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ベトナムで人気のヘアスタイルはなぜツーブロックなのか

子連れで特派員@ベトナム 更新日: 公開日:
ツーブロックのヘアスタイルの人気芸能人の写真を看板に掲げた店で美容師をするタンさん=鈴木暁子撮影

ハノイには、屋外の路上に鏡と椅子を置いただけの「青空床屋」さんが、あちこちにある。わが家のポコも、近所の道路の片隅でいつも忙しそうにお客の髪をカットしているホイさんという床屋さんに髪を切ってもらっていた。まじめで丁寧な仕事ぶりで、しかも150円ほどで髪を整えてもらえる。これからもずっとお願いするだろうな、と思っていた。

ところが去年の9月のこと、ホイさんに髪を切ってもらうのは3度目だったポコが、椅子に座りながらさめざめと泣き出した。「この髪の毛はいやなんだよー。切りすぎだよー」と泣いている。ホイさんに切ってもらうときは、たいてい、両脇をバリカンでかりあげ、上の方の髪は少し長めに残した髪形に仕上がる。ベトナムの子どもがよくしているスタイルだ。だが、最近自分の好みがはっきりしてきたポコは、少し長めでまるっこい雰囲気の髪形が好きになってきていた。私のベトナム語能力ではホイさんに、「あのーもうちょっと丸い感じで」「いや、サイドは切りすぎず、あっそれぐらいでOKです」などという細やかな指示はとても出せなかった。ポコはしばらくべそをかいていた。

昨年9月、路肩の床屋さんで散髪をしてもらうポコ=鈴木暁子撮影

もうホイさんに切ってもらえないのは残念だなあと思っていたところ、髪が伸びてきたポコを連れておとっつあんが行ってくれたのが、ハノイにある日系美容室Te To Te(テトテ)だった。大阪出身の阪下正樹さん(36)が開き、今月で満5周年を迎えた人気店だ。大人が平日にカットなどをお願いする場合は、同行の小学生未満の子どもの髪を無料でカットしてくれるというサービスがある。当時まだ年長さんの年齢だったため、ポコもカットをしてもらうことができた。

テトテはハノイ在住日本人御用達の美容室だが、日本人は全体の6割ほどだという。日本人以外では、韓国人のお客さんもいるが、9割はベトナム人のお客さんだ。中には、韓国や日本で流行している髪形を指定してくるお客さんもいるという。

テトテの外観=鈴木暁子撮影

ところで、ずっと思っていたのだが、ベトナムの男性には「ツーブロック」といわれる髪形の人が多い。ホイさんがポコにしてくれたように、脇と後ろはかりあげにし、頭のてっぺんから耳あたりまで髪を長めに残すスタイルだ。「確かにツーブロックにしている方は多いですね」と阪下さん。なぜ多いのでしょう?と聞くと、ベトナムの人に聞いてみないとわかりませんが、と前置きをした上で、「バリカンで脇や後ろを『ここからここまではいらん』という風にかりあげてしまうことができ、ある意味簡単に、早くできるスタイル。料金をあまり高く設定できない中で、広がりやすいスタイルだったのでは」という。なるほど、さすが美容師さん。別の日本人美容師の丸本藍さんは、「バイクに乗るから、ヘルメットをかぶっても乱れにくく、がっちりと固めやすいスタイルとして好まれているのではないでしょうか」と分析してくれた。どちらもうなずける。

ツーブロックの髪形のベトナムの男性=鈴木暁子撮影

ではベトナムの美容師さんに聞いてみよう。ベトナムでは、男性用美容室(床屋)の看板の「定番」といっていいほど、よくみる有名人の写真がある。取材で訪ねた北部クアンニン省の町で通りかかった店にもやはり、あのハンサムな彼がいた。それは、英国の人気ボーイバンド、ワン・ダイレクションの元メンバー、ゼイン・マリクだ。カンボジアの床屋さんでもこの人の写真を掲げている看板をよく目にする。看板の右端にはカナダの人気歌手ジャスティン・ビーバーの写真が。二人とも、ばっちりかっこいいツーブロックの髪形だ。

看板のあの人アップ=鈴木暁子撮影

店主のタンさんに、なぜベトナムではツーブロックの髪形にする人が多いのですか?と聞いてみた。返ってきた答えは、「それは一番ホットな髪形だからだよ」。おお、単純明快。「この3年ほどかな、30歳以下の若者に人気だね」。世界的にはもう少し前から人気があったのかもしれない。ウィキペディアによれば、日本では1980年代半ばから90年代初頭に爆発的人気を博したといい、代表的な有名人としては坂本龍一がいたYMOや、俳優の吉田栄作らの影響があるそうだ。その後、俳優の小栗旬らの影響で2011年ごろから再び流行したのだとか。おしゃれでかっこよくみえるのは確かだ。

もう一つ、タンさんに聞いた。ベトナムの美容室でこの写真をよく見るのですが、どなたかご存じですか?「えーと、確か、これは英国のDJだね」。むむむ、DJなのかなこの人……。よくわからないけど、かっこいいから、まあいいか。