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正念場を迎える日本とロシアの経済関係

迷宮ロシアをさまよう
5月のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムの枠内で開催された「日ロビジネス対話」の模様。安倍総理の発言に聞き入るプーチン・ロシア大統領(撮影:中居孝文)。
5月のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムの枠内で開催された「日ロビジネス対話」の模様。安倍総理の発言に聞き入るプーチン・ロシア大統領(撮影:中居孝文)。

政治主導の経済協力

2012年に第2次内閣を発足させた安倍晋三総理は、ロシアとの間で北方領土問題を解決し、平和条約を締結することに強い意欲を示してきました。それに向けた関係強化の一環として、ロシアとの経済協力を積極的に推進しています。

2016年5月に訪ロした安倍総理は、プーチン大統領との会談において、8項目の経済協力プランを示しました。具体的には、①健康寿命の伸長、②快適・清潔で住みやすく、活動しやすい都市作り、③中小企業交流・協力の抜本的拡大、④エネルギー、⑤ロシアの産業多様化・生産性向上、⑥極東の産業振興・輸出基地化、⑦先端技術協力、⑧人的交流の抜本的拡大、という8点です。

両国の経済関係拡大に向け、大規模なイベントが相次いでいます。2016年12月にプーチン大統領が訪日した際には、両首脳も出席して「日ロビジネス対話」が開催されました。2017年7月にロシアで開催された総合産業博覧会「イノプロム2017」では、日本は「パートナー国」と位置付けられました。

2017年9月にウラジオストクで開かれた「第3回東方経済フォーラム」にも両首脳が駆け付け、「日ロラウンドテーブル」というセッションが催されました。2018年5月の「第22回サンクトペテルブルグ国際経済フォーラム」では、日本はゲストカントリーに選ばれ、これにもやはり日ロ両首脳が駆け付けています(冒頭の写真はその時の様子)。

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機運に反し、伸び悩む貿易

ところが、残念なことに、ロシアの貿易相手国としての日本の地位は、ここに来て、かえって低下しています。上の表は、ロシア側の貿易統計にもとづいて、過去5年ほどの同国の主要貿易相手国をまとめたものです。日本は、2016年までは7位をキープしていましたが、2017年には9位へと順位を落とし、ロシアの輸出入全体に占めるシェアも3.1%という近年にない低い数字に落ち込んでしまいました。最新の2018年1~5月の統計を見ても、傾向はまったく変わっていません。

日本が伸び悩むのを尻目に、中国などは首位の座をますます確固たるものとしています。また、筆者がショックを受けたのは、2017年に日本が東アジアのライバルである韓国に抜かれてしまったことです。ロシアの貿易相手国として、日本が韓国の後塵を拝するのは、これが初めてでした。さらに、ロシアと抜き差しならない対立関係にあるはずの欧米主要国が、ロシアとの貿易で日本より上を行っているのを見ると、狐につままれたような気分にさせられます。

むろん、経済がグローバル化・高度化した現在では、二国間のモノの貿易統計だけで、日ロ経済関係の発展度合いを測ることはできません。日系企業のマレーシア工場から製品がロシアに輸出されたら、それはマレーシアからロシアへの輸出としてカウントされます。また、日系企業がロシアでの現地生産に乗り出せば、その分、日本からの完成品の輸出は減ることになります。ただ、いずれにしても、二国間の貿易統計は最も基礎的なバロメーターであり、それが掛け声ほどには伸びていないことは事実なのです。

現状で、ロシアとの経済関係拡大に官民挙げて真剣に取り組んでいるような国は、日本くらいだと思います。にもかかわらず、実際の貿易が思うように伸びていないのは、皮肉なことです。

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政策的な促進策には限界も

日本側の統計にもとづいて、最新の2017年の日本の対ロシア輸出・輸入の商品構造を示すと、上の図のようになっています。輸出では、自動車関係(青で示した部分)が全体の55.4%を占めています。

輸入では、石油・ガス・石炭というエネルギー(濃い赤で示した部分)が全体の69.3%を占め、残りは金属(アルミニウム、パラジウム等)、魚介類、木材といった資源・素材系の品目がほとんどです。

日ロ貿易の柱となっている乗用車輸出は、別に日ロ両国の政府がバックアップしたわけでもないのに、需要と供給が見事に合致して、大きなビジネスに成長したものです。一方、日本の対ロシア輸入の中心である石油・ガスは、自動車などと比べると、国家の関与がはるかに大きい分野です。とはいえ、日本側にロシア産エネルギーに対する旺盛な需要があるからこそ、日本の対ロ・エネルギー輸入もまた拡大を続けてきたということができます。

ここで改めて、前述の日ロ経済協力8項目を見てみましょう。この中には、④のエネルギーという既存のビッグビジネスも含まれています。しかし、全体としては、ロシア側の国家的な課題、すなわち経済・社会の近代化、産業・輸出構造の多角化、極東開発といったアジェンダに寄り添った内容になっています。これらの分野での協力は、両国の経済関係の層を厚くし、分野を多様化する上では、効果が大きいと考えられます。プーチン政権側も8項目プランを高く評価しているとされ、平和条約締結に向けた環境醸成に繋がることが期待されます。しかし、そうした新たな協力分野が、自動車やエネルギー・金属といった、圧倒的な市場性に裏打ちされた既存のビジネスと肩を並べるほど大きく成長できるかと言えば、そこまでは難しいのではないでしょうか。

アクセルとブレーキの狭間で苦悩

他方、日本がロシアとの経済協力を推進してきたここ数年は、ウクライナ危機に起因する国際緊張が高まった困難な時代でもありました。2014年以降、欧米はロシアに対する経済制裁を打ち出し、日本も共同歩調をとりました。ロシアも、欧米からの食品輸入を禁止する逆制裁を発動しています。

日本の対ロシア制裁は名目的であり、それ自体は日ロの経済関係に大きな打撃を及ぼすものではありません。ロシア側も、日本の立ち位置を理解してか、日本については食品禁輸措置の対象から外しています。それでも、日本が対ロ制裁の隊列に加わっていることは、紛れもない事実です。また、制裁にはアウトかセーフか微妙なグレーゾーンがあり、立場の弱い日本企業は米国に配慮してロシアビジネスを過大に自粛してしまいがちです。

言ってみれば、日本はここ数年、ロシアとの経済関係で、アクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態でした。世界の中で日本の置かれた状況ゆえ、やむをえないとはいえ、ちぐはぐだったことは否めません。

この6月4日にはロシアで、「米国およびその他の諸外国の非友好的行為に対する対応(対抗)措置について」と題する連邦法が成立しました。ロシアと欧米の制裁合戦が収束する見通しは立っておらず、経済をテコにロシアとの二国間関係に突破口を開きたい日本にとって、状況は厳しいままです。