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ここはお寺かテーマパークか ベトナムで開眼、「スピリチュアルバブル」

World Now
後背がまぶしいタムチュック寺の3体の仏像

■寺にホテルもゴルフ場も

ベトナムに観光地として注目されている寺があると聞き、昨年12月、北部ハナム省のタムチュック寺を訪ねた。

敷地面積は東京ディズニーランドのほぼ100個分という。電動カートで10分ほど行くと、湖のほとりに、大屋根と古びた壁の堂々たる寺院が現れた。

歴史を感じさせるが、建設されたばかりのタムチュック寺=ベトナム北部ハナム省

さぞかし古い木材を使っているのだろうと門柱に触れると、ひやっと冷たい。よく見ると茶色いペンキを塗ったコンクリート柱だった。隣の敷地では建機が池を掘り、笠をかぶった作業員が階段に石を敷きつめている。「古びた寺」をいままさに建設中なのだ。

別の建物には大きな仏像が3体並ぶ。昨年5月に「開眼供養」をした。四方の壁にカンボジアのアンコールワットを思わせる彫刻が施されている。作業員の男性は「敷地内にはショッピングモールとホテル、ゴルフ場もできる。工事はあと20年は続くでしょう」。

湖のほとりで、まだまだ建設途中のタムチュック寺=ベトナム北部ハナム省

これは寺なのか、テーマパークなのか。寺の縁起などはどうでもいいのか。約2時間かけてハノイから参拝に来たという40代の夫婦は、「新しくてもかまいません。心が静かになります」。

今年1月の旧正月には、山頂の塔にあふれるほど参拝客が押し寄せた。2025年には国外からの47万人を含む計370万人の来客を見込んでいるという。

タムチュック寺は、もとは湖に浮かぶ小さな寺だった。巨大寺院への建て替えを進めるのは、建設会社を率いる億万長者グエン・バン・チュオン(55)だ。10兆ドン(約477億円)超を投じ、地元政府から借り受けた土地で開発を進める。

こうした寺への参拝は「スピリチュアル観光」と呼ばれ、旅をしながら開運も期待できる新しい楽しみとして、ベトナムで注目されている。チュオンが最初に手がけたのは2000年代初め、景勝地で知られる北部ニンビン省に900年ほど前からあるバイディン寺の改装だった。完成すると、500体の仏像が並ぶ回廊などで超人気の観光地に。16年からは北部タイグエン省の湖畔でも15兆ドンをかけた寺の建設が進行中だ。

人々が寺に殺到し、それを当て込む投資家が巨大寺のある観光地をつくる。「スピリチュアルバブル」ともいえる状況はなぜ起きるのか。経済学者のレ・ダン・ズアン(77)は、「不透明な世の中に対する人々の不安の表れだ」と指摘する。

6~7%台の経済成長が続くベトナムでは、手元のお金も増え、成功者も出てきた。だが、まじめに働けばビジネスがうまくいくとも限らない。「ベトナムでは事業の許可を得るにもコネがいる。役人に『袖の下』を渡さなければならないこともある。事故やウイルス被害にも遭う不透明な世の中で、商売や子どもの学業がうまくいくようにと、神様や霊的なものにすがっている」

クアンニン省では「前世の悪業を断つ」とうたった法要で、仕事や結婚などの悩みを持つ信者から多額のお金を集めた寺が、19年に罰金刑を受けた。この出来事をきっかけに「ビジネス寺」の急増が国会でも議論され、内務相が「ビジネス寺に出資する政府幹部はいない」と釈明する事態になった。

「巨大寺への投資では、コネと金のある限られた人しかプレーヤーにはなれない。このお金が病院や学校建設に使われればもっといいと思うのですが」とズアンは話した。

■「私、投資で失敗しないので」

「土地でも買ってみようか」。ベトナムの首都ハノイ。カナダ系の銀行スコシアバンクで働いていたブ・ティ・ビック・リエン(46)が投資に目覚めたのは、約20年前のことだ。

手元の余裕資金を生かせないか。試しに不動産投資に手を染めてみると、1カ月で10%のリターンが転がり込んだ。

「投資って簡単だ」。それ以来、不動産の大規模プロジェクトやマンション、ビラ(戸建て)、店舗などに投資してきた。本人によると、全戦全勝。2000年にはもう、ブローカーとして人のお金を運用する不動産投資を引き受けるようになった。14年にはベトナム事務所代表まで務めた銀行を辞め、ハノイで知人と不動産販売会社を立ち上げた。新興の街区にオフィスを構える。

「私、投資で失敗しないので」

左手薬指に大きなダイヤの指輪が光る。3人の子どもの教育環境を考え、16年にカナダに移住した。現在はトロントに暮らし、2カ月おきにベトナムに来る。ベトナム人があこがれる生活だ。

不動産ブローカーのブ・ティ・ビック・リエン

顧客は日本や韓国の個人やファンドが多く、中国人投資家は少ないという。問題は中国のパスポートだ。南シナ海で中国側が主権や権益が及ぶ範囲の根拠としている「九段線」が描かれており、この海域の領有権問題で対立するベトナムは激しく反発する。「このパスポートを所持する中国人への不動産販売はできません。これがネックになる人、けっこういるんです」

リエンが守っている「投資3原則」は、①借金して投資はしない、②5割を不動産、2割を副業、3割をその他の投資に回してリスクを分散する、③場所とディベロッパーを見極める─。

ベトナムでは物件数も増え、ここ数年は投資環境も厳しくなった。14年ごろは、投資額の10%の利益を10年間保証するビラ販売などもざらだった。だが、有名サッカー選手をCMに起用した中部ダナンの大規模コンドミニアム事業が行き詰まるなど、「中心部から遠いなどの理由で売れず、保証内容を守らないディベロッパーも出てきた」。

リエンが扱う物件には、例えば50平方メートルのマンションで10万ドル(約1100万円)ほどと、価格も比較的手頃なものがまだあるという。外国人が購入できる戸数の上限を全体の3割まで増やしたマンションもある。「ベトナム政府が土地にかかる税金を上げたり、銀行の貸し出しを制限したりしており、バブルとはいえない。でもマンションの価格にかなりの金額を上乗せしてでも購入する人もいる。5~13%のリターンが期待できる物件はまだまだあります」