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「一つの角度から見ただけでは理解できない国」専門家が振り返るベトナムの半世紀

World Now 更新日: 公開日:
ホーチミン中心部。民族衣装のアオザイを着た女性たちの姿も
ホーチミン中心部。民族衣装のアオザイを着た女性たちの姿も=宋光祐撮影

私は大学院生だった1974年、初めてハノイに来ました。最初は、米国と戦ったベトナムへの憧れがあり、社会主義の国として上からの統制が行き届いた秩序のある社会というイメージもありました。

しかし、実際に見た光景は逆でした。1977年と1980年に日本語教師としてハノイで暮らした時、自分のイメージがいかに一面的だったか痛感しました。

自転車の群れが思い思いの方向に行き交い、狭い公営団地の部屋の中でブタを飼っている人たちがいました。

ベトナム南部カントーの水上マーケット
ベトナム南部カントーの水上マーケット=宋光祐撮影

戦争が終わった後、人々は生活が良くなることを追い求め、それまでの社会主義のシステムが機能しなくなっていました。

自分で生きる術を見いだしていかないと生活が成り立たない。そんな状況の中で人々がそれぞれ勝手な方向を向いて走り回っている。混沌としたエネルギーにあふれた世界なのだと強く感じました。

それから何度もベトナムを訪れ、今は1年のほとんどをハノイで過ごしていますが、「一つの角度から見ただけでは理解できない国」という印象はずっと変わりません。いろんな顔を持っていることがベトナムの魅力の一つだと思います。

日越大学の古田元夫学長
日越大学の古田元夫学長=宋光祐撮影

「過去を閉ざし、未来を志向する」。ベトナム戦争後の中越紛争や1986年から始めたドイモイ(刷新)政策を経た1990年代、政府はこんなスローガンを掲げて各国との外交を本格化させました。

経済成長が軌道に乗り始め、1990年代初頭には、建物はそれ以前と同じでもモノがあふれ、モノトーンだった景色が急にカラフルになりました。店先に並ぶ洋服の種類が増えました。

景色そのものが大きく変わり始めたのは2010年代です。道路を走るのはバイクと自動車が中心となり、大都市には高層ビルが立ち並びます。

サイゴン川から見るホーチミンのビル群。中央にあるビルがベトナム一高い建物「ランドマーク81」
サイゴン川から見るホーチミンのビル群。中央にあるビルがベトナム一高い建物「ランドマーク81」=ロイター

大学で接する若者たちは「今日より明日は良くなる」と、未来に期待を抱いています。デジタル分野では日本よりも進んでいる面もあり、起業家精神は日本の若者より旺盛です。

長期的な視野を持った人材を育てていければ、独立100周年の2045年までに先進国の仲間入りをするという政府の目標は、実現の可能性があると思います。

そこで日本はどんな役割を果たせるのか。

両国関係は良好ですが、ベトナムでの存在感は、工場があるサムスンなど大手企業を通じて経済的に強く結びつく韓国の方が強い。

日本との間には過酷な環境で働く技能実習生の問題もあります。来年は外交関係の樹立から50年。日越関係をどう掘り下げていくかを考える機会になります。