ロシアはアフリカ各地で軍事的影響力を着々と拡大しており、武器の販売や安全保障協定の締結、不安定な国や独裁的指導者のための軍事訓練などを増強し、西側当局を警戒させている。
中央アフリカ共和国では、ロシア人が大統領の国家安全保障問題顧問に就いているが、ロシアから軍事訓練の指導者を雇い武器を買い入れるために金とダイヤモンドの採掘権を売っている。ロシアはまた、リビアで政府と広大な石油市場を支配しようと戦っている元将軍を後押しすることでNATO(北大西洋条約機構)の地位の確保を図っている。
2018年の春には、サハラ砂漠以南の5カ国――マリ、ニジェール、チャド、ブルキナファソ、モーリタニア――は過激派組織「イスラム国」やアルカイダと過重な戦いを強いられている軍と治安部隊への支援をロシアに要請した。
冷戦下の東西対立にあって、ロシアはアフリカに食い込んでいたが、ソ連の崩壊後、大部分が大陸から撤退した。しかし、ここ2年の間、ロシアはモザンビークやアンゴラといった旧ソ連時代の軍事支援国との関係を復活させ、他の国々とも新たな結びつきを築いている。ロシア大統領のウラジーミル・プーチンは今年の後半、ロシアとアフリカ諸国の首脳会議を主催する予定だ。
アフリカ大陸におけるロシアの軍事的影響力の拡大は、過去の栄光を取り戻したいというプーチンの野望を反映している。同時にそれは、可能であればどこでもいつでも、アフリカに物流や政治的な利得をなんとか確保しようというご都合主義の戦略も例示している。
「ロシアはますますやっかいな存在になっており、アフリカではより軍事的なアプローチをとっている」。米国防総省のアフリカ軍司令官の将軍トーマス・ワルドハウザーは米議会で3月、こう述べた。
旧フランス植民地の中央アフリカで2018年、ロシア人ジャーナリスト3人が何者かに殺害された事件は、ロシアがアフリカ大陸に戻ってきたことに目を向けさせた。殺されたジャーナリストたちは、ロシア人の元情報将校が設立し、プーチンの仲間とも関係がある民間の軍事請負業者「ワグナー・グループ(Wagner Group)」の活動を取材していた。ロシアは18年の声明で、175人の訓練指導員――米国防総省の担当者や西側のアナリストたちは、彼らはワグナー・グループに雇われていたとみている――が中央アフリカの兵士1千人以上を訓練したと述べていた。同国は2012年以来、暴力に悩まされてきた。
「ロシア政府とロシア系の民間軍事請負業者はアフリカの最も脆弱(ぜいじゃく)な政府のいくつかを武装化し、独裁的指導者たちを後押ししている」とジャッド・デバーモントは言う。米ワシントンのシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」のアフリカ問題担当部長だ。「こうした関与は現在進行中の紛争地帯の状況を悪化させる恐れがある」とも指摘した。
18年の後半、米政府はアフリカに対する経済および安全保障政策を刷新し――アフリカ大陸における事業資金の活用機会を増やす計画を含む――、行政担当者たちは大陸各地で計画への支持集めを展開した。米国務副長官のジョン・サリバンは3月、アンゴラの首都ルアンダで「主権国家に影響力を及ぼすため、ロシアは安全保障や経済の連携関係も含め、威圧的で、不道徳で、秘密の手段をしばしば使っている」と警告した。
昨年12月、ドナルド・トランプの大統領補佐官(国家安全保障問題担当)のジョン・ボルトンは、アフリカにおける米国の新戦略について、「大国」競争であり、中国やロシアへの対抗策だと説明した。
米軍は、アフリカ大陸には比較的少ない勢力しか展開していない。約6千人の米兵と1千人の国防総省の文官やさまざまな任務を帯びた契約従業員が主に現地の兵士の訓練や軍事演習にあたっている。
ロシア政府は、アフリカ大陸での米国の援助や中国の広範囲な投資には太刀打ちできない。だが、アナリストたちが言うには、ロシアはアフリカでの前進の機会と必要性の両方に突き動かされている。
ワシントンの調査機関「戦争研究所(ISW)」の分析によると、ロシアは軍部隊のための戦略的な基地を求めており、それは地中海におけるリビアの港湾、紅海におけるエリトリアやスーダンの海軍後方支援拠点などを含む。
ロシアは2018年、ギニア、ブルキナファソ、ブルンジ、マダガスカルとそれぞれ軍事協定を結んだ。これとは別に、マリの政府は、同国内に数千人規模のフランス軍や国連平和維持軍が駐留しているにもかかわらず、ロシア政府に対テロ戦での支援を求めた。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)の調べだと、2017年のロシアの武器輸出は全体の13%がアフリカ向けだった。ロシアはすみやかな配送や柔軟な条件を約束することでアフリカ各国に武器取引の誘いをかけている。アナリストたちの見方によると、この戦略は、米国や西側諸国から孤立しているため他に防衛協定を結ぶ代案がほとんどない国で最もうまくいっている。
アフリカ大陸におけるロシアの武器販売全体の80%近くが対アルジェリアだ、と米国防総省の担当者は言っている。また、米国の同盟国であるチュニジアも情報や対テロ戦、エネルギーの分野でロシアと緊密な関係を結んでいる。ブルキナファソの場合は2018年に、ロシア製の軍事輸送ヘリコプターと空中発射式兵器の配送を受けた。
米国の忠実な同盟国のエジプトもロシア製武器の固定客になっている。モスクワが拠点の新聞「コメルサント(Kommersant)」が3月に報じたところによると、エジプトは2018年の後期、ロシア製のジェット戦闘機SU―35を20億ドル相当買い入れる契約に調印した。
「ロシアは多くのアフリカ諸国と軍事技術協力計画を結び、それぞれの国軍が近代的な兵器を装備する手助けをしている」とする声明をワシントンのロシア大使館は出している。「これらの事業はいずれも国際的な規範や規則に沿って実施されている」との声明だ。
ロシアと中央アフリカとの関係は、とりわけ西側の注目を集めた。両国は2018年に軍事協力協定に調印し、ワグナー・グループの傭兵部隊が中央アフリカに姿を現し始めた。
「ロシアは武器の贈与を含む軍事協力を増大することで影響力を拡大し、市場や鉱物資源の採掘権を獲得してきたのだ」。これはワルドハウザーが3月に米下院の軍事委員会で述べた証言だ。「ロシアは、最小限の投資で、ワグナー・グループのような民間の軍事請負業者をテコに自分たちに有益な政治的かつ経済的な影響力を獲得している」とワルドハウザーは言うのだ。
米財務省は2年前、ウクライナのドネツクやルハンスク地方で親ロシアの分離主義者たちと一緒に戦うために、「PMCワグナー」として知られる傭兵会社が兵士を募って派遣していると非難して同社に制裁を科した。ワグナーの募集に応じた兵士たちはシリアにも送り込まれ、2018年2月、米軍との戦闘で死者が出たが、その数はおそらく数百人規模に達する。
ロシアの外務副大臣ミハイル・ボグダノフは3月、中央アフリカ大統領のフォースタン・アーシャンジュ・トゥアデラと会談し両国の協力関係の拡大について幅広く意見交換をした。ロシア外務省はウェブサイトに声明を掲載し、援助の増加は「このアフリカの友好国の国家的人材を育成し、国家の安全と安定を強固にする事業を含む」と述べた。
後日、フランスの高官はこの発表に冷ややかな反応を示した。フランス国防相フロランス・パルリはこのほどワシントンを訪問した際、「私たちがよく事情を知っている国である中央アフリカでロシアが影響力を増していることを非常に懸念している」と語った。
また、ロシアは新しい経済市場とエネルギー資源を求めており、そのために旧ソ連時代に良好だった国々との関係を復活させているケースもある。米国防総省によると、ロシアはアルジェリアやアンゴラ、エジプト、リビア、セネガル、南アフリカ、ウガンダ、ナイジェリアといった国々の石油やガスに主な関心を寄せている。(抄訳)
(Eric Schmitt)©2019 The New York Times
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