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日米安保条約はどちらにとって「アンフェア」か

ミリタリーリポート@アメリカ
海上自衛隊横須賀基地で海自の護衛艦かがに乗艦し、記念撮影に臨むトランプ米大統領夫妻と安倍晋三首相夫妻=2019年5月28日、代表撮影

トランプ氏の言葉は「暴言」なのか

確かにトランプ大統領の言動には、以下に指摘するように重大な事実誤認がある。その点に関しては自らの無知をさらけ出した「噴飯ものの暴言」とみなすことはできる。ただ、あくまでも大統領再選に向けた、日米安保には何の関心もない大多数の米国民向けのプロパガンダ的発言とも考えられる。

とはいえ、いかなる同盟関係でも「自国に有用ではない」と判断すれば、同盟から離脱するのは当然だ。つまり、トランプ大統領が日米安保体制を「アメリカにとってアンフェアで、各種負担が大きすぎ、国益にかなっていない」と判断すれば、たとえそれが誤った根拠に基づいていたとしても、暴言と非難することはできない。

軍事同盟はもちろんのこと、一般にあらゆる国家間の同盟関係というものは自国の国益を維持するために結ばれるもので、慈善事業ではない。同盟関係は一種の契約であり、親子関係のように断ち切りたくても完全に解消することが困難な関係ではない。現に、日米安保条約にも第10条で、同盟終結の手順が定められている。

したがって、アメリカが第10条に基づき、日米同盟の終結を通告してくる可能性がないわけではない。もちろん日本側から同盟を廃棄することも可能だ。いずれにせよ、日米の軍事同盟が未来永劫続くものと考えるのは大きな誤りだ。日本としては終結通告がなされる可能性もあることを前提に、国防戦略を立案しておくべきだ。さもなければ日本国民が路頭に迷うことになりかねない。

ところがトランプ大統領が日米安保条約の廃棄についてツイートするやいなや、日本側からはもっぱら「トランプの暴言」といった声が湧き上がった。これはまさに日本側は日米同盟終結など全く想定していない何よりの証左である。「アメリカに頼り切る」ことが防衛戦略だと考えている日本の現状からすると、致し方ないことかもしれない。

日米安保上のアメリカの義務

さて、トランプ大統領が「アンフェア」だと批判する日米安保条約の中身はどうか。トランプ大統領の発言に関連して日本政府や多くのメディアは「アメリカには日本を防衛する義務があり、その対価として日本はアメリカ軍に基地を始めとする各種施設を提供している」と説明している。しかし、日米安全保障条約第5条がアメリカに「防衛義務」を課しているという表現を無批判に使用するのは正確性を欠いている。

一般的に「義務」という語には、法律や規則や契約などに基づき「しなければならないこと(あるいはしてはならないこと)」という意味がある。したがって日米同盟の文脈で「防衛義務」とういうからには「日米安保条約が適用された場合には、アメリカは条約という国家間の約束に基づいて、必ず日本を防衛しなければならない」ということになる。そして、当然のことながら武力による侵攻に対する防衛である以上は「アメリカは何らかの形で軍事力を行使して反撃する」という意味を持つことになる。

もしこれが日米安保条約第5条ではなくNATO条約第5条であれば、このような理解で何の問題も生じない。

NATO条約第5条:「条約締結国(1カ国に対してでも複数国に対してでも)に対する武力攻撃は、全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃が発生した場合、全締結国は国連憲章第51条に規定されている個別的自衛権または集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し平和を維持するために必要と認められる軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する」

すなわち、NATO条約適用領域内(第6条で具体的に規定)で締結国に対する武力攻撃が発生した場合には、攻撃を受けた国は当然ながら国連憲章第51条にいう個別的自衛権を発動して反撃するとともに、全ての条約締結国は国連憲章第51条にいう集団的自衛権に基づいて救援軍を派遣したり、各種軍事支援(たとえば偵察情報の提供や武器弾薬の供給)を実施したりして、被攻撃国を支援しなければならない「防衛義務」があるのである。

このようなNATO条約第5条に比べると日米安保条約第5条は、条約締結国間の軍事的結びつきという観点においては、かなり曖昧であると言わざるをえない。

日米安保条約第5条:「各締約国は、日本国の施政下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和および安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定および手続きに従って、共通の危険に対処することを宣言する」

すなわち、日米安保条約が発動された場合にはNATO条約と異なって「自国の憲法上の規定ならびに手続きに従って共通の危険に対処するよう行動する」と規定されている。そして、やはりNATO条約と異なって個別的自衛権または集団的自衛権を行使するために「軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取る」とは定められていない。

このようにNATO条約と違って日米安保条約は、被攻撃国である日本に対する支援に関しては極めて曖昧な表現に止まっており、アメリカが軍事的に何をなすべきかは全く不明と言わざるを得ない。もし尖閣諸島領有権問題で日中間に軍事衝突が勃発した場合、アメリカが偵察分野での援助をするのか、自衛隊への補給活動を実施するのか、それとも軍事的支援はなにもしないのか、日米安保条約第5条の規定はあまりにも不明瞭である。

「日本有事の際には間違いなくアメリカが日本救援軍を差し向けるに違いない」と考えているのは日本側の勝手な思い込みであり、自己の願望を現実と混同してしまっている結果と考えざるを得ない。

アメリカ合衆国憲法では戦争実施の権限は連邦議会が握っている。ただし「戦争権限法」(厳密には連邦議会による「戦争権限決議」という)により60日以内に連邦議会の承認を受けることを条件として大統領責任によって軍隊を動かすことも可能となっている。

したがって、大統領はじめ政府首脳が「アメリカの若者の血を流しても、日本防衛のために軍隊を投入すべきである」と判断した場合にはアメリカ軍を日本防衛のための戦闘に投入することができるのである。しかし連邦議会が同様の判断をしなければ、アメリカ軍は撤退しなければならない。そのような場合には、開戦を即断し軍隊を送り込んだ政権は大打撃を受けることになるのである。したがって大統領は、連邦議会そしてアメリカ国民世論の動向を勘案して日本に対する軍事的支援を行うか否かを判断せざるを得ないのだ。

ちなみに、2年ほど前になるが、アメリカ国民に対して実施された「どの国がアメリカにとって同盟国、友好国そして敵国であると思いますか?」という調査において、日本はアメリカ国民が同盟国と考えている国々のトップ10には入っていないという結果が示されている。

このようなアメリカの一般国民の認識状況では「日本有事に際してはアメリカ政府がほぼ自動的に日本に援軍を派遣する」という状況が現実になると考えるのは、あまりに手前勝手な思考法と言わざるを得ない。

ようするに、尖閣諸島にかぎらず日本に対する武力攻撃が勃発した場合、自動的に防衛のための戦闘を開始する自衛隊と違って、アメリカ軍が「自動的に」日本防衛のために戦うことはありえない。アメリカ政府、連邦議会、そして究極的にはアメリカ国民世論が「日本のために少なからぬアメリカ将兵の血を流し、多くの武器弾薬装備を損耗し、多額の戦費を支出する」ことを支持した上で、そして場合によっては「アメリカが中国との全面戦争に突入しても構わない」あるいは「国際社会が第三次世界大戦に巻き込まれても致し方ない」と考えた上で、はじめて日本を防衛するための軍事力が投入されるのである。

以上のように、日米安保条約はNATO条約と違い、日本に対してはもちろんアメリカに対しても「防衛義務」を課しているわけではない。アメリカが日本を防衛するために軍事力を行使するのは、あくまでアメリカ合衆国憲法や戦争権限法などに基づき、最終的には米連邦議会の判断に委ねられているのだ。すなわち「防衛義務」ではなく「任意の日本防衛戦」なのであり、日本側の願望と現実とを混同して「防衛義務」という表現を用いることは慎まなければならない。

日米安保上の日本の義務 

住宅街が間近に迫る普天間飛行場に駐機するオスプレイ=朝日新聞社撮影

アメリカが「防衛義務」を負っていると単純には言えない状況なのに対して、日本は日米安保条約によって「米軍に基地や各種施設を設置するための土地を提供する義務」(以下、「土地提供義務」)を負っているのだろうか?答えは次の通りだ。日米安保条約第6条ならびにそれを具体的に強化するための日米地位協定により、疑いの余地なく日本は「土地提供義務」を課せられている。

日米安保条約第6条は「アメリカ合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される」と規定し、日本は米軍に土地を提供しなければならないのである。

そしてこの第6条の施行規則としての日米地位協定で「日本防衛のための米軍の活動拠点」ならびに「極東での米軍の活動拠点」として、アメリカは日本全土の《任意の場所》に基地をはじめとする各種施設の設置を要求できると解釈されている。

それだけではない、日米安保条約第6条を根源とする日米地位協定では「土地提供義務」にとどまらず、様々な治外法権的特権(犯罪逮捕訴追刑執行の米側優先権、損害補償の免責、米軍による航空管制優先権、米軍機の自由移動権、日本側の入国管理権放棄、日本の公共サービスの優先的利用権など)を日本に駐留する米軍関係者たちに付与しているのだ。

トランプ大統領の友人、安倍首相の責務

こうした条約のどこが、トランプ大統領が言うような「アメリカにとってアンフェアな条約」なのだろうか?

アメリカは自動的に日本を防衛する「防衛義務」など負っておらず、日本側が片務的に「土地提供義務」を負っているのだ。それに加えて、アメリカ軍関係者に治外法権的特権を与え、「思いやり予算」という条約外の金銭的支出までしている。まさに日本にとってこそ、江戸時代末期の安政5年(1858年)に結ばれた日米修好通商条約に勝るとも劣らない現代版不平等条約そのものである。

このようにトランプ大統領が言うところの「日本にとっては『タダ乗り』に近く、アメリカにとってはアンフェアな同盟体制だ」という主張が誤りであることは明白だ。安倍首相が本当にトランプ大統領の親友ならば、断固とした態度で、かつ理路整然とトランプ大統領に発言の撤回を求めなければならない。