知られざるコーヒー豆生産大国ベトナムに変化の兆し、高級豆を少数民族と育てる日本人
その規模の割には目立たない存在だったベトナムコーヒーを国際ブランドにしたい。そんなミッションを進める中心人物のひとりに、日本人がいる。(宋光祐)
「みんなどこかで口にしているのに認識されていない。そんな状況は、もうすぐ変わる」
ベトナム中部の高原の町ダラット近郊のランビアン山でコーヒー豆を栽培する山岡清威さん(42)はそう確信している。
国際コーヒー機関の2020年の推計によると、ベトナムの年間生産量は174万トンで、ブラジルに次ぐ2位。世界中に豆を輸出するコーヒー大国だが、あまり知られていない。
ほとんどが缶コーヒーやインスタントコーヒーの原料になるロブスタ豆のためで、栽培農家の収入も低い。
山岡さんはそんな現状を変えようと、ランビアン山の一帯に暮らす少数民族クホー族といっしょに、3年前から高級なアラビカ豆の生産に取り組んできた。
変化の兆しは現れている。
今年はうわさを聞いたオーストラリアや欧米、日本のコーヒー豆のバイヤーの視察が相次ぎ、買い付けの申し込みが次々と舞い込んだ。山岡さんの農園だけで、生産量は3年前の10倍の3トン。ランビアン山一帯の農家全体では20トンに生産が増えた。
近年、世界では「シングルオリジン」と呼ばれる一つの銘柄の豆でいれるスペシャルティーコーヒーが注目を浴びる。
生産量は少なくても、ワインのように農園や生産者が一つのブランドとして選ばれるような高品質の豆で、店で飲めば1杯700円から1000円はする高級品だ。香り高く透き通った味わいのある山岡さんたちの豆も、「世界のどこか」のコーヒーの原料ではなく、独自のブランド品として消費者に届くことになる。
山岡さんは今月、東京で開かれるアジア最大のスペシャルティーコーヒーの見本市にクホー族の仲間とともに参加した。「次に狙うのは市場が大きい中国。ベトナムのコーヒーが世界に羽ばたく時がやってきた」
ベトナムで生産されるコーヒー豆の9割以上を占めるロブスタ豆も、「ファインロブスタ」と呼ばれる高品質化が進んでいる。
中部バンメトートを拠点にするベトナム最大手のチェーン「チュングエンコーヒー」は、日本の禅や茶道に着想を得て、香りを楽しみながら瞑想(めいそう)する「新しい飲み方」を提案し、ベトナムコーヒーのブランド化を目指している。