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【バイデンのアメリカ③魏聖洛】早く日韓首脳会談を 米国からの圧力が必ず来る

揺れる世界 日本の針路 更新日: 公開日:
日中韓サミットに合わせて行われた日韓首脳会談会場で、韓国の文在寅大統領(右)を出迎える安倍晋三首相(当時)=2019年12月24日、中国・成都、岩下毅撮影

【バイデンのアメリカ】連続インタビュー(全3回)

#1 北岡伸一】最悪に備える。それが安全保障の鉄則(12月14日)

#2 ジェームズ・ショフ】対決と協力、次の米中外交は両輪だ(12月15日)

#3 【魏聖洛】早く日韓首脳会談を 米国からの圧力が必ず来る(12月16日)

――予想よりもトランプ大統領への支持が多かった。

選挙を通じて民意を集約して妥協を図るはずが、逆に民主主義に肯定的な影響を与えず、分裂が深刻化した。バイデン氏による政権運営は簡単ではないだろう。4年後の大統領選を意識した政策を取らざるを得ない。

移民政策や新型コロナウイルスへの対応などで、トランプ支持者たちの考えも尊重せざるを得ない。中国とも強く対立したトランプ政権の路線を継承するのではないか。

ただ、同盟関係や国際社会での米国のリーダーシップを回復しようとするだろう。関係が疎遠だった北大西洋条約機構(NATO)諸国との関係も改善するだろう。中国とも、新型コロナや地球温暖化防止、核不拡散などの問題では協力の道を探ると思う。核不拡散には北朝鮮核問題が含まれる。バイデン氏も習近平中国国家主席も、政権ナンバー2だった当時、交渉した経験がある。こうした実績が生きることを期待している。

魏聖洛氏(本人提供)

――バイデン陣営には、北朝鮮との間で核廃棄ではなく核軍縮交渉をせざるを得ないという意見もあるようです。

いましばらく、見極めが必要だ。段階的な接近はありうるが、最終的にはCVID(完全かつ検証可能で不可逆な核廃棄)という目標は維持されると信じる。

その場合、(6者協議が機能を停止する原因になった)北朝鮮による核開発の申告と検証という問題が再び浮上する。北朝鮮は当時と同様、完全な申告や検証に応じる可能性は低い。

むしろ、(米朝間の信頼関係樹立や平和体制の確立の後、朝鮮半島の非核化を目指すとした)2018年6月のシンガポールでの米朝首脳共同声明という成功体験に基づいた交渉を求めるだろう。バイデン政権は応じないと思う。

米朝双方の意見の差が大きく、歩み寄りが難しい。その場合、北朝鮮が軍事的な挑発に出る可能性がある。挑発は対話の機運を遠ざけてしまう。バイデン政権は北朝鮮政策がまとまる前から、北朝鮮との接触を始めて、状況を安定的に管理する必要がある。

シンガポールで史上初めて行われた米朝首脳会談。トランプ米大統領(右)と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長=2018年6月、朝鮮通信

――バイデン政権は日韓両国にはどう対応するでしょうか。

日韓との同盟関係を重視するだろう。米国も日韓両国も、ともに誠実に同盟国としての義務を果たそうと呼びかけるだろう。5Gなど中国の技術覇権問題への共同対応を求めるかもしれない。(米国が韓国、ベトナム、ニュージーランドに参加を呼びかけている)QUAD(日米豪印の4カ国安保対話)+への参加も要請するだろう。トランプ大統領がシンガポールでの米朝首脳会談で中止を約束した大規模な米韓合同軍事演習も再開されるだろう。

バイデン政権になれば、トランプ政権が2017年に離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)に復帰する可能性が高まる。韓国は米国がいないことを理由に、TPPへの参加を推進してこなかったが、今後はTPP加入が課題として浮上するだろう。

韓国は来年4月にソウルと釜山の両市長選挙、再来年初めに大統領選がある。どのような対応になるか予測が難しいが、米中の間で自由に動ける空間がやや小さくなりそうだ。文在寅政権が重視する南北関係の進展も容易ではない。早く、バイデン政権と接触し、共同歩調をとる努力をすべきだ。

バイデン氏は大統領選の討論会で「日韓関係の悪化を放置した」と述べ、トランプ氏を批判した。バイデン政権は日韓関係の悪化を放置しないということだろう。このままでは、米国から関係改善を求める圧力がやってくる。

だが、韓国も日本も経済規模も大きく、水準の高い民主主義国家だ。日韓だけで解決できず、米国の圧力を受けることは望ましくない。当面、日韓首脳会談の開催に向けて努力すべきだ。

2019年6月、大阪でのG20(主要20カ国・地域)首脳会議で、日韓首脳会談ができず、翌月の輸出管理措置の発動につながった。今年末までに日中韓首脳会議を開き、その際に日韓首脳会談を開くことができなければ、状況はさらに悪化するだろう。

もちろん、韓国が徴用工判決問題の解決に向けた努力をすべきだが、日本も前向きに行動してほしい。日韓関係が改善すれば、バイデン政権が求めてくるとみられる日米韓協力の強化を巡る選択肢も増える。