英学術情報会社クラリベイトが9月21日、論文の引用回数などをもとに発表した「引用栄誉賞」(Citation Laureates)には、4カ国の研究拠点から20人が選ばれた。このうち日本人は3氏の名前が上がった。
同社は毎年、ノーベル賞と同じ自然科学3賞(医学・生理学、物理学、化学)と経済学賞の研究分野で功績のあった研究者を選定している。過去の引用栄誉賞の受賞者64人が実際にノーベル賞受賞に至っており、ノーベル賞の行方を占う賞として注目を集めている。
今年、日本人で「引用栄誉賞」に選ばれたのは、次の3氏だ。
(出典:クラリベイト・アナリティクス・ジャパンのプレスリリースより)
医学・生理学賞
東京都医学総合研究所 脳・神経科学研究分野 長谷川成人(まさと)分野長
【引用栄誉賞の受賞理由】筋萎縮性側索硬化症 (ALS) および前頭側頭葉変性症 (FTLD) の病理学的特徴である TDP-43 の同定、および神経変性疾患の研究への貢献。アメリカ・ペンシルベニア大学Virginia Man-Yee Lee博士とともに。
物理学賞
国立研究開発法人「物質・材料研究機構」の谷口尚(たかし)フェロー/国際ナノアーキテクトニクス研究拠点(MANA) 拠点長(日本)
国立研究開発法人「物質・材料研究機構」の渡辺賢司 機能性材料研究拠点 電気・電子機能分野 電子セラミックスグループ主席研究員
【引用栄誉賞の受賞理由】二次元材料の電子的挙動に関する研究に革命をもたらした、六方晶窒化ホウ素結晶の高純度化技術の開発。
平和賞の受賞予想は
ノーベル平和賞について、毎年、独自の受賞予想を発表しているノルウェー・オスロ国際平和研究所(PRIO)のヘンリック・ウーダル所長によると、今年は次の人々・団体が最終候補となっている。
平和賞
スベトラーナ・チハノフスカヤ氏(ベラルーシ)
ベラルーシで2020年、拘束された夫の代わりに大統領選に立候補した元教師で非暴力の民主化運動の象徴的存在。訴追を逃れるため選挙翌日に出国し、隣国リトアニアを拠点に活動を続けている。
ハーシュ・マンダー氏と「Karwan-e-Mohabbat」運動(インド)
マンダー氏はインドの作家、社会活動家。2017年に、宗教的理由による集団的暴力の犠牲者と連帯してKarwan-e-Mohabbat(意味は「愛のキャラバン」)運動を始めた。
HRDAG とCANVAS(アメリカ、セルビア)
HRDAGは「Human Right Data Analysis Group」の略で、1991年に内戦下のエルサルバドルで設立され、現在はアメリカに拠点を置く人権監視団体。データ解析や記録によって人権侵害の説明責任の所在を明らかにするアプローチが特徴。
CANVASは「Center for Applied Nonviolent Action and Strategies」の略で、セルビアの首都ベオグラード拠点の団体。世界各国の民主活動家らにワークショップを提供し、抑圧的な政権に対する非暴力の抗議活動の方法を講習している。
イリハム・トフティ氏と周庭氏、 羅冠聡氏(中国)
トフティ氏は中国の経済学者。多数派の漢族と、自身の出自でもある少数派ウイグル族との融和に力を注いできたが、国家分裂罪で無期懲役刑を受けた。
周庭(アグネス・チョウ)氏と羅冠聡(ネイサン・ロー)氏はともに香港の民主活動家。
周庭氏は黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏らとともに2014年の香港の民主化運動「雨傘運動」の学生リーダーを務め、政党「香港衆志」(デモシスト)の主要メンバーだったが、2020年の香港国家安全維持法違反の罪で実刑判決を受けた。
羅冠聡氏も「雨傘運動」を率いた後、政党「香港衆志」(デモシスト)を創設し党首として香港立法会議員も務めたが、2017年に議員資格を取り消され、香港国安法の施行後にイギリスに政治亡命した。
ナターシャ・カンディッチ氏とNGO「人道法センター」(セルビア)
ナターシャ・カンディッチ氏はセルビアの人権活動家。首都ベオグラードに1992年に設立した人道法センターを通じて、1990年代の旧ユーゴスラビアの民族紛争に伴う人権侵害や犯罪を調査し記録し、被害者支援を行ってきた。
ノルウェー・ノーベル委員会によると、ノーベル平和賞には今年、343の個人と団体(215人・92団体)がノミネートされた。ノミネート総数は2016年の376候補についで過去2番目の多さだった。
ノーベル賞各賞の受賞者は10月3日から順次、発表される。(日時はいずれも日本時間)
10月3日(月)18:30~ 生理学・医学賞
10月4日(火)18:45~ 物理学賞
10月5日(水)18:45~ 化学賞
10月6日(木)20:00~ 文学賞
10月7日(金)18:00~ 平和賞
10月10日(月)18:45~ 経済学賞