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ベトナムでの赤ちゃん連れ生活、足りないものは何?

子連れで特派員@ベトナム 更新日: 公開日:
「ハノイベビー会」に参加する赤ちゃんとお母さん=鈴木暁子撮影

7歳の長男(ポコ)と夫(おとっつあん)と一緒にベトナム北部ハノイで暮らしながら新聞記者をしています。今回は、ハノイで赤ちゃんと暮らす人たちに聞いたお話です。

ハノイでポコの荷物を整理していたら、懐かしいものがたくさん出てきた。万が一おねしょをしたらと、念のため持ってきていたおむつ数枚。キョウリュウジャーとアンパンマンの絵のついたプラスチックの器。小さくなったズボンなどだ。ハノイに来たばかりの時は4歳だったけど、こんな赤ちゃんみたいなものをまだ持っていたんだ! 7歳になり、インターナショナルスクールで片言の英語も使えるようになったポコは、気に入らないことがあると「It doesn’t make sense(わけわかんないよ)」と英語で言ってみたり、肩をすくめる、いわゆる「ホワーイのポーズ」をとったりする。ベトナムなのに欧米かと突っ込みを入れたくなる。

もしも、ポコがまだ小さい赤ちゃんだったら、ハノイ生活はどうなっていただろう。そんな想像をしたのをきっかけに、今まさに小さなお子さんを育てている人たちにお話を聞こうと「ハノイベビー会」を訪ねた。ベビー会は3歳未満のお子さんがいるハノイ在住の日本人家族の会だ。月に3回ほど、日本人が多く暮らすサービスアパートのキッズルーム(遊び場)に集まって情報交換をしている。1歳10カ月のお子さんがいる幹事の上別府十和さん(34)によると、ベビー会は少なくとも5年前から続いており、約140人が参加しているという。参加するのはお母さんと子どもが中心だが、過去にお一人、登録を希望したお父さんもいたそうだ。「ここで友だちを見つけられますし、ハノイでの生活情報も入手できます」と上別府さんは話す。

子どもと一緒に歌や手遊びに聴き入るお母さんたち=鈴木暁子撮影

お話を聞いて、まず、なるほどなあと思ったのは飲用水のこと。ベトナムでは水道水をそのまま飲めないため、ミネラルウォーターを買う家庭が多い。だが赤ちゃんに粉ミルクなどを飲ませる際、ミネラル分を多く含んだ硬水を与えると体に負担がかかることから、ハノイでは代わりに、水道水を軟水にできる浄水器をつける家庭が多いそうだ。これまで気がつかなかったけれど、赤ちゃんと海外で暮らす際の「あるある」なのかもしれない。

ハノイには日本人医師が常駐する病院も複数あり、赤ちゃんの健診は心配ないという。ベビー会では年に2回、医師を招いてお話を聞く会も開いている。ある回のテーマは予防注射。会員からは「1歳の子どもに狂犬病の予防注射を打ってもよいでしょうか」との質問があったそうだ。狂犬病は、ウイルスを持った犬にかまれるなどして発症すると、治療の打つ手がない怖い病気だ。日本の厚労省によると、日本国内では1957年以降は感染による死者が出ていない。だがベトナムやフィリピンではいまも毎年命を落とす人がいる。この時は医師から予防接種を受けた方がよいとの助言があったという。

会員たちは、メーリングリストで「ベビーベッドが必要な方はいませんか」「シッターさんご紹介します」「幼稚園でイベントがあります」といった情報も共有している。中野ゆいさん(35)は、「こちらに来る前は、インスタグラムでハノイ在住の方に、おむつは売っていますか?などと質問して情報を集めました。日系スーパーのイオンもあるし、日本より割高ではありますが、今のハノイはお金があれば何でも手に入る状況です」と話す。

ハノイでも日本のおむつ「メリーズ」が人気。よく見かけます=鈴木暁子撮影

確かに、不便さはあまり感じない。小さなお子さんを育てる立場から、それでもハノイで見つけにくいものってあるんですか?と聞いてみると、意外な答えが返ってきた。

まずは「子ども用の靴」だ。ハノイにはショッピングモールもあるし、旧市街には靴屋通りもあるが、子どもに履かせたい靴が売っていない。私もハノイで見つけられず、カンボジアやフィリピンに出張するたびポコの靴を探したが、どれも硬く、ちょっといいなと思うと値段が高すぎる。日本ならスニーカーなど、柔らかくて歩きやすい手頃な靴がたくさんあるのになあ。気候の違いもあり、日本とは子どもに履かせる靴の概念がちょっと違うのかもしれない。

もう一つは、なんと「絵本」だという。ハノイでバザーがあると絵本を探して購入するという人もいた。日本では出産すると、自治体のブックスタート事業で絵本が贈られたり、図書館で読み聞かせの会が開かれたりと、絵本に触れる機会がたくさんある。「子どもに読み聞かせることは良いことだ」という考えが、若いお母さんにも定着しているのだと思った。一方で、ベトナムには絵本作家を名乗る人も少なく、読み聞かせのしかたを知らない人も多いと聞く。絵本が身近にあった私の子ども時代の環境は、決して当たり前のものではなかったのだなと思った。日本政府はベトナムにいろいろな援助をしてきたが、各国の絵本も置いた図書館ができたらすてきなのになあと想像した。

新聞紙をちぎって丸め、布の上で弾ませる遊びを見せる人たち=鈴木暁子撮影

11カ月の新太くんを育てる南雲美来さん(29)は、ハノイでは公園に行っても放し飼いの犬がうろうろしているし、大気汚染がひどく、家にこもりがちな時期もあったという。「会のおかげで友だちができて、日本食レストランに子どもと行ってくつろぐこともできるようになった。それにベトナムの人はお店で子どもをあやしてくれたりと子連れに親切で、困っていると助けてくれるのがとてもありがたいです」

上別府さんは、ハノイでは週に2度シッターさんを雇って食事を作ってもらっているという。「慣れない環境での育児なのでとても助かっています」。日本は小さな子どもと店で食事がしにくいといわれるが、「ベトナムでは肩身の狭い思いはしたことはないです。外出や料理が大変なときは、食事のデリバリーも充実しています」。

子育て環境も場所によってよしあしがある。私が子どもとベトナムで暮らして、ああまったくもう!とよく思ったのは、歩行者がいようと車やバイクが断固として止まらず、突進してくるところだ。注意がいるし、ただでさえハノイの道はほこりっぽくて、散歩はなかなか楽しめなかった。一方で、やっぱりベトナムはいいなあと思うのは、そこら中に大きな声で元気に話している人たちがいて、ちょっと子どもがぐずろうと、目立ちもしないので嫌な顔一つされないことだ。ポコが歩いていると、若い男性もおばさんも、ほっぺを触りに近づいて来て、本当によくかわいがってくれた。この気楽さは日本ではなかなか味わえないと思う。車が止まってくれる静かな日本もいいけど、帰国後を考えるとああなんだか寂しいな。

ちなみに、ベトナム駐在の夫とともに日本に帰国することが決まった日本人の妻が「いやー!」と叫んでいるのをよく見かける。ある女性は、「私も復職するのに、ご飯も掃除も全部やらなきゃいけない日々がまた始まる」と、げんなりした様子で帰国していった。ベトナムではお手伝いさんが助けてくれた家事も、帰国したとたん、ほとんど女性が丸抱えしなければならなくなるという現実。なんだかなあ。