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就職難の末に自殺……韓国の若者たちの厳しい現実描く 映画「若者のひなた」

現地発 韓国エンタメ事情
コールセンターのセンター長セヨン(左)と実習生ジュン=JUNE FILM提供

韓国では深刻な就職難の状態が続いている。10月の釜山国際映画祭で上映されたシン・スウォン監督の「若者のひなた(Light for the Youth)」には、19歳の実習生が直面する韓国社会の矛盾がまざまざと描かれていた。

シン監督は2017年の釜山映画祭オープニング作「ガラスの庭園」の監督で、「冥王星」でベルリン映画祭、「マドンナ」でカンヌ映画祭にも招待された経歴を持つ。個人的には2010年、なら国際映画祭で上映された長編デビュー作「虹」を見た時からのファンだ。

韓国の若者の就職難は、イ・チャンドン監督の「バーニング」やポン・ジュノ監督の「パラサイト」にも出てくるが、そこに「母」の視線が加わったのは、シン監督自身が20代の子どもを持つ母だからだろう。母として、監督として、現在の若者の就職難についてインタビューした。

シン・スウォン監督=成川彩撮影

「若者のひなた」の主人公は3人だ。コールセンターのセンター長セヨン(キム・ホジョン)、コールセンターの実習生ジュン(ユン・チャンヨン)、セヨンの娘ミレ(チョン・ハダム)。大学生のミレもまた、別の会社で実習中だ。

正社員を夢見て実習中のミレ(左)=JUNE FILM提供

シン監督がこの作品を作るきっかけとなったのは、実際に2016年に起きた事故だった。「クウィ駅事件」とも呼ばれる、当時19歳の実習生が亡くなった事故だ。地下鉄駅のホームドア修理作業中にホームドアと列車に挟まれて死亡した。本来2人以上で作業すべきところ、1人で作業に当たっていたという。監督は当時ニュースで見た遺品の写真が頭から離れなくなった。「かばんの中に入っていたのが、カップラーメンとお箸と作業道具。ご飯を食べる時間も与えられなかったんだと思った。二十歳にも満たない若者が劣悪な労働環境で亡くなる現実を見て、映画にしなければと思った」

韓国では就職難を背景に、「インターン」という名の実習生が、安い労働力として使われている現実がある。

ジュンも19歳。コールセンターでは、カードローンの債務者に返済の催促をするのが主な仕事だ。上司からは「もっと厳しく返済を迫れ」と責められ、電話相手の債務者からは「もう少し待ってほしい」と懇願される。その間で葛藤するジュン。

一方、セヨンはセンター長として、本社からローン返済率の低さを指摘され、返済率を上げることで頭がいっぱいだ。債務者の自殺を目撃したジュンがパニックに陥っているのにも気付かない。

コールセンターを監視するセヨン(中央)=JUNE FILM提供

監督は「終わりのない競争社会」と言う。「セヨンもセヨンで本社からの圧力を受けている。韓国のみならず、世界共通の問題だと思う」

セヨン自身が加害者であることに気付くのは、娘ミレの苦しみを知って、だ。正社員としての採用を夢見て実習中だったミレは、その夢が絶たれ、自殺を図る。

そうなる前、ミレはセヨンに「お母さんの会社で働いたらダメ?」と言ってみたが、セヨンは「ダメ!」と強い口調で制した。娘に働かせたくない会社を率いている、という矛盾が印象的だった。

監督は「娘や息子の話を聞けば、自分たちの時代よりもずっと就職の機会が限られていると感じる」と話す。映画にも出てくるが、大学ではいかに就職するかを研究する「就職サークル」が人気で、「就職サークルに入るにも面接があったり、入るのすら難しいサークルもある」と言う。

コールセンター実習生のジュン=JUNE FILM提供

重い現実を突きつけられる映画だが、タイトルにも「ひなた」とあるように、希望はある。ミレに自身の過ちを気付かされたセヨンは、圧迫が圧迫を生む悪循環を止めるべく行動に出る。

「実際にはセヨンのように悪循環から抜け出す選択は難しい。みんな食べていくには稼ぐ必要があるから。せめて映画の中で、希望を表現したかった」と監督。

韓国での公開は来年の5月、メーデーを目指しているという。「商業的な映画も作らないといけないんだけど、この映画はどうしても作りたかった」。儲からないのは覚悟でこの映画を作った監督自身が、悪循環を止めるセヨンという希望に見えた。

「若者のひなた」ポスター