新型コロナウイルス感染症が流行し始めておよそ1年になる。2020年の韓国の映画館の売り上げは5103億ウォン(推定値)で、前年の1兆9140億ウォンから73%も下落した。
2019年の統計によれば、韓国人1人当たり年平均4.37回映画館で映画を見ており、世界1位だった。人口5千万人ほどの国で毎年のように観客数1千万人を超える映画が誕生し、2019年は「パラサイト 半地下の家族」をはじめ5本(韓国2本、海外3本)が観客数1千万人以上を動員した。
それが昨年は、観客数1位の「KCIA 南山の部長たち」(ウ・ミンホ監督)ですら475万人と、1千万人どころか、500万人にも及ばなかった。「南山の部長たち」は1月の公開だったので、2月に入ってコロナの影響で観客数が伸び悩んだ結果だった。1979年朴正煕大統領暗殺事件をモチーフにした作品で、朴大統領を撃った当時のKCIA部長金載圭(キム・ジェギュ)がモデルの主人公キム・ギュピョンをイ・ビョンホンが演じた。日本で今月公開された。
以下、海外作品を除き、韓国映画の観客数上位作品を見ていくと、観客数2位(435万人)「ただ悪から救いたまえ」(ホン・ウォンチャン監督)、3位(381万人)「新感染半島 ファイナル・ステージ」(ヨン・サンホ監督)はコロナの感染者数が少し落ち着いた夏に公開した作品だ。「ただ悪から救いたまえ」は、ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェが主演。日本やタイでも撮影され、豊原功補、白竜ら日本の俳優も出演している。日本で最後の請負殺人の仕事を終えたインナム(ファン・ジョンミン)は、娘がタイで誘拐されたことを知り、タイへ向かう。そこへ兄貴を殺された復讐に日本からレイ(イ・ジョンジェ)が追ってくる。主演の二人は「新しき世界」(2013年)以来7年ぶり共演で話題になったが、タイで暮らすトランスジェンダーのユイを演じたパク・ジョンミンの演技が光った。
「新感染半島」も現在日本で上映中だ。世界的なヒットとなったゾンビ映画「新感染 ファイナル・エクスプレス」の続編にあたり、カン・ドンウォンが主演した。
4位(240万人)「ヒットマン エージェント:ジュン」(チェ・ウォンソプ監督)はコロナ前の1月公開。売れない漫画家の正体が暗殺要員だったというクォン・サンウ主演のアクションコメディだが、そう言えばコロナ禍ではコメディの公開がほとんど見られなかった。
5位(190万人)「#生きている」(チョ・イルヒョン監督)は、ユ・アイン、パク・シネが共演したゾンビ映画で、韓国での劇場公開(6月)後、あまり間をあけず9月にネットフリックスで全世界に配信となり、配信2日で35ヶ国の映画ランキング1位を占めたことも話題になった。
ここまでくると、一つの傾向が見えてくる。コロナの影響で劇場公開をあきらめて4月にネットフリックスで全世界に配信された「狩りの時間」(ユン・ソンヒョン監督)を含め、「ゾンビ」(「新感染半島」「#生きている」)「廃墟」(「新感染半島」「狩りの時間」)「ユートピア」(「ただ悪から救いたまえ」「狩りの時間」)といったキーワードが見える。得体の知れないウイルスに襲われたコロナ禍の世界観と共通する部分があるのかもしれない。もちろん予見して作ったわけでなく、コロナ禍で公開・配信を控えた作品も多いなかで、公開・配信に踏み切った作品にある程度共通点が見られるという話だ。特に「狩りの時間」「ただ悪から救いたまえ」の無慈悲でしぶとい追手、逃れた先のユートピアという設定はそっくりだった。
6位(179万人)「鋼鉄の雨2:首脳会談」(ヤン・ウソク監督)も夏公開の大作だった。「鋼鉄の雨」(2017年)に続いてチョン・ウソン、クァク・ドウォンが主演したが、役は変わった。1で北朝鮮の要員を演じたチョン・ウソンが2では韓国の大統領を演じ、1で韓国の外交安保首席だったクァク・ドウォンが2では北朝鮮の護衛総局長と、南北も逆転する。
劇場に観客が戻り始めたと思った矢先、8月下旬に再びコロナの感染者数が増え、以降大作の公開は延期またはネットフリックス配信が続いている。
一方で秋以降は、「家族」「女性」がキーワードとなる2作品が健闘した。劇場でコメディを見るほどの気分ではないが、ヒューマンドラマに癒されたい観客も多かったのかもしれない。
特に7位(171万人)「担保」(カン・デギュ監督)は予想を上回るヒットで、映画関係者を驚かせた。中国に強制退去となった朝鮮族の母に代わって、血縁関係のない韓国のおじさん二人(ソン・ドンイル、キム・ヒウォン)が娘を育てる。娘を演じたパク・ソイは「ただ悪から救いたまえ」でもインナムの娘を演じたが、この子役の可愛さと演技力が「担保」ヒットの一番の要因だったように思う。観客の涙腺を刺激するのがうまい「国際市場で逢いましょう」(2014)のユン・ジェギュン監督が脚色したというのもうなづける。
個人的には8位(157万人)の「サムジングループ英語TOEICクラス」が良かった。1990年代の韓国を舞台に高卒女性社員の主人公たち(コ・アソン、イ・ソム、パク・ヘス主演)が、所属する大企業の不正を暴いていく痛快な作品だった。当時は高卒女性社員の昇進は難しく、TOEICで600点を超えれば代理に昇進させるという会社の方針で共に「英語TOEICクラス」で勉強し、その彼女たちの英語力が会社の不正を暴くのに役立つ。公害問題など実際に起こった出来事をモチーフにしている。
公開延期中の大作の行方も気になるが、「担保」や「サムジングループ英語TOEICクラス」はコロナ禍でも損益分岐点を超えて黒字となっており、今後この規模の映画が増える可能性はありそうだ。