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ベトナムのトイレから見えるもの

子連れで特派員@ベトナム
ベトナムのトイレにある「便座にしゃがまないで」サイン=鈴木暁子撮影

子どもに教えられることは本当に多い。例えば、トイレの使い方とか。

ハノイの我が家の洋式トイレには、便器の脇の壁からホースが伸びていて、レバーを押すと水が出るようになっている。ベトナムの一般的なトイレにはほぼ必ずついている小型シャワーだ。地元の人はこれでおしりを洗うのだろうと思ってはいたが、自分で使ったことは一度もなかった。

ベトナムのトイレ。向かって左側におしり洗いなどに使う小型シャワーがついている=鈴木暁子撮影

ある時、トイレに座っていたポコに、「おしりをふいて出てね」と言ったら、ポコはおもむろにその小型シャワーを手に取り、便座に座った両足の間からおしりに向かってシャーッ!と水を噴射。「こうやって洗うんだよ」と教えてくれた。

へえー、こうやるんだ!おしりが上手にふけないときはこれを使いなさいね、と幼稚園でベトナム人の先生に教えてもらったのだという。慣れないものに手を出さずにいた私なんかと違い、子どもは本当に柔軟だ。

この小型シャワー、カンボジアやフィリピンなど東南アジア各地のトイレで非常によく見る機能だが、不慣れな外国人は多いようだ。去年、フェイスブックで世界各地に広まったベトナムの話題があった。「ベトナムのシャワーは小さすぎるよ!」と文句を言いながら、このおしり用小型シャワーで頭を洗う白人男性の写真だ。ハノイを旅行中の出来事だという。ウケねらい?ではあろうが、きっとこの人もトイレで戸惑ったのだろう。

ベトナムの「シャワー」は使いづらい?ハノイを旅行した男性がフェイスブックで2018年10月に公開し、世界中でバズった写真=フェイスブックより

つまりこの小型シャワーは、日本でいうところの「洗浄便座」なのだ。最近はベトナム人の間にも、日本式の洗浄便座が普及し始めている。大阪に一時帰国してハノイに戻ったとき、空港の荷物受取所にいると、カバンなどにまじって、ベトナムの人が日本で買ったらしい家電製品の箱がコンベヤーの上を次々と流れてきた。私が数えた限り一番多かったのは炊飯器(七つ)、その次に多いのが取り付け式の洗浄便座(二つ)だった。

ハノイのノイバイ空港のベルトコンベヤーを流れるTOTOのウォシュレット=鈴木暁子撮影

売れ行きを知りたくて、ベトナムに進出して17年目という、「ウォシュレット」で知られるTOTOベトナムを訪ねた。ベトナムには便器や洗面などの衛生陶器を作る工場があり、20%強が日本に輸出されている。ウォシュレットは日本などからの輸入品だが、爆発的に売れ始めているという。

「日本では7割ほどの家庭に洗浄便座がついていますが、ベトナムではまだ全体の数%ほど。それでも、30代を中心に、中間層よりも豊かな人たちがステータスの一つとしてウォシュレットを取り付ける例が増えているんです」。販売担当の塩澤一之さん(45)がこう教えてくれた。日本で25万円弱する商品の場合、ベトナムでは40万円ほどの高級品だ。新しい家に人を招き入れ、最新式のテレビを自慢するのと同じように、ウォシュレットが使われている。

ベトナムでウォシュレットなどの販売に力を入れる塩澤一之さん(中央)とTOTOベトナムのみなさん=鈴木暁子撮影

日本でウォシュレットが発売されたのは1980年、塩澤さんが小学校1年生のときだ。私は塩澤さんと同い年だが、初めてウォシュレットを間近に見たのは、5年生くらいになってからだったと思う。お金持ちのお友だちの家で、なんじゃこりゃとボタンを押してトイレをびしょびしょにしてしまい、冷や汗をかいたことは今も忘れられない。「当時の日本には床が敷石で、水を流して掃除できるトイレもまだ多くありましたよね。今のベトナムはそんな一昔前の日本と同じ状況です」と塩澤さんはいう。

ベトナム北部のハノイは南部のホーチミンなどと違って四季があり、冬は寒さも厳しい。暖房便座機能もついたウォシュレットが売り込みやすい土地柄といえる。「10回ほど使わないとウォシュレットの良さはわかりにくい。まずは使う文化を広めたい。旅行や仕事で日本に行くベトナムの人がたくさんいる今、いろんな可能性があります」と塩澤さんは意気込む。

インドネシアなどでは、小型ホースではなく、便座の脇にあるレバーを押すとお尻に向かって水が出る簡易式の洗浄便座が爆発的に売れているそうだ。ハノイの我が家もその後、ホースからこちらのタイプに変わった。やはりポコがよく使っている。

フィリピンのトイレも小型シャワーつきだ=鈴木暁子撮影

ベトナムのトイレについては、もう一つ疑問に思うことがあった。レストランや空港でトイレに入るとほぼ必ず、「便座の上にしゃがむの禁止!」という注意書きがついているのだ。靴のまま上がって用を足す人がいるため、便座に足跡がくっきりついていることもある。ベトナムの人、本当はしゃがんで用を足したいのでしょうか?「おしりが触れるところがぬれていたり、汚れていたりするのが嫌なんじゃないかと思います」と塩澤さん。公衆トイレでは、前の人が小型シャワーを使ったため、便座がびしょびしょにぬれたままのこともある。

日本の関西空港でも見かけた「便座にしゃがまないで」サイン。東南アジアなどからの来客向けに注意を呼びかけているのだろうか=鈴木暁子撮影

TOTOベトナムでは、美しい建築関連の書籍をそろえた図書室が一般に公開されている。あこがれの家の姿を思い描くうちに、例えば、トイレをきれいに使うといった公共意識も根付いていくのではないか。そんな効果を期待しているのだそうだ。

私が20数年前にフィリピンに留学した時は、学校でも長距離バスの待合所でも、トイレの水が流れず、清潔さとはほど遠いトイレが多かった。いまは見違えるほど、きれいなトイレばかりだ。ベトナムやカンボジアでは、地方に行くと、低い壁の仕切りしかなくて上から丸見えのトイレや、便器がなく、細い水路だけが用意されたトイレもまだみるが、どこも清潔で、いやな思いはあまりしたことがない。トイレからも、東南アジアの変化がかいまみえるようだ。