中干し自体は、北海道を除く全国で広く行われている。平均的には田植えの45日後から8日間ほど水田から水を抜く作業だ。茎が増えすぎると、一本一本の茎が細くなってイネが倒れやすくなる。
中干しは、この過繁茂を抑え、イネを倒れにくくする目的で行われてきた。中干しをし過ぎて穂の育つ時期までかかってしまうと実りが悪くなるが、それに気を付ければ大きな問題はない。
冷害の心配があって水を抜きにくい北海道を除けば、中干し期間を1週間延ばすだけで、発生するメタン総量を約3割減らすことができる。中干しを全くしない場合に比べると約半分になる。
にもかかわらず、2021年度に中干しを延長した農家に交付金を出す事業に参加した自治体は、秋田など8県にとどまった。取り組むのは強い環境意識を持つ農家に限られ、これ以上あまり広がりそうにない。交付金予算に限りもある。
そこで、さまざまな方法で削減した温室効果ガスの排出量(クレジット)を政府が認証し、排出削減を迫られている企業や自治体が購入する「J-クレジット」制度に、中干し事業を組み込むことが考えられている。各農家に渡るお金は交付金より減るが、市場メカニズムにのせることで財源の制約はなくなる。
稲作に伴うメタン排出は、海外でも共通した問題だ。ただ、中干しが温暖化対策としてどこまで有効かは検討が必要だ。中干し期間中にメタンが出ない代わりに、別の温室効果ガスである一酸化二窒素(N₂O)が出るからだ。
日本では、減少するメタンの100分の1ほどで効果の方がずっと大きい。
しかし、一日中気温が15度を下回らない暑い国では、微生物によるN₂O放出が激増してしまうので、N₂O削減も考えなければならない。
農水省はフィリピンの国際イネ研究所とも協力し、アジア諸国で共同研究を進めている。
日本では、農業から出る温室効果ガスは全体の3%に満たないが、食料自給率は4割を下回っている。つまり、海外で大量に温室効果ガスを出しているともいえる。国際的な連携が必要だ。※)
大気中のCO₂を光合成で吸収・固定する農業の役割は、メタン対策に限らず、重い。木や竹、もみ殻、家畜の排せつ物など生物由来の有機物を蒸し焼きにし、安定したバイオ炭として土壌改良や炭素の固定につなげるアイデアがある。
化石燃料に代わる燃料として、生物でつくるバイオエタノールなども注目を集めている。だが、その製造のためにどれだけの土地や水が必要で、食糧生産をどれだけ圧迫する可能性があるのか、効果と副作用を包括的に検討する議論が欠かせない。(聞き手・大牟田透)