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ホストファミリーを追い出された母子3人がたどり着いたのは NZ親子留学

育休ママの挑戦~赤ちゃん連れ留学体験記~
NZでの親子留学中に撮った中でもお気に入りの1枚。散歩の途中で見つけた、中古販売されているトラクターにのるシンシン(上)。ルールー(下)の顔が「売らないでね」と言っているようで面白い=2019年3月、ニュージーランドのフィティアンガで、今村優莉撮影

2018年9月から続けてきた赤ちゃん連れ留学。日本に帰るまで残り2週間となった翌年3月のある日、私とシンシン、ルールー兄弟は、新しいホストファミリーのもとへ移った。

前の家を「追い出された」形になった私は、当時、ショックのあまり荷物をまとめて帰国してしまおうと考えた。だが、英語学校のマクリーンえり子校長にこう言われて、思いとどまった。

「移動するのは大変だし、落ち込む気持ちはわかりますよ。でもね、あなたが思うほど、状況は後ろ向きではないと思うの。エリー(前のホストマザー)は怒っているわけではない。ちょっと疲れちゃったと言う感じね。次のホストファミリーもとてもいい家族よ。一度のホームステイで2つの違うホストファミリーを経験できるなんてめったにないと思いませんか。きっと楽しめるはずですよ」

エリーさんは、昼間は引き続きシンシンとルールーのベビーシッターを続けてくれると言ってくれた。「家は追い出されちゃうのに、昼間にまた会うなんて、なんだか気まずいなあ」と最初は思った。だが「その辺は割とさっぱりしているのよ、こっちの人は」と、マクリーンさんが言ったように、エリーさんのシッターとしての安定感はゆらがなかった。むしろ、夕方以降の負担がなくなったこともあるのか、顔がイキイキし、2人の子どもに関する話だけでなく私の体調や学校についてもいろいろと聞いてくれるようになり、私とエリーさんの会話は前より増えた。

新しいホストマザーは、リンダさん(55)。学生のころは陸上の選手だったといい、背が高く、エネルギッシュな女性だ。「スポーツマニア」だったという父親の影響で小さい頃からオールブラックスの試合を見ていたため、ニュージーランド人のなかでも群を抜くラグビー通だ。ニュージーランドの衛星放送Sky TVに入社して22年間、ラグビーイベントのマネジメント業務に携わった。シーズン中は週末も関係なく全国を駆け回り、「週70時間以上働いていた」。結婚し、1男1女をもうけたあとも激務をこなしていたが、約11年前、長男チャーリー君が3歳のころにシングルマザーに。子育てとの両立の難しさから現場の仕事を離れ、今は在宅でも勤務できることを優先し、地元のラジオ局でスポーツイベントに関する仕事をしているという。

新しいホストマザーのリンダさん(上)と、シンシン(下)を抱く息子のチャーリー君(中央)=ニュージーランドのフィティアンガで、今村優莉撮影

ホストマザーを始めたのは「夫と別れて、仕事も変わり、人生が劇的に変わった。悲しくて、孤独だった」からという。以来、11年半にわたり、50人以上の学生を受け入れてきた。

お酒と料理とおしゃべりが大好き。仕事が終わると、陽気に鼻歌を歌いながら台所にたった。パスタやチャーハンなど、フライパン一つで終わる一品料理が多かったが、台所の棚にずらりと並んだスパイスや調味料を組み合わせ、日々違う味に仕上げるという独自のスタイルをみせてくれた。仕事と子育てとホスティングを両立させてきたシングルマザーならではの「時短かつ飽きない」料理は見ていても勉強になった。

お気に入りのNZ産ワインを片手にリンダさんはよく、自分のことを話してくれた。ラグビーチームにくっついて国中を出張した日々、家庭を顧みずに働き、気がついたら夫と距離が出来ていた過去、子育てを手伝ってくれた愛する父の死、女手一つで育ててきた子どもたち、転職によって絶たれたキャリア。

「キャリアを諦めなければいけなかったことが、一番悔しいことだったかな」。子どもたちが無事に巣立ったら、またテレビ局で働きたい、と話してくれた。

学校でネットボールの代表選手でもあるスポーツ万能の長女ソフィー(15)と、スクーターと釣りが大好きな長男チャーリー(13)は、そんなリンダさんを見ながら素直に育ち、いまは支えの存在になっているという。特にチャーリーは、母親のイベントの仕事にも顔を出して手伝い、家では「ママ、もう3杯目。飲みすぎだよ」とグラスを取り上げて厳しい顔を見せる頼もしい少年だ。

前のエリーさん宅も広かったが、リンダさんの家もとても大きかった。部屋も多い。メーンのリビングに加えて客人用の小さなリビングもあり、リンダさんはチャーリーが小さいころに遊んでいたおもちゃを、シンシンとルールーのために物置からひっぱりだしてくれていた。

到着した日。「さあ、今日からここがあなたたちの部屋と客間よ。汚しても構わないし、自由に使ってね」と言って開けてくれた部屋のカーテンに、オーマイガ。遠目でもはっきり分かる大きさのヤツが1匹、はりついていた。NZ産のゴキブリに遭遇したのは、後にも先にもこれが初めてで、自然豊かなゆえかその巨大さにも驚いたが、人間をまったく怖がらないらしく、長い触覚を右に左に揺らしながら、「おれに何か用か」とでも言いたげに微動だにしなかった。

「あらら~~~!失礼。ちょっと待っててね。スプレーするからあっち行ってて」と言ってスプレーをふきかけ、「これでしばらくは来ないでしょう」とリンダさんはウィンク。

台所には、小さなアリも行列をなしていた。ソフィーもチャーリーも、大して気にしてもいないようすだ。私も、巨大ゴキブリはともかく、虫はそこまで苦手ではないので大丈夫だったが、虫が苦手なお母さんはひっくり返るかもしれない。裏庭には飼いウサギが1匹いた。犬も2匹いて、たまに猫が遊びにきていた。

チャーリー(左)と夕方の散歩へ。靴を履かないチャーリーのマネをしたのか、シンシン(右)もそれからはずっと裸足のままだった=ニュージーランドのフィティアンガで、今村優莉撮影

チャーリーは、とにかく素足だ。学校から帰ると基本、靴を履かない。家で裸足というのはともかく、「買い物に行くよ~」とリンダさんが言うと、そのまま飛び出して車の助手席にぴょこんと乗り、裸足のままスーパー内の売り場をてくてく歩く。前の家で、靴を脱がない家族の生活に慣れたころに、靴を履かない少年と暮らすことになるとは。チャーリーは、よく庭でシンシンと遊んでくれたが、シンシンも、いつの間にか靴を履くのを嫌がり、その習慣はついに日本に帰国するまで続いた。

部屋の窓も裏庭のドアも開けっ放しなので、私は内心、いつまた巨大な触覚を目にするのか気が気じゃなかったが、これも、自然豊かなNZの、さらに都心から遠く離れたフィティアンガだからこその魅力なのかもしれない。

親子留学も残り半月。ゴキブリでもアリでもなんでも来い。

***新しく暮らし始めたホストファミリーで、シンシンは2歳の誕生日を迎えました。母子3人でよく遊びに行っていた合唱サークルの集まりに顔を出すと、聞き慣れたあの歌を歌ってくれたのですが、なんと英語じゃなくて……!?