北欧の人々といえば、森の中で時間を過ごすことが大好きだ。私が住んでいる国ノルウェーでも、秋になると人々はベリーやキノコ狩りを楽しみ、山奥にある丸太小屋でのんびりとする。
北欧諸国がなぜ幸福度ランキングでトップ上位を独占するのか。そのヒントのひとつは、間違いなく、自然と共存するライフスタイルにあると思っている。
なぜ人々は森の中でのキノコやベリー狩りを愛しているのか。今回はフィンランドを舞台に移して、考えてみた。
中南部にあるユヴァスキュラという街を訪れた私は、フィンランド在住8年の日本人の友人と合流。一緒に、地元の森の中へと入っていた。
紫色に実ったブルーベリーだけは、大量に見つかる。
彼女の家にはサウナもあり、キノコ狩りのあとはサウナに入った。贅沢な展開だ。この「森→サウナ」という流れは、フィンランドではよくあるリラックスした暮らしレシピのひとつなのだそうだ。
彼女がキノコ狩りに夢中になる理由は「宝さがしのようで楽しく」、「晩御飯のおかずを取りに行ける」から。森の中では危険も少なく、きのこシーズンは雪のない森に入れる最後のチャンスの時期。「フィンランド人は特に目的や理由がなくとも、森の中を歩いてリフレッシュするのが好き」と語る。
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9月半ば、私は首都ヘルシンキにいた。宿泊サービス「Airbnb」には、「体験」というオプションもある。キノコ狩りという体験があったので、私はドキドキしながら応募した。
シーンとした静かさが、疲れを流す
ガイドをしてくれたのは、現地に住んで30年目となるイラン出身のニコラスさん。
「この国の人が森の中に入る理由は、沈黙を求めてだと思うよ」
「キノコ狩りをした後に、家でサウナに入り、キノコ料理をする。最高」と彼は微笑む。
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自然享受権という処方箋
「フィンランドのコーヒー消費量が世界一の秘密は、労働者の権利にあり」という記事で登場したカフェ・焙煎所「カッファ・ロースタリー」のスヴァンテ・ハンプさんが、同じ頃、Facebookにキノコ狩りをした写真を投稿していた。
「キノコ狩りは最もリラックスできる手段。鳥の声、風、自然のエレメントにキノコ狩りが揃えば、森の中にいる今という瞬間以外のことは考えなくなる。フィンランドには、誰もがベリーやキノコをどこでも採っていいという法律がある。これはみんなが持っている権利だよ」
これは、北欧諸国にある「自然享受権」という、すべての人に対して自然の利用を認める権利だ。
「これだけ大量のキノコが採れれば、家族みんなで20食分の夕飯は作ることができるし、経済的にも節約できる。これほど最高の自分の時間の使い方を、僕は知らないな」とハンプさんは話す。
ヘルシンキ大学の教授に聞く、森の癒し効果
最後に、森の中でひとつのことに集中することの効果について、専門家にお伺いした。
ヘルシンキ大学・脳科学のMinna Huotilainen教授は、森で黙々とするキノコやベリー狩りについてこう語る。
「森の中で数時間を過ごすと、健康に良い効果があることは、これまでの研究で証明されています。フィンランド人が森で過ごす典型的な例は、1回2~3時間。平らではない地面を歩くことで、体のバランス感覚や筋肉に良い効果を与え、新鮮な空気は活力を与えます」
「森を歩きながらベリーやきのこを探す行為には大きなリラックス効果があり、日常の忙しい生活で疲労していた脳を休ませます。風・水・鳥の声には、心を落ち着かせる効果があります」
「スマホやメールのお知らせ音、質問をしてくる同僚やクライアントから発せられる音は、脳の活動を邪魔しますが、自然音にはすぐに反応する必要もありません。森の中で邪魔されずに考え事ができることで、脳はたくさんの恩恵を得ています」
忙しい現代生活、スマホを眺めてばかりの毎日。SNSなどが普及し、私たちの暮らしが大きく変わり始めている今、自然の中でなにかに没頭するという瞑想行為は、今後より必要とされてくるのかもしれない。