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【バイデンのアメリカ②ジェームズ・ショフ】対決と協力、次の米中外交は両輪だ

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
COP24でパリ協定の運用ルールが採択された後、中国の気候変動事務特別代表が、EU代表と共に写真に納まった=2018年12月15日、ポーランド南部カトビツェ、香取啓介撮影

【バイデンのアメリカ】連続インタビュー(全3回)

#1 北岡伸一】最悪に備える。それが安全保障の鉄則(12月14日)

#2 ジェームズ・ショフ】対決と協力、次の米中外交は両輪だ(12月15日)

#3 【魏聖洛】早く日韓首脳会談を 米国からの圧力が必ず来る(12月16日)

――今回の米大統領選の結果をどうみていますか。

私は民主党支持者だが、思ったほどトランプ氏に反対する票が多くなかった。トランプ大統領はアリゾナ州選出で絶大な人気を誇る故マケイン上院議員(共和党)の業績を批判したり、郵便投票をしないよう誘導したり、戦術的なミスをいくつもおかした。にもかかわらず、約6300万票だった前回得票から、今回は約7400万票に伸びた。今後もトランプ主義が続くということだろう。

そして、米国の政党に所属する人の9割が、「自分が支持しない政党が勝利すれば、米国は米国でなくなる」と考えているという世論調査結果もある。政府を信頼する人も2割しかいない。共和党支持者の6~7割は、選挙に不正があったと考えている。

バイデン氏の政治スローガンは「build back better」だが、何がbetterなのか、米市民の間で決まったものもない。民主党内には左派から中道まで色々な考えを持った人がいるが、こうした状況での政権運営は困難を極めるだろう。

――バイデン政権が取り組む政策順位はどうなるのでしょうか。

第1に新型コロナウイルスの感染拡大対策、第2に経済回復、第3がBLMや機会均等、ダイバーシティーなどの政治的正義の問題、そして第4が気候変動問題だろう。経済回復や気候変動は外交とも関連するが、内政課題が大部分を占めることになる。

外交では、同盟関係の再構築が政策の一つだ。中国との戦略的な競争も含まれている。外交分野に限れば、東アジアは重要な位置を占めている。

ジェームズ・ショフ氏=カーネギー国際平和財団ホームページから

――バイデン政権は国際協調主義に戻るのでしょうか。

米国ファースト主義は、米国アローン(孤立)につながると思うが、世論はそうでもない。ある世論調査では、米国ファースト主義を支持する人が53%もいた。

国家安保担当の大統領補佐官に内定したジェイク・サリバン氏はカーネギー国際平和財団で2年間、「Foreign policy for middle class」という研究に参加した。どうすれば、外交が米国の一般中間層に利益になるのか、というテーマだ。米国ファースト主義は同盟国との協力を困難にする。国際機関に参加することは、米国を第一に考えることと一致するという考えを押し進める必要がある。国務長官に指名されたアントニー・ブリンケン氏も同じ考えを持っている。

――「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」戦略や日米豪印安保対話(QUAD)は維持されるのでしょうか。

バイデン政権の考え方もrules based order(法の支配)などを重視している点で、FOIPについて基本的に同じだ。人権や民主主義をより尊重するので、「自由」という言葉をより強調するかもしれない。QUADもオバマ政権で始まった概念であり、維持されるだろう。

ただ、トランプ政権はFOIPやQUADを反中国の政策アプローチとして使った。バイデン政権も中国に懸念を持っているが、すべて対決するのではなく、協力も歓迎するだろう。気候変動などの問題では、中国が参加できる機会を作ると思う。

フィリピンのスカボロー礁付近で漁をするフィリピン人漁師の奥に停泊する中国船=2016年12月13日、矢木隆晴撮影

――台湾や尖閣諸島の問題はどうでしょうか。

台湾問題を巡る目標は、バイデン政権もトランプ政権も同じだが、戦略が異なる。トランプ政権はアザー保健福祉長官やクラック国務次官らを台湾に派遣した。バイデン政権のなかには、やり過ぎたと感じている人が多く、静かに台湾をサポートしたい。台北と北京の対立が激しくなることは避けたい。米国と台湾の2者協力ではなく、地域組織への参加などを支援したい。その点で、日本のサポートが重要になる。

バイデン氏は菅義偉首相との電話会談で、尖閣諸島に日米安保条約第5条が適用されると伝えた。バイデン政権にはアジアや日米同盟をよく理解している人が多く、プロフェッショナルな政策を作る準備ができているということだ。

――日米韓の安全保障協力はどうでしょうか。

北朝鮮に対する抑止や中国の影響力とのバランスなどから、日米韓協力は重要だ。バイデン政権は、日韓関係改善をサポートしたいと考えるだろう。トランプ政権時代よりも、日米韓の政策調整が円滑になるのは間違いない。

ただ、二国間で直接圧力をかけるやり方は取らないのではないか。長期的にみて、米国の立場を傷つけることになるからだ。3カ国が対話できる機会を提供する努力などをするだろう。

韓国は最近、日本に対する外交アプローチを増やしているようだが、韓国側の菅政権に対する期待値が高すぎるのではないかと、やや心配している。

――米国が昨年離脱したロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約、来年2月に期限を迎える新START(戦略兵器削減条約)などへの対応はどうなるでしょうか。

バイデン政権を支える人々は、できれば、INFに復帰したいと考えているようだ。新しい中距離ミサイルの開発や配備はしたくないというものだ。

民主党内には、気候変動や核不拡散の問題で、トランプ政権の誤りを正したいと考えている熱心なグループがある。INFが米ロだけで、中国が参加していない問題は十分認識しているが、まだ時間があるとも考えている。今、中国に対して厳しい圧力をかけるタイミングではなく、中国を説得する時間がまだ残されているという考え方だ。

新STARTもできれば廃棄せずに延長させたいと考えている人が多い。

――バイデン政権が北朝鮮に対し、核廃棄ではなく核軍縮を求めるという予測も出ています。

核軍縮という言葉があちこちで聞かれるが、人によって意味が異なる。

大多数の人は、北朝鮮は核を廃棄しないだろうと考えている。短期的には実現できない。長期的に考えて、どのようなリスク管理ができるのか。例えば、人によって、核軍縮と制裁との関係に違いが出る。どのくらい廃棄すれば制裁を緩和するのか、廃棄の際に検証をどうするのか、など様々な意見がある。

ただ、米朝協議を始めるべきだという点では一致している。ドアを開けて、北朝鮮に交渉の機会を提供する。一部には、南北の経済協力のために制裁を緩和すべきだという意見もある。文在寅政権は歓迎するだろうし、南北首脳会談の可能性も生まれるだろう。

結局、北朝鮮の考えが最も重要だ。どの程度、柔軟に対応するかによって、北朝鮮核問題の行方は大きく変わるだろう。