

「考えてもみろ。この一杯、着席してから出てくるまで、どれくらい時間がかかった?」

そのラーメンは、私達が着席してから提供されるまで20分以上かかっていた。

後から入ってくるお客さんも同様に待たされており、中にはあからさまにイラつきを見せる客もいて、店内の空気は悪い。

オープンから3カ月も経っているのだから、不慣れなオペレーションということではなくそういうルーティンになってしまっているのだろう。

注文を受けてからひと手間かけたであろう、チャーシュー代わりの分厚いロースト肉の美味しさも、皮肉にもそれを物語っている。

「このオペレーションだと、客1人さばくのに30分以上必要だ。席数は10で、ランチのコアタイムは120分だから、リソースは1,200分しかない。つまり1,200÷30で、この店は最大でも僅か40人しかさばけないことになる」

「…なるほど」

「それで単価が1,000円なんだから、1,000円×40人×25日で、1カ月の売上は最大でも100万円だ。家賃相場、バイトの人件費を考えると粗利を出すのも苦しいんじゃないかな。もたないと思う」

結局彼の店は予想より遥かに早く、それから5カ月もたずに力尽きてしまった。とても残念なことではあるが、当然の結果だった。

こう言うと、彼が数字に疎かったから店を潰したように聞こえるかもしれないが、そういう話ではない。

彼にとって一番の致命的なミスは、「お客さんが求めていること」ではなく、「自分がやりたいこと」を商売にしたことだ。

彼のこだわりは、イタリアンの技法で一人でも多くの人を幸せにしたいという思いだった。

だから安価なイタリアンラーメンをランチで提供しようと考えたわけだが、お客さんがランチのラーメンに求めるのは15分の幸せな時間である。

言い換えれば、お客さんがお店に預けても良いと考えている“人生の貴重な時間”は、入店から退店までの15分程度に過ぎない。

にもかかわらず、お客さんから30分もの時間を頂くようなオペレーションをしてしまえば、お客さんもお店も不幸になるに決まっているではないか。

回転率からも“美味しすぎる材料原価”からも、彼の店がオフィス街のランチで成功できる理由は何一つ見当たらない、当然すぎる失敗だった。

よく世間では、「好きを仕事に!」というキャッチフレーズでそのような働き方を推奨するかのような空気があるが、これは大いなる間違いである。

「好きを仕事に」すると、自分の思い込みや価値観が先行し、お客さんやそれを必要とする人のニーズが二の次になって、客観性を失ってしまうからだ。

良いものを作れば売れるのではなく、売れるものが良いものだというのが、ビジネスとマネタイズの基本である。

自分がやりたいことと、お客さんが求めることが重なり合う領域でしか、ビジネスは成立しない。

そんな基本を再確認させられた、友人の大胆な挑戦と挫折だった。

秋元氏は何を作っているのか

話は冒頭の、AKB48の「365日の紙飛行機」についてだ。

なぜ私が、この歌には「リーダーにとって大事な考え方のすべてが詰まっている」とまで感動したのか。

ご存知のようにこの歌には、余りにもありふれた、使い古されたようなフレーズばかりが並んでいる。

冒頭とサビを抜粋するとこんな感じだ。

朝の空を見上げて 今日という一日が 笑顔でいられるようにそっとお願いした

時には雨も降って涙も溢れるけど 思い通りにならない日は 明日頑張ろう

人生は紙飛行機 願い乗せて飛んでいくよ

その距離を競うより どう飛んだか どこを飛んだのか それが一番大切なんだ

「365日の紙飛行機」(作詞・秋元康、作曲・角野寿和/青葉紘季)

メッセージ性を含めて昭和を思わせるほどであり、全く目新しいところがない。

しかしだからこそ、故郷の食卓に並ぶだし巻きたまごのような、脳裏に浮かぶ安らぎがある。

しかも耳を傾けさせる“何か”が、この歌にはある。

その何かに心当たりがあり、DAMでカラオケをしてみたのだが、すぐに理解できた。

私は何を歌っても80点以上を出したことがない、自他ともに認める相当な音痴だが、この歌では一発で92点が出てしまったのである。

数回聞くだけで歌えるフレーズ、オッサンでも無理なく声が出る音域、規則正しく息継ぎができる構成…。

つまり秋元氏は、ありふれた材料(歌詞)を用い、僅かな練習でも最高の結果が出る楽曲でアイドルをプロデュースし、これ以上はない満足を顧客(ファン)に提供したということである。

ラーメン店に例えるなら、業務を徹底的に標準化し、新人でも1週間でできるオペレーションを組んで、なおかつ行列店にしてしまい、3,000円の時給でその労に報いているようなものだといってよいだろう。

これほど理想的で素晴らしいリーダーが、今の日本にいったいどれだけいるだろうか。

最小の投資とありふれた材料で心を打つ名作を作り、従業員の個性を活かしきり、顧客も幸せにしてしまうリーダーである。

「365日の紙飛行機」にはそのような思想や技術の全てが詰まっており、秋元氏の凄さに感動したということだ。

秋元康さん
秋元康さん=2013年3月、御堂義乗撮影

そして話は、ラーメン店にチャレンジし挫折した友人についてだ。

思うに私たちは、どんなことでも頑張りすぎると思い詰め、考え過ぎてしまい、かんたんに視野狭窄に陥ってしまう。

恐らく彼も、どこかのタイミングで自分を俯瞰し、冷静さを取り戻していれば、提供しているものの間違いに気がつけたのではないだろうか。

ラーメンを求めるお客さんに対し、ラーメンのような”豪華すぎる何か”をたった1,000円で出すという、致命的で根本的な間違いである。

何かを成し遂げたいと願うビジネスパーソンには、熱い情熱と客観的な合理性の両方が無ければならない。

時には意識して「頑張りすぎなくて良い」と自分に言い聞かせ、クールダウンしながら自分の目的地と現在地を俯瞰する時間が必要だ。

そして、そんな時間を過ごす際にはぜひ、「365日の紙飛行機」を聴くことを、オススメしたい。

日本が誇る至宝・秋元康氏が手掛けた名曲である。