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新型コロナにあえぐ韓国のあるマスク工場での出来事

東亜日報より
韓国の文在寅大統領が視察したソウル南西部にあるマスク工場=2020年3月6日、ロイター

ある日突然、正確には2月26日のこと。食品医薬品安全所の公務員2人と国税庁職員と警察1人ずつ、計4人が工場へ出勤するようになった。その前日、政府がマスク生産量の半分を優先的に郵政事業本部、農協中央会など公的販売所を通して売ると発表したためだ。1日に10万枚余りを生産するこの工場に来た公務員たちは、半分を新たな取引先に出荷するよう求めてきた。

この工場の代表は当惑しつつも従った。非常事態での行政命令だからだ。しかしながら、この後も難題が続いた。

工場は在庫を確保しようと生産してきたわけではない。既存の取引先である卸売業者に約束していた分を出荷できないと連絡した。長く取引してきた卸売業者たちは悲鳴を上げたが、どうしようもなかった。業者に契約金を返したら、今度は公的販売所と一つ一つ新たに契約を結ぶことになった。この工場はそれなりに規模が大きく、営業と財務のスタッフがフル稼働して契約を結ぶことができた。

しかしながら、新たな取引先は、マスクを先に受け取って、支払いは15日後だという。「それはないでしょう。材料は現金で買っているのに」と抗議したが、それを見ていた国税庁の公務員は「税務調査を受けてもいいのか」と言ってきた。事業をやってみた人なら分かる。税務調査を受ければ業務が麻痺して、知らずにやった小さな会計処理のミスが大きな問題となって、健全な会社でも「脱税犯」にされてしまう。後で分かったが、卸売価格なので、既存の供給価格のまま受け取れたのは助かった。

それから1週間たった3月5日、公的販売の割合が80%に高められた。今回は契約の当事者が調達庁に変わり、再び契約を結ぶことになった。決済代金が3日で入るようになったのは良かった。

韓国のマスク市場は年間500億~600億ウォン(約44億~53億円)規模と小さい。130余りの企業があり、年平均3~4億ウォン(約2600万~3500万円)の売り上げがあるとみられる。その中には、機械を1、2台置いて、社員5、6人で1日に1万枚程度を生産する小規模業者もある。零細業者は経済的に厳しく、特定の消費者層をターゲットに特殊製品を少しずつ生産して卸売価格よりも高く売る。このような零細業者にも公務員が突然来て「公的販売所と契約しろ、価格を合わせるのは難しい」などと言われ、「つぶれる」という業者が出てくるのも無理はない。

マスク工場の代表は「1週間で様々な行政の混乱と生産力低下を経験した。しかしながら、これで終わりでないだろう」と予測する。政府は日に1000万枚ほどのマスク生産量を増やすため、様々な政策を講じたというが、代表の見方では、今後生産量は減ることはあっても増やすのは難しい。フィルターの輸出国だった中国が輸出を止めたからだ。マスクの型をとる機械も主に中国から輸入しているが、これも止まっている。国内にも機械を作る所はあるが、注文から製品出荷まで3ヶ月かかる。

「夜勤をしてでも数量を増やせというが、すでに私たちは夜勤をしてマスクを作っている。生産を増やすための基本条件である機械と材料が不足している中で、これ以上何をどうしろというのか」

状況が厳しくなってきた2月初め、政府はマスクの買いだめと流通業者だけを問題視した。2月末には大統領が「私たちの需要をまかなうだけの十分な生産能力がある。政府を信じて」と公言した。この後は曖昧な態度になって、3月9日から「マスク5部制」(注:出生年度によって指定曜日に一定数のマスクが購入できる制度)が実施された。需給の現状も打開策も把握できていない政府が対策を立てるのは、今回が最後ではないだろう。これがマスク行政をめぐる大韓民国の現況だ。

(2020年3月9日付東亜日報 ハ・イムスク産業1部長)

(翻訳・成川彩)