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インドと比べればロシアも普通? 2つの新興大国の関係と比較

迷宮ロシアをさまよう
BRICSは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカという新興大国5カ国の協力枠組みで、それらの頭文字をとって名付けられている。ロシアは、欧米への対抗姿勢もあり、BRICSを重視している。(撮影:服部倫卓)

東方経済フォーラムで主役となったインド

毎年恒例の「東方経済フォーラム」が、9月4~6日という日程で、今年もロシア極東のウラジオストクで開催されました。プーチン政権肝いりの大イベントであり、ロシアおよびアジア太平洋諸国の官民のVIPが一堂に会して、ロシアの東部地域の開発、ロシアとアジア太平洋諸国との関係拡大について討議する舞台です。

東方経済フォーラムには、アジア諸国の首脳クラスも駆け付けます。日本の安倍晋三総理は、同フォーラムに毎年参加すると表明しており、本年ももちろん出席しました。しかし、今年に限っては、インドのモディ首相が完全に主役でした。初めて東方経済フォーラムに出向いたモディ首相は、プーチン大統領との親密振りをアピールし、両国の経済協力を演出して見せました。そのあたりについては、朝日新聞の「インド、なぜロシアに急接近? 共通していた警戒相手」という記事が的確に伝えていますので、ご参照ください。

筆者がとりわけ注目したのは、モディ首相が、インドはロシア極東の経済発展のために10億ドルの融資枠を設定し、それをインドの同地域への進出の足掛かりとすると表明したことです。沈滞が続く極東地域へのテコ入れは、プーチン政権が東方経済フォーラムに込めている主目的の一つであり、ロシア側はインドの申し出を「渡りに船」と受け止めたのではないでしょうか。

インドのムンバイにて、筆者ら日本の研究者グループに手を振ってくれた現地の少年たち。他人に簡単に笑顔を見せないロシアでは、お目にかかれない光景かもしれない。(撮影:服部倫卓)

インドはソ連時代からの友好国

社会主義陣営の盟主だったかつてのソ連邦にとって、インドは重要な友好国でした。ワルシャワ条約機構や経済相互援助会議(コメコン)に属しているような社会主義の衛星諸国を除けば、インドが最大の友好国だったかもしれません。なお、当時はインドも社会主義的な経済建設路線を採っていました。

ソ連と中国は、社会主義という体制を同じくしながら、対立し合う時代が長く続きました。一方、インドも、チベット問題、国境問題、パキスタン問題をめぐって、中国と対立。かつてのソ連とインドの友好関係は、中国という共通の敵の存在に裏打ちされたものでした。

ゴルバチョフ時代に、ソ連は中国との関係を修復。新生ロシアの時代となると、中国との関係が重要性を増していきます。2014年に発生したウクライナ危機を背景に、欧米との関係がこじれると、ロシアは中国との関係強化を軸とする「東方シフト」を発動。一方、冷戦体制の終結後、ロシアとインドの関係は希薄化し、インドは米国と接近。かつてのように、中国という共通の敵の存在がロシアとインドを結び付けるということは、一切なくなりました。

それでも、現下のプーチン政権としても中国への過度の依存は避けたく、インドの側にも米トランプ政権の理不尽なやり方を牽制したいとの狙いがあります。ロシア・インドのそれぞれの思惑が合致し、今回ウラジオストクで両国関係が大いにショーアップされたというわけです。

なお、現在のところ、露中の経済関係に比べれば、露印の経済関係ははるかに小規模です。貿易額について見ると、中国はロシアの貿易相手国として不動の首位の座にあり、2018年にはロシアの輸出入総額の15.7%を占めました。それに対し、インドはロシアの貿易相手国として17位にすぎず、ロシアの輸出入総額に占める比率はわずか1.6%です(参考までに、日本は10位、3.1%)。

インドの保有する武器の70%近くがロシア製と言われるように、ロシア軍需産業の市場として、インドはきわめて重要です。しかし、ロシアとインドが地理的に微妙に隔絶されていることもあり、武器以外の品目の貿易が、あまり発展を見ていません。今回プーチン大統領とモディ首相は、現状78億ドルに留まっている往復の貿易額を、2025年までに300億ドルにまで伸ばすとの目標を掲げましたが、果たしてどうなりますでしょうか。

インド随一の新興財閥「リライアンス」の総帥が建てた悪趣味で評判の悪い個人住宅(撮影:服部倫卓)

ロシアの特殊性を強調しすぎていた点を反省

筆者は、日本の研究者グループの一員として、昨年12月にインド最大の都市ムンバイでの現地調査に参加しました。ロシア・中国・インドといったユーラシアの新興大国を比較分析する研究プロジェクトがあり、その一環としてムンバイで現地調査を行ったものです。

私にとってインドへの訪問は初めてであり、見るもの聞くものすべて珍しく、大変に勉強になりました。特に、個人的に一番強く感じたのは、「これまで私はロシアのことを調査・研究していて、ロシアの特殊性を強調しすぎていたのではないか? しょせん、日本とロシアのことくらいしか知らないので、日本との比較だけで、ロシアは特殊だと決め付けてはいなかったか?」ということでした。言い換えれば、「もしかしたら、ロシアなど普通?」と思えるほど、インドは個性に溢れていたのです。

ビジネスに関連したことで言えば、たとえば銀行業の認可の問題があります。ロシアでは、外国の銀行がロシアで銀行業を行うためには、支店開設だけでは駄目であり、必ず現地法人の銀行をロシアに設立しなければなりません。十数年前に、この問題がクローズアップされた際に、我々業界関係者は、「ロシアは何と規制が厳しく不自由な国か」と感じました。

一方、インドでは、外国の銀行が銀行業務を行うに当たって、現地法人を設立する必要はなく、支店でOKだそうです。それだけをとれば、ロシアよりもインドの方が規制が緩やかでビジネスをしやすいということになります。しかし、インドはインドで、ビジネスの難題には事欠かないようです。

たとえば、「銀行がインド国内に支店を設ける際に、4店のうち1店は農村部に出さなければならない」という厄介なルールがあるそうです。また、インドの銀行業で一番頭が痛いのは、「優先分野貸付」と言って、農業・中小企業・輸出信用という3つの分野に一定比率を貸し付けることが当局から義務付けられている点だそうです。外銀にとって農業や中小企業の貸出し先を見付けるのは至難であり、必然的に輸出信用に集中することになり、それを開拓するのが大変とのことでした。理不尽なことの多いロシアでも、そんなややこしい話は聞いたことがありません。

思うに、我々がロシアで困難やトラブルに遭遇した時に、「とんでもない!」と過剰反応しがちなのは、ロシアが一応は広い意味での欧州に属しており、欧米と同じ白人が主体の国で、無意識のうちに先進国的な秩序を期待してしまうからなのかもしれません。インドで調査をしてみて、ロシアを研究する上でも、より多様な観点が必要だということを、痛感しました。

一般的に、ロシアは貧富の格差が大きな国と言われ、成金が巨万の富を享受する一方、一般庶民は低所得に喘いでいるといったことが指摘されます。しかし、インドでの見聞によれば、彼の国の貧富の格差は、ロシアの比ではないようです。ムンバイで、財閥の高層ビルやその総帥の邸宅などが威容を誇るすぐそばに、スラム街が広がっているようなコントラストは、きわめて印象的でした。しかも、インドの場合は、貧富の格差がカースト、民族・宗教などの属性によって固定されている面があります。ロシアであれば、国民ははるかに同質的であり(30年ほど前までは等しくつましいソビエト人だった)、低所得者も頑張れば上昇できる余地がまだあるように思います。

さて、インドで調査をしてみて、もちろんロシアとの違いだけでなく、共通点も見て取れました。興味深いことに、インドは意外に生産コストが高く、外国向けの輸出加工基地にはなりえないので、外国企業による現地生産は基本的にすべてインド国内市場向けであるということでした。この点は、ロシアとまったく同じなので、「なるほど、ロシアだけではなかったのか」と、思わず感慨にふけってしまいました。

ただし、人口12億人のインドと異なり、人口1.5億人足らずのロシアは、国内市場だけを目当てに外資が現地生産に乗り出す、ぎりぎりの市場規模と言えるかもしれません。ロシアは石油価格によって経済が乱高下するので、それも外資泣かせです。成長力が弱く不安定なロシア経済は、過去10年間、常に年率5%以上の成長を遂げているインド経済と比べると、だいぶ見劣りします。