核の問題に詳しい米シンクタンクのシニアフェローであるロバート・アイコードのオフィスを7月上旬に訪ねた。話の途中、アイコードが懐かしむようにつぶやいた。
「昔はどこの国に行っても、米国による『アトムズ・フォー・ピース(原子力の平和利用)』のプログラムに参加した役人に会ったものだ」
アイコードは米政府の元高官。米国が第2次世界大戦後、欧州や日本など各国に原子力技術を提供し、人材を育ててきたとの自負が見えた。実際、米国とソ連による冷戦下、世界の核不拡散や核セキュリティーの規範が、米国主導で形作られたのは間違いない。
米国から見れば、いまロシアや中国がやろうとしていることは、米国の「覇権」に対する挑戦に映る。中ロの原子力産業は国から手厚い保護を受け、原発輸出を伸ばしていく方針。アジアやアフリカ、南米などの大国に、多額の資金援助などを絡めてセールスする手法は、国の外交戦略との一体感が否めない。米国があきらめた高速増殖炉の実現も目指しており、先端技術でも主導権を握る可能性がある。
インタビューに応じた米国務次官補のクリストファー・フォードは、トランプ政権内でそんな中ロの動きに最も警戒感を示す一人。対抗するように、米国の原発輸出を容易にする新たな外交構想も発表した。米中の貿易摩擦も影響しているのだろうが、将来、米国の覇権が揺らぐことへの危機感も感じた。核エネルギーの覇権をめぐるせめぎ合いは、これからも続きそうだ。
そんな中、日本がどうすべきか考えずにはいられなかった。東日本大震災での原発事故の被害の大きさを考えれば、安易に原発を推進するのが問題外なのは言うまでもない。
甚大な被曝のリスクや放射性廃棄物の処分など、多くの問題を抱える原発がなくても十分な電力が手に入るなら、それが理想だろう。再生可能エネルギーは技術革新もあり、世界中で急速に広がっている。米ネバダ州の砂漠など様々な場所で、広大な太陽光発電所や風力発電の巨大な風車を見た。
一方で、日本が戦後培ってきた原子力技術を簡単に手放していいのか、という論点もある。中ロの新しい原発だけでなく、先進国で廃炉が進んだとしても、これからも「核」のリスクから完全に離れることはできない。核セキュリティーや廃炉技術など、日本が世界に貢献できる分野もある。「脱原発」を決めたドイツも研究は続けている。
すぐに結論を出すのは難しいかもしれない。だが、いまは政府や電力業界も、原発に反対する市民を交えた丁寧な議論を避けているようにも見える。50年後、100年後を見据え、悩みながらでも開かれた議論をしていく必要があるだろう。