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なぜロシアはビジネス大イベントが好きなのか?

迷宮ロシアをさまよう
数年前に開催された日露投資フォーラムの模様。(撮影:服部倫卓)

ロシア経済の七不思議の一つ?

ロシア経済の七不思議。そんなものがあるかどうかは知りませんが、もしあるとすれば、必ずその一つに入るだろうという疑問があります。「なぜロシアはビジネス大イベントが好きなのか?」という謎です。

もちろん、大規模な経済・ビジネスイベントはロシア特有のものではなく、世界に様々なものがあります。一番有名なのは、毎年1月にスイスのダボスで年次総会が開催される「世界経済フォーラム」でしょう。ロシアの政財界の要人たちは、いつの頃からか、世界経済フォーラムの総会に足繁く通うようになりました。そして、それのみならず、ロシア国内で、世界経済フォーラムを真似たようなフォーラムを多数開催するようになりました。

そうした中で、ロシアにおいて最も高い格式を誇るのが、毎年5月または6月に北の都サンクトペテルブルグで開催されている「ペテルブルグ国際経済フォーラム」です。本年も、このほど6月6日から8日にかけて、この大イベントが開催されたところです。

あまたあるイベントを整理

ロシアにあまたある経済・ビジネス関係の大イベントの中で、頂点に位置するのが、このペテルブルグ国際経済フォーラムです。「ロシア版ダボス」の名に恥じない規模と格式を誇り、プーチン大統領も毎年必ず出席します。その規模が年々拡大していることは、下のグラフからもお分かりいただけると思います。

近年、ペテルブルグに次ぐ大イベントに成長しているのが、9月に極東のウラジオストクで開催される「東方経済フォーラム」。この会議は、ロシア極東地方の開発と、アジア・太平洋諸国との関係強化という、明確なテーマを掲げています。これにも必ずプーチン大統領が駆け付け、日本の安倍総理をはじめとするアジア諸国の首脳も常連となっています。

それに次ぐステータスを持つのは、おそらく2月にソチで開催されている「ロシア投資フォーラム」でしょう。以前は9月または10月でしたが、東方経済フォーラムとの時期的な重複を避けるためか、2017年から2月開催に変わっています。こちらの方は、プーチン大統領ではなく、メドベージェフ首相のイベントと位置付けられています。

このほか、年初に経済関係のオピニオンリーダーが集う「ガイダル・フォーラム」、東シベリアを舞台に春に開かれる「クラスノヤルスク経済フォーラム」、7月にエカテリンブルグで開催される産業展示が主体の「イノプロム」、年末にモスクワで開催される「Russia Calling!」といったあたりが、有名な経済・ビジネス関係の大イベントです。また、プーチン政権の肝いりで毎年10月に開催されている「バルダイ・クラブ」も、主題は政治および国際関係ながら、経済政策面でも大きな影響力を有しています。

州レベルの経済フォーラム、個別テーマごとのイベントなどは、枚挙に暇がありません。また、露日をはじめ、特定のパートナー国を対象とした二国間のビジネスイベントも盛んです。

ロシアでイベントが乱立する原因

それでは、冒頭の疑問に戻って、なぜロシアではこれほどまでに経済・ビジネス関係の大イベントが盛んなのかを考えてみたいと思います。

まず、やはり政権当局によるパフォーマンスという側面がかなり大きいと思います。最高指導者が経済の課題に向き合い、トップダウンで問題解決に当たる。外国パートナーとの交渉で、投資を呼び込む。一連のイベントは、為政者によるそうした取り組みを国内向けに誇示する演出装置になっているのでしょう。もちろん、どこの国にでもある話だとは思いますが、ロシアではその傾向がとりわけ顕著です。

また、ここ数年のビジネスイベントでは、外国の政治家や大物財界人の参加を取り付けることが、とりわけ重視されてきました。5年前に発生したウクライナ危機をめぐり、ロシアと欧米が経済制裁を応酬する事態となり、ロシアは国際的に孤立しました。そうした中、欧米の大企業の幹部がロシアのビジネスイベントに参加してくれれば、ロシアの政権当局としては、「欧米企業はロシアとの協力を望んでいる。悪いのは欧米諸国の政府だ」というスタンスをとることができます。また、たとえば中国の首脳が来てくれれば、「欧米との関係が悪くても、ロシアにはアジアに有望なパートナーがいる」というアピールができるわけです。

一方、ロシアで大規模なビジネスイベントが定着したため、それがカネのなる木と言おうか、一種の利権構造になりつつあるということも感じます。ビジネスイベントへの参加費は非常に高く、数千人単位の参加者を動員すれば、相当な規模のお金が動くことになります。

それでは、ロシアの実業家たちはどのような動機でビジネスフォーラムの類に参加するのでしょうか? 彼らは政権当局によって動員されている面もありますが、基本的には自らの意思でビジネスイベントに馳せ参じているようです。ただ、各セッションの様子を眺めてみると、ロシア人の参加者はあまり真面目に話を聞いている様子はなく、「この人たちは一体何のために高い参加費を払っているのだろうか?」と疑問に感じることがあります。

これに関し、筆者の知り合いのロシア人が指摘していたところによると、ロシア人のイベント参加者は、会議室で行われている公式的なセッションよりも、会議の前後の時間の雑談、ロビーでの立ち話、レセプションでの会話といった非公式なコミュニケーションを重視しているのではないかということでした。ロシア企業にはワンマンオーナー・経営者が多く、即断即決ができるので、ロビーでの立ち話が、重要な経営上の決定に繋がることが、充分に考えられるというのです。そうした決定権のあるVIPたちが一堂に会し、お互い自由に接触できるという点にこそ、ロシアにおけるビジネスイベントの意義があるのではないかということでした。

そうして考えると、日本の大企業の代表者がロシアのビジネスイベントに出向いていくと、ちょっと苦戦しそうですね。日本人は、公式セッションで真面目に原稿を読み上げるのが身上です。ロビーやレセプション会場でロシア人相手に当意即妙のやり取りができるとは思えず、増してやその場で経営判断などできません。

日露のビジネス会議の一こま(撮影:服部倫卓)

イベントが自己目的と化す弊害も

2014年にウクライナ危機が起きると、同年5月のペテルブルグ国際経済フォーラムでは、米国政府がそのボイコットを主導し、日本を含む諸外国も軒並み参加を自粛しました。同年9月のソチ・フォーラム2014も、外国人の少ない寂しい会議になりました。外国の政府や企業にとってみれば、ロシアのビジネスイベントに参加するか否かが、一種の「踏み絵」のようになってしまいました。

このあたりから、「国の威信をかけてビジネスイベントを成功させる」というプーチン政権の姿勢が、より一層明確化したように思います。2014年以降のウクライナ危機やロシアの景気低迷にもかかわらず、上のグラフで見たように、ペテルブルグ国際経済フォーラムの参加者は拡大の一途を辿っていますし、会議の成果である署名文書の数も増え続けています。

ただ、上述のように企業がビジネスイベントを重視している面もあるとはいえ、政権当局が相当な動員をかけなければ、参加者がこれほど右肩上がりに伸びることはないでしょう。また、署名文書の中身も、当局から発破をかけられ、まだ具体化していないプロジェクトを見切り発車で発表したり、何度も同じ合意を繰り返したりといった形で、数を稼いでいる面が強いのではないでしょうか。

日本企業にとってみれば、年に何度もあるロシアのビジネスイベントをこなすだけでも大変ですが、そのたびに「成果」を求める天の声がどこかからともなく聞こえてきて、苦労されていることと思います。ビジネスイベントは、為政者ではなく、ぜひとも企業の利益に資するものであってほしいものです。