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中国の台頭、世界で進む「ドル離れ」 国際通貨になれる「4つの条件」とは

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米カリフォルニア大学バークリー校のバリー・アイケングリーン教授
米カリフォルニア大学バークリー校のバリー・アイケングリーン教授=米カリフォルニア州、星野眞三雄撮影

西側諸国による経済制裁は、ロシア経済に深刻な打撃を与えています。国際通貨基金(IMF)によると、ウクライナへの侵攻前はロシアの今年の経済成長率は3%弱の見通しでしたが、侵攻後、制裁の影響でマイナス8.5%に下方修正された。それ以上のマイナスに陥るとの見方も多くあります。

しかし、経済制裁が相手国の政策を変えるような効果を発揮するまでには時間がかかります。だからといって、核兵器をもつロシアに武力で対抗しようとすれば、核戦争に発展する危険性もあります。即効性はないかもしれませんが、経済・金融制裁で対抗するほかありません。

今年3月にまとめたIMFのリポート「ドル支配のステルス(見えない)衰退」に書いたとおり、この20年間で世界の外貨準備に占めるドルの比率は70%から60%へと緩やかに低下しています。ロシアに対する制裁を受け、さらに低下が進む可能性があります。

ただ、制裁を科しているのは米国だけでなく日英欧と協調して進めており、ロシアが「ドル離れ」を進めようにも、ユーロやポンド、円に移すわけにはいきません。

残るは中国の人民元だが、たとえロシアが石油を中国に人民元で売ったとしても、人民元で中国から輸入できる製品は限られます。他の国から製品を買おうとすればドルなど国際的な通貨が必要ですが、ドルに両替できる中国の銀行も2次制裁を恐れて手を出さないでしょう。

11年前に『とてつもない特権 君臨する基軸通貨ドルの不安』を出版したときは、ドルからユーロや人民元への移行がもう少し早く進むと考えていましたが、予想よりもペースが遅かった。

通貨は国力を反映しているが、ユーロ圏には財務省がなく軍隊ももちません。中国は経済力は大きいですが、金融の力が弱く、自由に両替できない人民元をあえて取引に使おうとする国は少ない。SWIFTを通じた国際決済シェアもドルが40%にのぼるのに対し、人民元は3%程度にすぎません。近い将来に人民元がドルのかわりになれるとは思えません。

国際通貨の条件は、四つあります。経済規模がある程度大きいこと、通貨価値が安定していること、自由に取引できる流動性が確保されていること、国の安全保障がしっかりしていることです。

そうした点から考えれば、米国がトランプ政権のようにひどい政策をとらない限り、この先30~40年はドルが重要な国際通貨の一つであり続けるでしょう。ドルの影響力は低下し、人民元のシェアは増えているかもしれませんが、ドルに取ってかわる存在にはなりません。中国には自由で開かれた資本市場がなく、何より民主的な政府をもっていないからです。ドルのかわりに特定の通貨が基軸通貨になるというのではなく、複数の通貨が役割を担うということになるのではないでしょうか。

Barry Eichengreen  1952年生まれ。米国を代表する経済学者の一人。ハーバード大准教授、国際通貨基金(IMF)シニア政策アドバイザーなどを歴任した。著書に『とてつもない特権 君臨する基軸通貨ドルの不安』(勁草書房)など。