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指輪で健康管理 睡眠、心拍、運動量…アメリカで人気、オーラリングが変えた私の生活

働くママのシリコンバレー通信 更新日: 公開日:
イラスト:tanomakiko

あるとき、知り合いの男性2人がおそろいの指輪をつけていて、「この2人はいつの間にカップルになったんだろうか」と思ったことがあります。

サンフランシスコ・シリコンバレーでは、「異性愛者で結婚して子供ももうけたけれど、後ほどゲイになって別の人と結婚した」というパターンのカップルもいるので、「まあ、そんなこともあるのかな」とさほど疑問に感じることなく過ごしていました。

その後、同じ指輪を周囲でも複数の人に見かけるようになって、彼らがつけていたのはカップルのペアリングではなく、最近人気の指輪型のデバイスで、睡眠などをトラッキングする「Oura Ring(オーラリング)」だったと知りました。

筆者のオーラリング

オーラリングは、指輪の裏側についているバイオセンサーを通じて、睡眠以外にも心拍や体温、歩数も含む運動などをトラッキングし、スマートフォンとペアリングすることでデータを表示させられます。

元ノキアのエンジニアらによるフィンランド発のスタートアップ「Oura Health(オーラヘルス)」が開発しました。自社のECサイトを通じて世界中の消費者に直接販売するD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルも特徴です。

オーラリングの他にも、AppleWatch (アップルウォッチ) Fitbit(フィットビット)といった「スマートウォッチ」と呼ばれる腕時計型のデバイスも、同様のヘルスケア機能を備えています。

こうしたデバイスを利用して自分の体と心の健康状態や活動を数値で管理する考え方を「Quantified Self (クオンティファイド・セルフ)」といいます。

この考え方はかなり以前から存在していましたが、新型コロナウイルス感染症の広がりに伴ってヘルスケアや病気の予防に対する意識が向上したことや、外出自粛や在宅勤務による運動不足やメンタルヘルスの懸念などから、健康チェックができるウェアラブル・デバイス市場の急拡大とともに、再び注目されています。

実際に、私の知り合いもウェアラブル・デバイスから体温が急に上がったことが通知されて、「もしかしたら新型コロナに感染したかもしれない」と検査したところ、「やっぱり感染していた」という例がありました。

アメリカでは健康保険や医療費が高いことは有名で、医者にかかることも早々簡単にはいきません。そのため、自分の健康づくりや病気の予防は自己責任という意識が浸透しています。

2022年5月現在、アップルウォッチは22800円(税込み)から、また、オーラリングも299ドル(37973円、1ドル/127円換算)からと、決して安くないにもかかわらず、病気予防の取り組みに前のめりな背景もあってか、広く普及しています。

例えば、有酸素運動をすることが大切な糖尿病患者やその「予備軍」と診断された人の場合、「デバイスでトラッキングすることで病状の改善や予防ができたら安い投資」と考えるのです。

こうした健康チェックができるウェアラブル・デバイスを企業が一括で購入し、社員全員に配布するケースもあります。また、所属選手に支給しているNBAのバスケットボール・チームや野球チームもあります。

フィットビット(左)とアップルウォッチの二つ使いする「強者」も。それぞれ機能に特徴があるので、両方とも発売当初から使用しているとのこと。一番気になるのは心電図なのだそうです

一方、日本での売り上げはというと、フィットビットの場合、グローバルに対して数パーセントにとどまっているとのこと。とりあえず待てば、その日のうちに医者にかかれる手厚い日本の医療制度が背景にあるのかもしれません。

ですから、すでに使っている日本のユーザーの方は相当、意識が高い層ではないかと想像しますし、「クオンティファイド・セルフ」の手法で健康寿命を延ばそうという流れは、いずれ日本にもやってくるのでは、と思います。

腕時計型か指輪型か、好みは分かれるところです。

数々のスタートアップ企業を成功に導き、売却や上場への成功を手がけた「シリアル・アントレプレナー」(連続起業家)で、グーグル 傘下のフィットビットを経て現在はオーラヘルスのディレクターを務めている熊谷芳太郎氏によると、その違いは「日本酒が好きか、ワインが好きか、といったところかなあ」。

熊谷芳太郎氏=カリフォルニア州サンフランシスコ、グリーンバーグ美穂撮影

そんな私も、周囲につられてオーラリングを使い始めて、朝起きたらまずどれだけ寝たかをスマートフォンでチェックするようになりました。

睡眠の質が正確に数値化されることで、今まで「なんとなくよく寝た感じがする」という感覚が「やっぱりよく寝ていたんだ」になり、「数回起きた気がする」が「やっぱり起きていた」となります。

飲み過ぎた夜はスコアが低くなります。なんといっても圧倒的に数値が低くなるのが、飛行機で長時間、移動したとき。スコアが低くなると、翌日などは「ネットフリックスでドラマを次から次へと見るビンジ・ウォッチしていないで早めに寝よう」となります。(まあ、それでも誘惑に負ける夜もあります)

昼寝もバッチリ計測されます。中学生の娘に連れられて3時間に及ぶスーパーヒーロー系の映画を観た際には「44分間、昼寝していた」と教えてもらいました。(あまり昼寝が長すぎると、夜の睡眠に影響する、と警告されます)

オーラリングとつないだスマートフォンのデータ表示画面。ママ友がインスタグラムに「このスコア完璧…」というスクリーンショットを投稿していると「私も生活態度を改めないと…」と反省します

「自転車でどこをどれだけの距離を走って、何分間、平均速度はこれで、何キロカロリー消費したか」という自分の活動データを見るのも結構満足感がありますし、今までは運動の種類によって別々のアプリを使っていたのが一つにまとまったのも便利に感じています。

「なんとなく」ではなく、自分の体の動きが明確に数値化されることで、自分の行動にも影響しますし、睡眠に関しても、アクティビティーに関してもおのずと意識が高まります。

主治医に、「あなたは血液検査では問題ないから気にする必要は全くない」と言われたものの、こうなると血糖値も気になってきて、何を食べたら血糖値が急上昇してよくないのか、何を食べたら上昇を緩やかにできるのか知りたくなってきます。アップルウォッチでも近い将来、血糖値がモニターできるようになるといわれています。

持続血糖測定(Continuous Glucose Monitoring)は、糖尿病治療や予防のために、皮膚の直下に挿入された細い小さな針を通じて持続的に血糖値を測ります。自分の血糖値の状況をアプリを通じて視覚的に管理でき、アメリカでは医師の処方のもと、小児患者も使用しています

そのうち、キリがなくなってくるかもしれないですね。執着して頭がそのことでいっぱいにならないように、ほどほどの注意も必要です。 

こういったヘルステック分野では、たとえば睡眠時に無呼吸になってしまう病気の検出や、ガクッと数秒の間だけ瞬間的に眠ってしまう「マイクロスリープ」の検出、自動車の安全走行など、他に応用する研究も進んでいます。

なんといっても、こうしたヘルストラッキングデバイスが普及したのは、ゲーム感覚で楽しく自分の体調が把握できることが最も大きな要因のように感じています。

今の私の願いは、中学生の娘が使ってくれること。「誕生日にプレゼントするよー」と言っていますが、本人はかたくなに装着を拒否しています。遅くまでベッドでTikTokを見ているのがバレるし、運動不足を逐一母親に指摘されてちくりちくりと嫌みを言われるのは勘弁してほしいのではないか、と想像しています。いざ使い始めたらゲーム感覚で楽しく健康管理をしてくれると思うんですけど。

(写真はいずれも筆者撮影)