1. HOME
  2. LifeStyle
  3. 庶民のお茶がいちばん美味しい インド屋台のチャイの楽しさ

庶民のお茶がいちばん美味しい インド屋台のチャイの楽しさ

荻野恭子の 食と暮らし世界ぐるり旅。
屋台のブクブクチャイを再現(竹内章雄撮影)。

●チャイの味は家庭の味

「スパイスと水を小鍋に入れてグツグツと沸かし、そこに茶葉を加えてさらにグツグツ。牛乳を加えてふわあっと泡が立ったら火を弱め、再びふわあっとなったら火を止めて、茶漉しで漉しながらカップに注ぎます。砂糖はお好みの量を。スパイスは地域や家庭で異なります」。これが日本で長年インドの家庭料理を広めてきたミラ・メータさんやレヌ・アロラさんから伺った、家庭でのチャイの淹れ方です。使用するスパイスはカルダモン、シナモン、クローブなど。ときには黒コショウを加えることが一般的なようですが、あくまでチャイは家庭の味。地域と家によってもそれぞれだという話に、大きな魅力を覚えました。

●庶民のお茶が一番美味しい

私がインド各地を巡る中で、感じ続けてきたことは、料理もお茶も庶民の味が結局は一番美味しいということでしょうか。お茶に関しては、ダストティーと呼ばれる細かい安い茶葉を、庶民や屋台では使っています。これは、茶を製造する過程で、大きな葉が崩れた細かいものを集めた、等級の低いものです。

ダストティーは、熱湯でただ淹れても抽出されにくいため、煮出して淹れるのが通常です。とはいえ、煮出すとストレートでは濃すぎるのでミルクを加える。ミルクには、渋みを緩和する成分があるため、自然と加えるようになったのだと言われています。

デリー駅構内のチャイ屋さん(荻野恭子提供)。

●地域によって違うスパイスの使い方

北インドのほうは、チャイといってもスパイスの効いたマサラチャイではなく、ただの煮出したミルクティーです。さらに北上してゆくと、お茶もスパイスも乏しいチベットモンゴルにつながるわけですが、そこで使うのは、削って煮出す団茶です。香りもなく、枝や木の屑、葉の屑などがが入っていて、美味しさというより、ビタミンやミネラルを摂取する感覚。地域差により、「嗜好品」から「栄養補給の必需品」に捉え方が変わっていくのです。

南インドに行くと、スパイスもお茶も年中収穫できるので、チャイといえばスパイスたっぷりのマサラチャイを指します。どこへ行っても豊富に売られている生姜やスパイスなどを、フレッシュで入れたりもします。南はアーユルヴェーダ発祥の地でもあるので、各家庭ごとに効能に合わせた独自のスパイス配合があるなど、北とは違う文化を持っています。

●躍動感あふれる屋台のチャイ

インドではどこの街に行っても、道を歩いていると「チャイチャイチャイチャイ〜!」と、あちこちから屋台のチャイ屋さんの声が聞こえてきます。屋台には、車を押して移動する屋台と、固定屋台がありますが、みな、一日7〜8杯くらいは必ず飲みます。インドは砂糖がたくさん取れますので、どこにいても甘くして飲みます。北部ではてん菜糖、中部はきび砂糖やパームシュガー。何種類もの砂糖が収穫できるのです。甘いからチャイを飲んでいると太ってしまいます。

ダージリンの村の砂糖店(荻野恭子提供)。

チャイを注ぐ器に関しては時代と地域によって違いがありそうですが、土ものの文化が色濃い北部では、以前はクルハルと呼ばれる素焼きの器を使い捨てにしている風景をみました。使い終わると叩きつけて割る文化があるようですが、今ではわざわざ素焼きにする方が人件費もかかりますし、使い捨ての紙コップやプラカップを使うところが多いように思います。南の方では、厚ぼったくて使い古しの、向こうが透けて見えないくらいの分厚いグラスを使っている屋台に多く出合いました。南部は、海のシルクロードを伝って西から東に中紙やシルクなどと同時に中東のガラスを作る技術が伝わっていることが影響しているのでしょう。でも今は、どの地域でもグラスが多く使われていますね。

●屋台のお茶はフリースタイル

淹れ方に関してはいろんな人がいすぎて、もはやどこの街角の屋台で見たものか記憶も定かでないのですが、どの人も入れ方は我流と言いますか、どれが正式なのかよくわかりません。でもどこも美味しいです。

茶葉は、細引きのコーヒーの粉のような細かさのダストティーを使っているのが一般的。あまりに細かいので、初めはコーヒーかと思いました。1杯20円〜30円程度。葉が大きくて高級な茶葉も良いですが、細かい茶葉の庶民が飲む味の方が、やはり好きです。静かに蒸らすのを待つというより、躍動感が美味しさを増す気がするのです。

例えば、とあるチャイ屋の主人の動作を観察すると、こんな感じです。まず、カップやグラスにあらかじめ砂糖を入れ、ずらりと何個も並べます。脇ではヤカンでグツグツとお湯を沸かし、横では大きな鍋に牛乳も温めています。茶漉しにネルのような袋をはめ、そこに細かいコーヒーのような茶葉を入れてカップの上にセットし、上からダーっと熱湯とミルクを注ぐ。ネルを上下させ、なじませていると次第にお茶が濃くなってきます。そうしたら、片手でカップを持ってピッチャーにチャイを空け、再び戻し、何度も行ったり来たり。これは、砂糖を溶かす意味が大きいのでしょう。繰り返しているうちに中に入った砂糖が溶け、空気を含んでブクブクに泡立ったチャイが出来上がるという流れです。

ネルのようなドリップで、継ぎ足しながら淹れている(荻野恭子提供)。

昨年訪れた南インドのコーチンは、砂糖だけでなく、フレッシュな生姜のスライスと黒胡椒もあらかじめグラスに入っていました。黒胡椒の産地ということもあり、屋台のチャイでも加えていましたね。どこも、地産地消で個性が生まれていることに感動します。

手鍋の中にスパイスや紅茶もミルクも入れたまま沸かして煮出すタイプの人もいますし、ミルクは別に温めてから合わせる人もいます。煮出す理由は、殺菌を考えているというより、先に述べた通り、そうしないと色も味も香りも出にくいからでしょう。煮出さない屋台の場合は、茶葉を継ぎ足し継ぎ足ししながら繋いでいる感じがありました。

スライスした生姜をその場でグラスに入れ、上からチャイを注いでいた人(荻野恭子提供)。

●日本では内緒の配合でブレンドを楽しむ

旅に行くと高級な茶葉もお土産に買ってはみますが、やはり印象深い味は庶民のお茶です。現地の味に近づけようと試すうち、自分でブレンドする楽しさを知りました。でもこれ、高いものではいけません。スーパーで売っている私御用達の某銘柄を、内緒の配合で組み合わせます。種明かしを少しだけしますと、アッサムはコクが出るし、あなた色に染まる。ダージリンで香りをつけて、といった具合です。その時々で、スパイスのほか、ディンブラやヌワラエリヤといったスリランカのお茶も組み合わせるようになり、より世界が広がりました。