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先生にお金を渡して感謝を伝える ベトナムの「教師の日」

子連れで特派員@ベトナム
生徒にもらった花束でいっぱいになった先生のバイク=鈴木暁子撮影

「お花の値段が高くなるからお早めに~」。長年ベトナムに暮らす日本の方がフェイスブックにこう投稿しているのを見て、あっ忘れてたと気がついた。11月20日はベトナムの「教師の日」。1982年に制定されたというこの日は、お世話になった先生たちに感謝の思いを伝える日とされている。

この日は、わが家の近くの小学校にも「教師の日 良い学習、良い教育を競い合っていこう」といった意味の看板が掲げられ、式典が開かれていた。学校の前には用意周到に、いつもはいないバラの一輪挿しを売る女性が現れた。中学生か高校生ぐらいの男の子がひとつ買っていたので「先生にあげるの?」と聞くと、「そうです」と言って、友だちと連れだって学校に入っていった。わざわざお世話になった先生に会いにきたのかな、なんだか、いいなあ。

学校の前でバラの一輪挿しを買う少年=鈴木暁子撮影

小学校の中にはきれいな舞台ができていて、子どもたちが先生と写真を撮っていた。きれいなピンクのアオザイを着た若い女性教師のバイクの荷台は、生徒にもらった美しい花束でいっぱいになっている。「これ全部先生のですか。すごい」と言うと、うふふっと笑って歩いていく。誇らしげなその姿を見ながら、おや、と気がついた。手元にたくさんの紙袋を持っている。「クリスチャンディオール」と書かれたブランドものの袋もある。もしや、生徒たちからのプレゼント?

「教師の日はビジネスの日」。ベトナム人の知人はうんざりした様子でこういった。担任の先生に、各家庭が20万~50万ドン(約920~2300円)ほどを渡すのが通例なのだという。「昔はスカーフをプレゼントしたりしたけど、先生もみんなにいくつもスカーフをもらっても困っちゃうしね」。渡さない家庭もあるようだが、中にはブランドものを用意するような親御さんもいるのだろう。支局の車を運転してくれているタインさんの家では、子どもが通う幼稚園の先生にも20万ドンを渡したそうだ。

ベトナムの「教師の日」を祝う先生と生徒=鈴木暁子撮影

それにしても、日本で子ども時代を過ごした私からすると、お金を包んで先生に渡すというのは驚きの習慣だ。金額が子どもの評価に影響しうる「つけ届け」の印象をもってしまうからだ。助手のビンさんに聞くと、「中にはそういうこともあるかもしれないけど、どうかなあ。うちは渡さなかったけど特に問題はなかった」。よく言われるのは、ベトナムでは教師は敬われるものの、給料が高くないため、政府もこうした習慣を止めるわけにいかないという事情だ。ベトナム人女性の定年である55歳まであと1年という、54歳の公立小学校の女性教師に聞くと、「月給は約1千万ドン(約4万6千円)。なりたての先生ならばその半分ももらえません」という。

ただ、ウルトラCもあるのが面白いところ。これも日本にはあまりない習慣だが、先生たちは生徒の依頼をうけて特別授業を開き、臨時収入にあてている。優れた先生ほどひっぱりだこで、収入は増える。先ほどの定年間近の教師の場合、なんとトータルの月収は1億ドン(約46万円)に上るという。さらに上には上がいて、高校生を相手に1時間半で1回20万ドンの特別授業を週に10回開いている先生は、40人の生徒に教え、月に3億2千万ドン(約148万円)を稼いでいることになる。特に数学や英語のニーズがあるそうだ。教育面の競争も激しくなっているという、ベトナムならではだ。

ポコが通うインターナショナルスクールにも「教師の日」をうたう垂れ幕があった=おとっつあん撮影

ポコが通うインターナショナルスクールにも、校内に「教師の日」という垂れ幕がかけられていた。地元ベトナムの文化を尊重してのことだろう。去年はクラスのお母さんから「お金を出し合って先生にプレゼントを贈りましょう」という声があがり、いくらかお金を出したのだが、正直にいうと、ちょっと抵抗感があった。教師の日ではなかったけれど、幼稚園から1年生に上がるとき、ポコがつたない英語で、「せんせいありがとう あなたはいちばん」と書いたカードを渡したことがある。そういう言葉が先生たちの疲れをいやし、奮い立たせることはきっとあるだろう。今年はうっかり、先生への感謝のカードも用意せずに終わってしまったことを後悔した。

1994年にはユネスコが10月5日を「世界教師の日」と定めた。ネットの情報を見るだけでも、中国やインドをはじめ、少なくとも60以上の国が「先生に感謝する日」をもうけているそうだ。教師の激務が問題になる中、教師の日が定着していない日本のほうを、「あなたたち、先生にありがとうと言ったことはある?」と珍しがる人もいるかもしれない。